私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
44.自律神経障害 (1)
1. 心拍変動試験の定量化
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また疾患の診療は発症や症候も定量的にみること、これにより症状が改善しているか、憎悪しているかを明確に、客観的に表現することに力をおいた。
そのひとつとして心拍変動を取り上げ、これを数量的に扱うことを試みた。幸いにも松戸市に本社のある(株)日本メディクスの方が試作してあげようと言ってくださり、心拍変動のタコグラムを作っていただいた。鈴木浩氏、鈴木修一氏が写真のような装置を作ってくださった。心電計の第2誘導のR-R間隔をmsecで測定しコンピュータで棒グラフ状にプリントアウトされ、beats/min.として記録するものである。
図1 ブロック ダイヤグラム
深呼吸の指示などが一定するように「大きく吸って、吐いて。大きく吸って、吐いて。・・・」などテープに吹き込んで、カセットで流した。 |
2. 交感神経と副交感神経機能を区別
及川登博士(現在、一関市で開業)と真山享博士(現在、東京聖路加国際病院前にて開業)が多くの試みを行ってくれた。その結果、深呼吸による心拍変動はアトロピン投与によりほぼ完全に消失したが、ベッドに仰臥位した状態からベッドから降りて立位になると血圧が下がり心拍数が増加する変動はアトロピンに影響されず、プロフラノロールによって著明に減少することを確かめた。この結果から深呼吸による心拍変は副交感神経が関与し、起立試験時の心拍増加には主として交感神経が関与することがわかった。すなわち交感神経障害と副交感神経障害を分けて診断できることがわかった。
図2 安静時、深呼吸時、起立時の心拍数変動曲線 |
図3 自律神経遮断薬投与前後の心拍数変動曲線 |
血糖はA群、B群では低血糖からの回復が速やかであるのに対し、C群、D群では回復が遅いのがみられた。このことは自律神経障害のある人では、低血糖になった場合の回復に時間がかかることを示している。
血糖を上昇させるグルカゴンは図4の右上のように、A、B群では急速に反応して上昇するのに対し、C、D群では分泌が低いことがわかる。膵ペプチドの反応もグルカゴンと同様でA、B群では急速に上昇し、C、D群では低値である。その右はコルチゾールの反応を示しているが、4群とも同じように反応している。左下の図はエピネフリン(アドレナリン)で右下がノルエピネフリン(ノルアドレナリン)である。ここではじめてD群が他の3群と離れて、分泌が悪いことがわかる。すなわち、自律神経障害が高度になって交感神経にも障害が及ぶと、低血糖になってもアドレナリンなどの分泌も少ないので、動悸や冷汗などの症状も起こらないことが理解される。
図4 糖尿病患者におけるインスリン低血糖時の内分泌反応の心拍変動成績による比較
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3. どちらが障害されやすいか
交感神経と副交感神経(迷走神経)とではどちらの神経が障害されやすいか。多数例について心拍変動試験を行ってみると、深呼吸試験だけが障害されている人がもっとも多く、起立試験だけが障害されて深呼吸試験が正常の人は極めて稀で、起立試験陽性の人は深呼吸試験も陽性なのが普通であった。これから、副交感神経(迷走神経)は障害されやすく、交感神経はかなり症状が進行してはじめて起こるものと理解された(表1)。したがってここまで進行しないように血糖コントロールに注意することが重要である。
4. 臨床像と心拍変動
他の合併症の有無と深呼吸時心拍変動の数値をみると表2のようになる。健常者では1分間に14.1拍の増加がみられるのに対し、糖尿病で自律神経障害の症状のある人では、わずか3.2拍しか増加しない。また増殖性網膜症のある人では4.6拍/分で蛋白尿のある人では5.1拍/分と変動が少ない。これらをみると自律神経障害も他の合併症と並行して進行することがわかり、血糖コントロールの重要性が理解される。
表2 深呼吸による心拍変動の変化(年齢40-59歳)
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※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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