私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
50.合併症の全国調査
1. 骨減少症
帝人(株)は1918年東工業米沢人造絹糸製造所が帝国人造絹糸として独立し1962年より帝人となったが、1980年代に医薬品の開発も行い、骨代謝に関係する活性型ビタミンDの開発を行った。学術部の戸川晴雄氏は糖尿病をもつ人達の骨減少症に関心をもたれ、全国の主要な大学を訪れて、日本全国を網羅する研究組織を作りあげた。たいそう真面目で熱心な方であった。骨減少症の有無は両手の間にアルミニウム・ステップ・ウェッジを置いてX線写真を撮り、X線フィルムの右手第二中手骨の中央部のoptical densityを解析して骨量を求める井上教授(1983年)のMD法で行った。この方法は簡単でX線フィルムを送るだけで、検査操作は一定するという利点があり全国調査にはたいそう優れた方法であった。
筆者は当時、合併症に関心をもっていたので、この調査には強く関わった。全国の231施設が参加し、生後10カ月から91歳まで男性4,956名、女性5,613名、合計1万569名について検討できたことは大成功であった。この研究の報告書は公表されているが、筆者はどうしても20年後の現在でもなお多くの教えられることがあると思い、当時を回想しながら述べることにした。
X線フィルムでは井上教授らの中手骨指数、骨髄幅、center density index、side density index、骨塩量を示すindexから、200名の健常者より得られた男女別回帰直線からの偏値の程度により0〜3点の点数が付けられた。そして骨減少の程度を井上教授に準じて5段階に分けた。1. 骨減少症なし(0〜3点)、2. 初期(4〜6点)、I度(7〜9点)、II度(10〜12点)、III度(13〜18点)とした。この評点によって全国の成績をみると表1のような結果であった。
表1 骨減少症の調査結果
糖尿病, 30巻, 922頁, 1987年
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図1 骨減少症I〜III度の頻度の地域差 |
表2 骨減少症の全国調査成績の地域差
糖尿病, 30巻, 921頁, 1987年
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この成績により骨を丈夫にするにはなるべく日当たりの良い所にいること、日中散歩することが効果的である。多くの研究をみると骨量は春先に最も少なく、夏に日照により骨量が増し、秋には最も多くなる。1日に20〜30分間でも散歩をすることが勧められる。また室内にいても日の当る所が、ガラス越しでも効果はあるといわれている。
2. 糖尿病性合併症の比較
骨減少症の調査では糖尿病の他の合併症の調査も行った。表3にそれを示したが、一般人口の分布割合に比べると調査された糖尿病の人達の人数の割合は著しく違うことが分かった。網膜症でみると中部で最も多く、次いで九州、東北となっている。これは調査に関心をもった医師が多いか否かを示すものと思われる。表3の一番上段は末梢神経障害の頻度であるが、当時は診断基準が明確に示されていなかったので、腱反射の有無、自覚症状の有無などによって行われたと思われるが、糖尿病以外の原因による症状も混在しているので、この数字は参考にしかならないと思われる。
表3 全国調査による地域別合併症の頻度
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蛋白尿は間欠性と持続性に分けられているが、これもやはり日本海側に頻度が高く太平洋側に頻度がやや低いのがみられる。
このように骨減少症だけでなく細小血管障害の頻度も日照と関係があるということは興味のあることである。これには生活様式、経済も関連しているものと考えられる。このような全国調査はまた行う必要があると思われる。 (2007年02月20日更新)
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