がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年09月29日

「糖尿病」という名前は変わるのか?呼称変更の理由とこれから

2023年9月、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は合同で会見を開き、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」を提案しました。

そもそも、糖尿病があっても尿に糖が出ていないことはよくあります。さらに最近、SGLT2阻害薬という薬の登場により、あえて尿に糖を出させることで血糖を下げる治療が広く行われるようになりました。血糖値もHbA1cもCGM(持続血糖測定器)もある現在、尿糖は診断にも日々の血糖マネジメントにも、ほとんど使われていません。

それでも、100年以上前の検査法を指し示す名前が、診断名として今も残っている。これが、呼称を変えようという議論の出発点のひとつです。

もうひとつの理由は「尿」の一文字

「糖尿病」という病名が使われるようになったのは、1907年ごろのことです。それ以前は、消渇(しょうかち)、飲水病、蜜尿病など、症状に関係するさまざまな呼ばれ方をしていました。

血糖値を測る技術がなかった当時としては、実に合理的な命名でした。けれど現在、この名前には別の問題が指摘されています。「尿」という排泄物の名前が入ることが、ネガティブなイメージにつながるという点です。

私自身、10歳でこの病気をもつことになりました。学校で友達に病名を伝えるとき、「尿」という字をどう説明したものか困った記憶があります。

この議論は2019年にさかのぼります。病名そのものによって多くの人がマイナスのイメージを抱えていること、偏見や差別をなくすための活動が必要であること。こうした問題意識から、学会と協会による取り組みが始まりました。この連載で主に「血糖コントロール」ではなく「血糖マネジメント」と書いているのも、同じ流れから生まれた言い換えです。

なお、このときの提案では「今後1〜2年かけて、変更の必要性そのものを含めて社会的に議論していく」という方針が示されました。提案されたのは病名そのものではなく、あくまで「呼称」である点も、あわせて説明されています。

患者と医師とで意見が割れた

さて、日本糖尿病協会が2021〜22年に糖尿病をもつ人を対象に行ったアンケートでは、回答者の多くが「糖尿病」という病名に何らかの抵抗感や不快感をもっており、変更を希望していました。

一方、医師はどうだったか。呼称案が公表された直後にWebで行われた調査では、医師1,429人のうち賛成が6%、反対が73%でした(残りの21%は「どちらとも言えない」)1)。その前年の別の調査でも、医師1,028人のうち6割以上が反対と回答しています(こちらは「ダイアベティス」ではなく、名称変更そのものへの賛否をたずねたものです)2)。

この2つを並べると、「患者は変えたがっているのに、医師が渋っている」という構図に見えます。正直なところ、私も最初はそう読みました。

ただし、反対の中身が違った

ところが、別の調査を見ると様子が変わります。

医師1,467人を対象とした別の意識調査では、呼称変更に反対と答えたのは46.15%でした。一方で、これとは別に、40.01%が「呼称変更自体には賛成だが、『ダイアベティス』には反対」と回答しています。かわりの名前としては「糖代謝異常症」が最も多く、次いで「高血糖症」が多い意見でした3)。

つまり、この調査では、回答した医師の4割が「変えること自体には賛成」だったことになります。医師のあいだで割れていたのは「変えるかどうか」ではなく、「何に変えるか」でもあったのです。

カタカナ語でわかりにくい、という意見にも、根拠があります。一般の方を対象にした調査では、「ダイアベティス」が何を指すかわかると答えた人は4分の1ほど、字面から察しがつくという人は5%程度にとどまりました4)。

漢字であれば読んで意味の見当がつくところが、カタカナではそれができない。わかる人にはわかり、わからない人にはまったくわからない言葉になってしまう。これでは本末転倒ではないか、という指摘です。

反対している医師たちもまた、長く使われてきた言葉を変えることの難しさと、変えなければならない理由と、その両方を天秤にかけている段階なのだと思います。

あれから3年、いまどこにいるのか。名前を変えて何かよくなるのか?

提案から3年。「1〜2年かけて議論する」とされた期間は、とうに過ぎました。しかし、2026年5月の日本糖尿病学会学術集会で報告された学会評議員へのアンケート調査でも、「ダイアベティス」を積極的に使うことへの意見は分かれたままです。

ここからは、一人の糖尿病をもつ医師としての、私個人の意見です。

以前この連載で、セルフスティグマの話を書きました。診察室でつい「自己管理できなくて、すみません」と言ってしまう、あの感覚です。

「模範的な患者」演じていませんか? 外来での「すみません」はセルフスティグマのサインかも

呼称変更の議論は、それをもう一段大きな場所でやり直す試みだと考えています。つまり、本人の心の持ちようの問題ではなく、社会が使っている言葉の側の問題として扱い直す、ということです。

もちろん、名前を変えれば偏見が消えるわけではありません。呼び方だけが新しくなって中身が変わらなければ、それはそれで空しいことです。就職や結婚、住宅ローンの場面で不利益を受ける人がいるという現実は、言葉を入れ替えるだけでは動きません。

それでも、ひとつ確かなことがあります。「この名前でいいのだろうか」と問い直す議論が起きたこと自体が、すでに何かを動かしました。少なくとも、病名に対して「これでいいのか?」と疑問に思っていた人が大勢いるという事実が、はっきりと明るみに出たのです。

そのうえで、自分の病気を普段どう呼ぶかは、それぞれが決めてよいことだと思います。別に「糖尿病」と言い続けてもいいし、家族には「血糖の病気」と説明しても、何の問題もありません。

11月14日の世界糖尿病デーを含む1週間は、全国糖尿病週間です。呼称をどうするかは、最終的には社会全体で決めることになります。であれば、当事者である私たちが声に出すことにも意味があるはずです。今年もぜひ、この話題を食卓や職場で出してみてください。

■参考

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受検し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

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