私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
61.インスリン治療と注射量
1. インスリン治療の必要な高血糖の人
糖尿病の治療は食事療法が基本である。しかし自分が糖尿病になっていることを知らずにいて、体がだるい、のどが渇く、就寝後に排尿に起きるようになった、などの症状が現れて医療機関を訪れる方もいる。このような人の中には血糖が300mg/dL以上になっている方もいる。
よく聞いてみると5年も前に健診で「糖が出ている」と注意されたことがあったが、自分としては何の苦痛もなく、仕事が忙しかったのでそのままにしていた、というのである。注意はされなかったのかと尋ねると、健診結果を受け取っただけ、とのこと。
政府ではこれから健診に力を入れて、結果の悪い人には、十分説明・注意をし、フォローアップするという方針が2. 血糖自己測定
3. インスリンの注射量
インスリンの注射療法の進め方には一定した方式はない。特に近年はインスリン製剤が多様化しているので、その中で手慣れたものを使用することになる。はじめにやりやすい方法を述べる。
ご承知のように、膵島のβ細胞からは絶えず少量のインスリンが分泌されている。そして食物をとるとその食物に応じた量のインスリンが分泌される。前者の絶えず少量分泌されているのを基礎分泌、食物をとったときに血糖の上昇に対応して分泌されるのを追加分泌と呼んでいた。
健常者で1日に分泌されるインスリン量は24〜37単位(平均31単位)(Genuth S、1973)で、超肥満の非糖尿病では114単位の例もあったという。このような健常者の成績をもとに、インスリンがほとんど分泌されていないと思われる糖尿病の人には1日体重kg当たり0.5〜0.7単位を注射すると言われている。
空腹時血糖200mg/dL以上の身長170cm、体重80kgの男性には0.6単位/kgとすれば48単位となる。そこで毎食前15単位ずつ1日3回計45単位の注射から開始する。この量であれば不都合が起こることはない。インスリン製剤も多くの種類があるが、超速効型インスリンにゆるやかな中間型インスリンが混合されたもの、ノボラピッド30ミックス、ヒューマログミックス50などがよいと思われる。
食事5〜10分前に15単位を皮下注射し、食事をとらせる。次の食事の前に血糖自己測定を行わせ、結果をノートに記入させる。やはり15単位を注射させる。このようにして1日3回注射し、3回食事をとる。
翌朝も血糖を検査し同様のことを繰り返す。4、5日しても血糖が下がらず、かえって上昇するようなときは医師に連絡をとり指示を待つ。おそらく食事量が多いか、血糖を上げるなんらかの疾患が起こっていたり、血糖を高くするプレドニンなどの薬剤を服用しているときはインスリンの効果が現れにくい。
4、5日して朝食前の血糖値が200mg/dL以下となり例えば185mg/dLになったとすれば、食後には250mg/dL以上になるであろうから、そのまま15単位1日3回続けていく。もし160mg/dL台になったら、低血糖がなければそのままの量の注射を続ける。120mg/dL台になったり、低血糖の症状が起こった場合には次回からインスリンを10単位に減量させる。もっとも恐いのは低血糖なので、低血糖については詳しく説明する(次回解説)。自動車を運転しているときに低血糖を起こすのがもっとも危ないのでその注意と対処法を具体的に話し理解させることである。
インスリンの注射手技については実際にやらせて、正しく実践できることを確かめておくこと。実際にインスリンや生食水などで注射させてみること。在宅自己注射の場合には医師と連絡がとれるようにしておくことが前提である。インスリン注射量の減量も医師の指示で行うことである。
4. 効果が現れたときの減量
低血糖が現れたり食前血糖が120〜140mg/dLまで改善した場合は、毎食前15単位ずつ注射していたのを10単位ずつに減量する。もし10単位に減量しても食前血糖が120〜140mg/dLのときは8単位1日3回にする。減量は急がずゆっくりやった方が治療の成功率がよい。
インスリン治療のやり方にはいろいろな方法がある。少量から増量する方法や、持効型インスリンを用いる方法などもある。次回から解説する予定である。
(2008年01月30日更新)
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