私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
37.IAPで糖尿病はなおらないか
1. 合併症はprediabetesで起こっている
1950-60年代はprediabetesの研究が盛んであった。糖尿病の原因は不明であったので、「何らかの異常が血糖が高くなる以前に現れているのではないか」ということにみんなが関心を寄せていた。筆者らは夫婦糖尿病の子供のGTTと分娩歴、ERGやインスリン分泌を調べてprediabetesに異常が現れるが、そのときにはすでに軽度のGTT異常があることを指摘した。スペインの太陽海岸で開かれたシンポジウムで発表したのでファイザー社のDiabetes Outlook紙(Vol.6、No.2、1971)にも紹介された(図1)。
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その結果は健常者50名では1,079±13Å(M±SE)、prediabetes30名では1,353±22Åで1%以下の危険率で有意の肥厚がみられた。健常者では1,325Å以上の肥厚は50例中4例(8%)であるのに対し、prediabetesでは30例中16例(53%)と高率であった(Clin. Res 14、101、Trans. Ass. Amer. Phyens. 79、330、1966)。すなわち糖尿病になる人は発病前にすでに細小血管障害が始まっているというのである。
これより少し前にSipersteinらは糖尿病発症数日後の患者についても筋および腎生検を行い、毛細血管基底膜の肥厚が起こっていることを観察し報告した。1963年3月25-27日には、バージニア州Warrentonで糖尿病の細小血管障害に関するカンファレンスが開かれ、その記録も出版された(図2)。
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2. 高血糖ラットに合併症は起こらないか
正常ラットの中からGTTがいくらか異常なものを選抜交配して、GTT糖尿病型のラットを作るのに成功したことはNo.35に記した。ではそのラットに細小血管障害が起こるか否か、これが最も知りたいことであった。病理学教室で研究中の八木橋操六学士(当時)がこの問題に取り組んでくれた。腎糸球体毛細血管の基底膜の厚さは週数とともに肥厚するが、糖尿病ラットではその肥厚が早く起こり12週齢以後には有意に肥厚することが明確に示された。
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3. one-shotで糖尿病が消える
当時北海道大学におられた宇井理生教授はわれわれの高血糖ラットのことを聞きつけて、この物質が糖尿病を改善するかどうかをみて欲しいと話してこられた。宇井教授はインスリン分泌をはじめ多くの業績をあげておられることを知っていたので二つ返事で引き受けることにした。物は百日咳ワクチンより抽出したかなり高分子のもので、それを投与するとアドレナリンβ受容体を介するインスリン分泌が増強されるという説明であった。それを糖尿病ラットに注射したところが、3日後のGTTは正常型になった。糖尿病が消えたのである。そして35日になってもGTTはまだ糖尿病型にはならないことがわかった。こんな薬はこれまでみたことも聞いたこともなかった。もし本当に効果があるのであれば中等症の糖尿病はみな治るのではないだろうか。宇井教授と相談して治療の研究会を結成することになった。
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(2006年01月03日更新)
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