がんばりすぎない糖尿病ライフ
寒くなると血糖は上がる。冬のからだと糖尿病の意外な関係
寒くなってからの外来で、検査結果を見た瞬間に、お互いが「あ......」という顔になることがあります。夏にはあんなに安定していた血糖マネジメントの数字が、じわっと上がっているのです。私は「まあ、寒いですからね」と声をかけます。
この「寒いですからね」は、慰めの言葉ではありません。外来をしていると、寒くなるにつれて診察室全体の数字が上がるような感覚があります。そしてその印象は、実は日本人のデータできちんと裏づけられていることをご存じでしたか?
今回は、この「冬に血糖が上がる」話を、データと生活の両面から整理してみます。
データで見る「冬に上がる」
日本全国の医療機関に通う2型糖尿病の人、約4,700人を2年間にわたって追いかけ、月ごとに「HbA1c・血圧・LDLコレステロールが目標の範囲に入っている人の割合」を調べた研究があります。
結果はとてもはっきりしていました。3つの指標のいずれでも、目標を達成している人の割合は夏(6〜8月)にもっとも高く、冬(12〜2月)にもっとも低かったのです。血糖だけでなく、血圧もコレステロールも、そろって冬に不安定になる。つまり、冬に数字が上がるのはあなただけではなく、日本中で同じことが起きている、ということです。
もうひとつ知っておきたいのが時間差です。HbA1cは過去1〜2か月の血糖の平均を映す数字なので、12月の検査で数字が上がっていたとすれば、その血糖はもう10~11月に上がり始めていたことになります。言い換えれば、冬の対策は12月からでは少し遅いということです。
なぜ冬に上がるのか
さて、どうして寒くなると血糖値が上昇するのでしょうか。
よくいわれるのは「寒くて動かない」「年末年始に食べすぎる」。これはもちろん正解の半分です。ただ、食べすぎと運動不足だけでは、この「そろって」が説明しきれません。実は、からだそのものが、冬に変わっているのです。
この背景には諸説あるのですが、主に「インスリンの効き」が落ちることが大きな原因と考えられています。その裏付けとなったのが、スウェーデンで行われた研究です。高齢男性約1,100人のインスリンの効き(インスリン感受性)を、クランプ法という精密な方法で測ったもので、冬のインスリン感受性は夏より約11%低く、しかも気温が低いほど効きが悪い、という温度依存の関係でした。興味深いのはその先です。同じ人たちで、冬にはブドウ糖を飲んだあとに出るインスリンの量が約16%多く、その結果、空腹時血糖はほとんど変わっていませんでした。
つまり、糖尿病のない人のからだは、冬に効きが落ちた分を「すい臓の残業」で埋め合わせているのです。糖尿病をもつ人のすい臓は、この残業をする余力が限られています。効きは同じように落ちるのに、埋め合わせができない。その差が、冬のHbA1cとして数字に出てくる、と考えられます。
日が短くなることも、活動量の低下やビタミンDの減少を通じて関わっている可能性が指摘されていますが、こちらは証拠がまだ弱い段階です。一方、風邪やインフルエンザの影響はもっとはっきりしています。感染で炎症が起きると、炎症によって生じる物質がインスリンの働きを妨げます。以前の連載でとりあげた「プチシックデイ」が、冬に数字を押し上げるもうひとつの理由です。
「シックデイ」ハードルを下げて対応の練習をしよう。あれもこれも、プチシックデイ
まとめると
冬に血糖が上がる理由は2層になっています。生活の層(こもる・食べる)、そしてからだの層(寒さと感染でインスリンの効きが落ちる)。
では、どう備えるか。
生活の層には、そもそも「上がる前提」で臨みます。まず、過去1~2年分のHbA1cを一列に並べ、自分の山がどの月にあるかを知っておく。仕事や生活の状況によっては、たいして変化がない人もいます。目指すのは「夏と同じ数字」ではなく「去年の冬よりマシ」。そして、「上がる前提」で運動の量を少し増やす、体重を月に一度は量ってみるなど、できる範囲の工夫を先回りして始めておくことです。
からだの層には、「感染を減らす」で臨みます。インスリンの効きを落とす寒さは避けきれませんが、感染は予防すれば減らせます。たとえば予防接種や手洗い、マスクの着用、混雑の回避などが挙げられます。また、体調を崩したときの「プチシックデイ」対応の練習も、寒くなる前にやっておくと安心です。
今年も寒い季節がやってきます。寒さそのものを変えることはできませんが、備えることはできます。できる対策を上手にとって、寒さを乗り切っていきましょう。
プロフィール
田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/臨床遺伝専門医/医学博士
10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受検し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している
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