生活習慣病を予防し健康を保つために必要なエネルギーや栄養素の摂取量の基準を示す「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を、「日本人の食事摂取基準策定検討会」(座長:春日雅人・国立国際医療センター研究所長)がとりまとめ、公表した。
食事摂取基準は、健康な人に対するエネルギーと栄養素の摂取量の基準を示すもので、保健所をはじめとする健康増進施設などでの栄養指導や、学校給食や社員食堂などの栄養管理の基礎として使われる。栄養素の不足や過剰摂取による健康障害の予防、高血圧症や2型糖尿病など生活習慣病の一次予防などを目的としてい
る。
基準は最新の国内外の学術論文や資料をもとに策定され、5年ごとに見直される。今回公表された2010年版は2014年まで使われる。
エネルギー必要量:健康な高齢者は基準を引き上げ
エネルギー必要量は年齢によって変わっていく。今回の改定では、70歳以上でも健康な高齢者は活動的なため摂取基準を引き上げられた。6歳から11歳の児童は、活動状況に応じ3区分に分けた。
エネルギー必要量=総エネルギー消費量+組織の増減に相当するエネルギー
成人では体重を維持するために、一定量のエネルギー摂取が必要であり、それを下回ると体重が減少し、やせ、蛋白質・エネルギー栄養失調症をもたらし、上回ると体重の増加、肥満を招く。エネルギー摂取量とエネルギー消費量が釣り合っており、体重に変化のない状態がもっとも望ましいエネルギー摂取状態で、これを「エネルギー必要量」としている。
エネルギーの成人における役割は、体成分の合成・分解や体温の維持、最低限の臓器の活動を維持する基礎代謝や身体活動時の筋活動で消費される「アデノシン三リン酸(ATP)」を再合成すること。エネルギー必要量よりも過剰にエネルギーを摂取すると、消費されないエネルギー基質は、中性脂肪として主に脂肪組織に蓄積される。脂肪組織が増大すると、短期的には体重の増加と体脂肪率の増加をもたらし、長期的には肥満につながる。
一方、エネルギー消費量よりもエネルギー摂取量が低くなると、脂肪細胞における蓄積脂肪の低下や筋肉などの蛋白質量の低下につながり、体の機能や生活の質を低下させるとともに、感染症や一部のがんなどの発症リスクが高まると考えられてい
る。
減塩:ナトリウム目標量はより厳しく
栄養素については、摂取不足の有無や程度を判断するための指標である「推定平均必要量」と、これを補助するために「推奨量」が設けられ、これらがはっきりしない栄養素については「目安量」が設けられた。過剰摂取による健康障害を未然に防ぐために「耐容上限量」も設定された。
ナトリウム(食塩相当量)について、現在の日本人の食塩摂取状況をふまえて「目標量」が変更された。食塩のとりすぎが高血圧、がん、脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めることから、減塩を勧めている。今後5年間に達成したい1日摂取目標量として、男性は10gから9g未満に、女性は8gから7.5g未満により厳しく変更された。
食塩相当量は次の式から求められる。
食塩相当量(g)=ナトリウム(g)×2.54
カルシウムについては必要量、推奨量を年齢層ごとに算定。成人のカルシウム1日推奨量は男性は667mgから778mg、女性は622mgから666mgとされた。
食事摂取基準の3つの基本的な考え方
- エネルギーおよび栄養素摂取量の多少に起因する健康障害は、欠乏症または摂取不足によるものだけでなく、過剰によるものも存在する。また、栄養素摂取量の多少が生活習慣病の予防に関与する場合がある。よって、これらに対応することを目的としたエネルギーならびに栄養素摂取量の基準が必要である。
- エネルギーおよび栄養素の「真の」望ましい摂取量は個人によって異なり、個人内においても変動するため、「真の」望ましい摂取量は測定することも算定することもできず、その算定および活用において、確率論的な考え方が必要となる。
- 各種栄養関連業務に活用することをねらいとし、基礎理論を「策定の基礎理論」と「活用の基礎理論」に分けて記述した。なお、「活用の基礎理論」については、「食事改善」や「給食管理」を目的とした食事摂取基準の基本的概念や活用の留意点を示した。
[ Terahata ]