脂肪細胞が分泌する善玉ホルモン「アディポネクチン」の受容体タンパク質の立体構造を解明したと、理化学研究所の横山茂之上席研究員や東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授、山内敏正准教授らが、英科学誌「ネイチャー」オンライン版に発表した。糖尿病の新たな治療薬を開発する手掛かりになるという。
メタボリックシンドロームと糖尿病の治療薬の開発へ前進
アディポネクチンは脂肪細胞が分泌する生理活性物質「アディポサイトカイン」の一種で、傷ついた血管を修復し動脈硬化を防いだり、インスリン感受性を高めて糖尿病を予防・改善する作用がある善玉ホルモンとして注目されている。
門脇孝教授らの研究グループが2003年に発見した「アディポネクチン受容体」は、メタボリックシンドロームの「鍵」となる分子。アディポネクチンのシグナル(情報)を、細胞内に伝え、細胞内で糖や脂質の代謝を促し、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを改善する作用がある考えられている。
アディポネクチン受容体は2種類があり、「AdipoR1」は骨格筋などでアディポネクチンの糖の取り込みや脂肪酸燃焼を促し、「AdipoR2」は肝臓などで脂肪酸の燃焼を促す。
この受容体の立体構造が分かれば、薬の設計に役立つ情報が得られるが、立体構造の情報を得るのは難しかった。
同研究では、高純度の膜タンパク質を大量に製造する手法や、結晶化手法などを使い、アディポネクチン受容体を高純度で結晶化するのに成功。世界最高の性能で放射光を生み出すことができる大型放射光施設「SPring8」のX線ビームで結晶の立体構造を詳細に解明した。
その結果、この受容体はこれまで知られている「膜タンパク質」とは異なり、膜貫通部位に亜鉛イオンを結合し、未同定の物質が含まれているなど、ユニークな立体構造をもつことが判明した。膜タンパク質は細胞外からの情報を細胞内へと伝達する役目を担っている。
さらに、構造解析によって明らかになった亜鉛イオンと相互作用するアミノ酸残基は、アディポネクチン受容体の活性に重要であることを確認した。
「今回の研究成果は、アディポネクチン受容体の情報伝達メカニズムの解明につながるだけでなく、メタボリックシンドロームや糖尿病の予防薬や治療薬の開発に有益な情報となる」と、研究グループは述べている。
理化学研究所
[ Terahata ]