高齢者では少量の飲酒であっても心臓病のリスクが上昇することが、4,466人の高齢者(平均年齢76歳)を対象にした調査で明らかになった。
飲酒の「Jカーブ現象」は高齢者にはあてはまらない
適度の飲酒であれば、虚血性心疾患や脳梗塞、2型糖尿病などの発症リスクが減少し、死亡率も低下することを示した研究は多く、飲酒の「Jカーブ現象」として知られるが、この現象がみられるのは中年の男女に限られる。
高齢者の飲酒には、むしろ注意が必要だ。飲酒量が増えると、高齢者では高血圧や脳卒中が増えることが知られるが、心臓にも異変が起こるという研究を、ハーバード大学医学部の研究チームが発表した。
今回の研究は、ボストンのブリガム アンド ウィメンズ病院などで実施されている大規模研究「地域における動脈硬化症リスク研究」(ARICS)に参加した4,466人の高齢者(平均年齢76歳)を対象に行われた。
アルコールの量を示す単位である「ドリンク」は、米国ではビールでは缶ビール1本(340g)、ワインでは1杯(113g)に相当する。米国心臓学会(AHA)は「適度な飲酒」を、1日に男性は2ドリンク、女性は1ドリンクまでとしている。
研究チームは、参加者をアルコールの摂取量によって、「まったく飲まない」「週に1~7ドリンクを飲む」「週に7~14ドリンクを飲む」「週に14ドリンク以上を飲む」の4つのグループに分けて比較した。
高齢者の飲酒は危険 アルコール摂取のついての指導が必要
その結果、飲酒習慣があり飲酒量が多い高齢者では、心筋の状態が悪くなり心臓の機能が低下する「心筋症」のリスクが上昇することが示された。
「週に7~14ドリンクを飲む」男性では、心臓の左室が拡張し、容積が大きくなっている傾向があることが判明した。左室は血液を全身に送り込むポンプの役割をする部分で、心筋の肥大(心筋症)は、左室心筋の異常な肥大に伴って生じることが多い。
「週に1~7ドリンク」以上飲んでいる女性でも、心臓の機能は低下する傾向がみられ、男性よりも少ない飲酒量でも心臓に異変があらわれやすいことが明らかになった。
高齢者では、飲酒量が多いと、心臓病に加えて「肝機能障害」「高血圧」「脳梗塞」などを発症しやすくなる。これらに加えて「認知症」や「脳委縮」も起こやすいという報告もある。
高齢者の飲酒では、かねてから"少量でも酔い方がひどい""転倒しやすくなる""栄養状態が悪い""うつ病が増える"といった問題が指摘されているが、今回の研究では少しの飲酒で、高齢者の心臓の状態は悪化しやすく、女性ではさらに少量の飲酒でその傾向が強まることが示された。
「高齢になっても飲酒量が減らない患者には、アルコール摂取のついての指導が必要となると考えられます。高齢者のアルコール性心筋症には注意が必要です」と、ハーバード大学医学部のスコット ソロモン教授は述べている。
Moderate drinking in later years may damage heart(米国心臓学会 2015年5月26日)
[ Terahata ]