肥満の原因のひとつは「腸内細菌の減少」で、ファストフード中心の食事スタイルは腸内細菌のバランスを壊す「最悪の食事パターン」だとする研究が発表された。
腸内細菌のバランスを維持する食事スタイル
英国では2030年までに男性の4分の3、女性の3分の2が肥満や過体重になると予測されているが、ロンドン キングス カレッジのティム スペクター教授(遺伝疫学)は、肥満の増加の一因は「腸内細菌の減少」だと主張している。
スペクター教授によると、ヒトの体内には数百兆の微生物の微生物が生息しており、体をつくる細胞よりも多いというすさまじい数だ。これらの微生物群がおりなす生態系を、腸内細菌叢あるいは「腸内フローラ」と言う。
腸内細菌を増やすためには、食物繊維を多く含む食品を積極的に食べることが必要だ。食事から摂取した食物繊維が腸内のビフィズス菌や乳酸菌を増やし、悪玉菌の増殖が抑制される。
また、腸内細菌のバランスを維持するために、いろいろな食材を少しずつ食べる食事スタイルが必要だという。食材が豊富な食事をすればするほど、腸内に多様な細菌が住みつきやすくなる。
ファストフードを毎日食べると腸内細菌が減少
食生活が変化し、加工食品を多く食べるようになり、過去50年間で腸内細菌の数が減少している。「ファストフードを毎日食べる食事スタイルは単調になりがちで、腸内細菌を減らしやすい。もっと多様な食品を食事に取り入れるべきだ」と、スペクター教授は警笛を鳴らしている。
スペクター教授は、23歳の若者にハンバーガー、チキンナゲット、ポテトチップとコーラからなる食事を10日間続けてもらう実験を行った。その結果、実験前には腸内に3,500種類の腸内菌がいたにも関わらず、10日後には1,300種類が死滅してしまい、腸内フローラが変化してしまったという。
種類の少ない同じメニューの食事ばかりを食べ続けると、特定の細菌にだけ餌が与えられることになり、腸内フローラの共生関係のバランスが崩れやすくなる。
腸内の細菌の中でも"悪玉菌"に対しては餌を与えず減らした方がいいようにも思える。しかし、「単独では悪玉であっても、周囲の菌との共生によって善玉の働きをする菌もある。細菌によって餌となる栄養素が違うのだから、多種類の菌を保つことが何より重要」と、スペクター教授は指摘している。
腸内細菌が肥満や糖尿病の原因に
腸内フローラのバランスが崩れると、肥満やメタボリックシンドロームのほか、糖尿病、アレルギーなどの免疫疾患につながることもある。また、高齢になると腸の蠕動運動が衰え、便秘がちになり、腸内の悪玉菌が増えやすい。若年者でも、食生活の偏りやストレスなどで、高齢者に近い腸内環境となりうる。
「ファストフードや加工食品を2日続けて食べただけでも、腸内細菌叢は変わってしまう。現代人は加工食品の食べ過ぎや、抗生物質、ステロイド、免疫抑制剤などの利用により、腸内細菌の数が減っている。腸内細菌を増やす食事スタイルを心がけるべきだ」と、スペクター教授は強調している。
The Diet Myth: the real science behind what we eat(ロンドン キングス カレッジ 2015年4月28日)
Weight influenced by microbes in the gut(ロンドン キングス カレッジ 2014年6月11日)
[ Terahata ]