がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年10月20日

AIに糖尿病のことを聞いてもいい?〜生成AI時代の情報との付き合い方〜

夜中の2時、なかなか下がらない血糖値を眺めながら、気がつくとスマホに打ち込んでいました。「HbA1c 〇% やばい?」。

相手は主治医ではなく、生成AIです。数秒で、丁寧な文章が返ってきます。「〇%は一般的に......」。読んでいるうちに少し落ち着いて、でも読み終わると、別の不安がわいてきます。「これ、信じていいのかな。そもそも、こんなふうにAIに聞いていいのかな」。

先に答えを言ってしまうと、聞いていいと思います。私自身、患者としても、研究者としても生成AIを毎日のように使っています。ただ、AIには得意なことと、はっきり苦手なことがあります。それを知っているかどうかで、同じAIが「頼れる相棒」にも「不安を増幅する装置」にもなります。今回は、その線引きの話です。

生成AIが得意なこと

まず、生成AIが本当に役に立つ場面を3つ挙げます。

ひとつめは、言葉の意味を教えてくれることです。たとえば、検査結果に並ぶ「eGFR」「尿中アルブミン」といった略語。薬の名前が突然変わったとき(実は一般名と商品名の対応だった、ということもあります)。診察で医師がさらっと口にした専門用語。こうした「聞くほどでもないけど気になる」ことを、何度聞いても嫌な顔をせずに説明してくれます。 これはこれまで医療者と患者さんのあいだにあった情報のギャップを埋めてくれる、良い手段だと感じています。

ふたつめは、診察前の質問の整理です。診察室での5分間で自分の困りごとを伝えようとしても、何を聞きたいのか自分でもまとまらないときがあります。そういうときは、AIに「こういうことで困っていて、医師になんて聞けばいい?」と相談すると、重要な症状をまとめる手伝いをしてくれます。

みっつめは、気持ちの吐き出し先になること。「どう工夫すればいい?」「なんで自分だけ?」――家族にも友人にも言いにくい深夜の愚痴を、AIは受け止めてくれます。解決はしなくても、言葉にして外に出すだけで、少し眠れるようになることがあります。

AIが苦手なこと、気をつけたいこと

一方で、はっきり苦手なことがあります。ここを知らずに使うと、かえって不安が増えてしまいます。

第一に、AIはあなたの数字と背景を知りません。同じHbA1c 〇%でも、年齢、糖尿病になってからの年数、合併症の有無、使っている薬によって、その意味はまったく違います。AIの答えは「平均的な誰か」に向けた答えであって、あなたへの答えではありません。読んで「ふむふむ」と思ったあとに、「でもこれは自分の話ではない」と一度心の中でつけ加える癖をつけてください。

第二に、使っているサービスやモデルによって程度は違いますが、AIは自信たっぷりに間違えることがあります。これは専門用語でハルシネーションと呼ばれている現象ですが、もっともらしい文章で、古い情報や、存在しない研究を根拠に話すことがあります。文章がきれいなほど、間違いに気づきにくいものです。
特にこれまで聞いたことのない情報を持ち出してきた場合は、「それ、出典は?」と聞き返してみてください。はっきりした出典を示さないまま前言を訂正してきたり、確認できない文献を挙げてきたりしたら、その部分は保留です。最近は、その一次情報そのものが生成AIによってつくられている例も少なくありません。気になる内容は、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、糖尿病ネットワークなど、出どころのはっきりしたサイトで確かめるのが確実です。

第三に、これがいちばん大事ですが、「薬をやめていい?」「減らしていい?」「目標値をゆるめていい?」は、聞く相手が違います。AIが「いいですよ」と言っても、それは判断材料になりません。治療の変更は、あなたの数字と背景を全部知っている主治医と決めることです。

そしてもうひとつ。検査結果の画像や診療明細をそのまま貼りつける前に、少し考えてみてください。氏名や生年月日、患者番号、医療機関名などが映り込んでいないか。便利さと引き換えに、どこへ何を渡しているのか、一度立ち止まる価値はあります。

おすすめの使い方:「AIで予習して、主治医と決める」

では、どう使えばいいか。私のおすすめは、AIを「答えをもらう場所」ではなく、「診察の予習と復習の場所」にすることです。

予習では、診察で聞きたいことをAIと一緒に整理します。復習では、診察で言われた言葉のうち、わからなかったものをAIに解説してもらいます。「先生はこう言っていたけれど、どういう意味?」と聞けば、診察の内容が頭に残ります。

ただし、ここからは個人的な意見ですが、診察室で直接「AIにこう言われたんですが」と言うのではなく、少し工夫の余地があるように思います。医師によっては、「AIに相談するということは、自分は信頼に足らない存在なのだろうか?」と受け取ることもあり、信頼関係にわずかな影響を与える可能性があります。

おすすめは、AIに聞いた内容をそのまま持ち込むのではなく、AIが用意した出典や知り得たことをもとに、自分の質問として組み立て直して伝えることです。「夜中に血糖値が下がらないことが続いていて、原因として何が考えられますか」というように、自分が困っていることから聞く。そのほうが、医師も答えやすくなります。

おわりに

AIは、24時間付き合ってくれる、少し物知りな友人のようなものです。現状では主治医の代わりにはなり得ませんが、主治医との5分を濃くしてくれる相棒にはなります。

夜中の2時に「やばい?」と聞いてしまうのは、悪いことではありません。そのあとで、「じゃあ次の診察で何を聞こうか」と一歩進められたらよいですね。

プロフィール

田中慧プロフィール画像

田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受検し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

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