九州大学の研究チームが、ウイルス感染による糖尿病発症に関わる遺伝子を発見したと発表した。
ウイルス関連が原因で糖尿病を発症
糖尿病の原因のひとつは過食や運動不足などの生活習慣と考えられているが、最近ではウイルス感染の関与も注目されている。糖尿病誘発性のウイルスや、ウイルスが糖尿病誘発性をもつようになることで患者数が増えている可能性が考えられている。
研究チームは、インスリンをつくる膵臓のβ細胞が破壊されて発症する1型糖尿病の20%、急性の劇症タイプでは70%に、ウイルス感染が深く関与していると推測している。
日本の糖尿病人口のうち2%を占める1型糖尿病は、膵島β細胞が破壊されることで発症する。1型糖尿病は、自己免疫で発症する「タイプA」と、特発性(他の疾患に起因しない)の「タイプB」とに分類される。「ウイルス糖尿病」は、1型糖尿病のタイプBの原因の主な候補とされている。
なお、2型糖尿病に関るウイルス感染の関与についてはよく知られていなかったが、最近の研究では糖尿病発症に至る経過で、発症リスクのひとつと考えられている。
防御遺伝子が正常に働かずウイルスがβ細胞が破壊
糖尿病誘発性のあるウイルスとしては、オタフクカゼウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状ウイルスが候補とみられているが、最近の研究では、エンテロ(腸管)ウイルスが糖尿病誘発性のある主要な原因ウイルスと考えられている。
研究チームは2015年に、マウスによる実験で、特定の系統で「脳心筋炎ウイルス」(EMCV)によるβ細胞破壊によって糖尿病が誘発される場合、糖尿病を発症するかを制御しているのが、インターフェロン(IFN)シグナル分子である「Tyk2遺伝子」であることを発見した。
Tyk2遺伝子に異変のあるマウスの通常の細胞では、ウイルス増殖を抑制するインターフェロンを投与することでウイルス抵抗性が回復したが、β細胞では回復力が少なかった。
このことから、ウイルス感染を受けてもTyk2遺伝子が正常に働かず防御機能が低下し、インスリンを作るランゲルハンス島のβ細胞が破壊されてしまい糖尿病が発症することが分かった。
そこで、今回の研究では、この発見がヒトにもあてはまるかを確かめるため、ヒトTYK2遺伝子多型と糖尿病リスクについての検討を行った。
ウイルス糖尿病に対するワクチン開発に期待
研究では、健常人331名、1型糖尿病患者302名、2型糖尿病患者314名のTYK2遺伝子多型を調べた。
その結果、多型が見られた割合は、健常人4.2%に対し、1型糖尿病患者9.6%、2型糖尿病患者8.6%であり、さらに1型糖尿病患者のうち、風邪(インフルエンザ様)症状の後発症した1型糖尿病患者では、13.7%だった。
つまり、糖尿病患者では、1型・2型に関わらず全ての群で、統計的にこの多型の保有率が高い結果が得られた。
一方、ランゲルハンス島自己抗体を有する1型糖尿病患者では7.4%と、自己抗体のない患者群12.8%と比較して、むしろ低い保有率だったことが判明。また、この多型と関係する2型糖尿病のリスクは、肥満とは関連していないことも明らかとなった。
このことは、この遺伝子多型が自己免疫1型糖尿病と関連する可能性は乏しく、ウイルス誘発糖尿病のリスクであること、さらにそのリスクは、1型糖尿病だけでなく、非肥満の2型糖尿病においても重要であることを示している。
今後は、糖尿病誘発性ウイルスワクチン開発による1型糖尿病の予防や、2型糖尿病のリスク低下に向けた研究につなかげたいとしている。
今回の研究成果は、九州大学大学院医学研究院の永淵正法教授、九州大学病院、松山赤十字病院、福岡赤十字病院、南内科、岡田内科、福岡大学医学部附属病院、佐賀大学医学部附属病院、大分大学医学部附属病院の共同チームによるもので、学術誌「Science Direct」オンライン速報に発表され、「EBioMedicine」にも掲載される。
九州大学大学院医学研究院
[ Terahata ]