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2012年10月01日
骨形成や糖尿病発症に関わるタンパク質の機能を解明
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東京大学は大阪大学と東北大学の協力を得て、骨形成やインスリンシグナルに関わるタンパク質「Enpp1」のX線結晶構造を解明することで、骨疾患や糖尿病の発症メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。
大規模な遺伝子解析によってEnpp1の遺伝子変異が骨疾患や糖尿病を引き起こすことは10年以上前から知られていたが、Enpp1の遺伝子変異が病態につながる分子メカニズムはほとんど分かっていなかった。 今回の研究により、Enpp1が骨形成やインスリンシグナルに関わる分子メカニズム、およびEnpp1の遺伝子変異が疾患と関連する分子メカニズムがはじめてあきらかになった。今回得られた知見はEnpp1が関与する糖尿病などの疾患をターゲットとした治療薬の創薬につながることが期待されると、研究グループはコメントしている。
Enpp1変異が骨疾患や糖尿病を引き起こすメカニズムを解明
骨はカルシウムイオンと無機リン酸から構成される「ハイドロキシアパタイト」を主成分としており、骨の形成はカルシウムイオン、無機リン酸、ピロリン酸の体内濃度のバランスによってコントロールされている。
Enpp1はピロリン酸を産生する細胞膜結合型の酵素で、過剰な骨形成を抑える役割を担っている。Enpp1の遺伝子変異は骨代謝の異常を引き起こし、Enpp1の遺伝子多型は肥満や2型糖尿病とも関連することが知られており、ENPP1変異はインスリン抵抗性の仲介と2型糖尿病の発症に重要な役割を果たしているとの報告がある。しかし、Enpp1の変異や多型が病態を引き起こすメカニズムはよく分かっていなかった。
そこで、研究グループは生化学的解析とX線結晶構造解析を行い、Enpp1遺伝子に変異が起こると、Enpp1の分子構造が崩れることで酵素活性が低下し、骨疾患に至ることをあきらかにした。
Enpp1は細胞外のATP(ヌクレオチド三リン酸)をアデノシン一リン酸(AMP)とピロリン酸に分解する。一方、細胞膜結合型の酵素であるTNAPはピロリン酸を2分子の無機リン酸に分解する。無機リン酸は骨形成を促進し、ピロリン酸は骨形成を抑制する。
図1で示した通り、Enpp1の遺伝子変異は異所性石灰化をともなう骨疾患を引き起こし、TNAPの遺伝子変異は骨の低石灰化をともなう骨疾患を引き起こす。
図1 骨の形成とEnpp1の働き
研究グループは、マウスのEnpp1タンパク質を高純度に精製し、その性質を詳しく調べた。さまざまなヌクレオチド三リン酸を用いてEnpp1の酵素活性を測定したところ、Enpp1はアデノシン三リン酸(ATP)を最も効率よく加水分解し、ピロリン酸を産生することが判明した。
さらに、X線結晶構造解析により、Enpp1とヌクレオチドの複合体の立体構造を調べたところ、Enpp1は4つのタンパク質の構造的なかたまり(ドメイン)からなり、ATPは触媒ドメインに結合し、酵素活性部位と特異的に相互作用することが分かった。
また、骨疾患と関連する遺伝子変異は、触媒ドメインやヌクレアーゼ様ドメインのアミノ酸残基の置換を引き起こし、Enpp1の立体構造を不安定化させることが分かった。
これらの遺伝子変異が起きるとEnpp1は正しい立体構造をとることができなくなる。その結果、ピロリン酸の産生活性が低下し、骨疾患の発症に至るというわけだ。
一方、肥満や2型糖尿病と関連する遺伝子多型は、図2で示した通り、酵素活性部位とは離れたソマトメジンB様ドメインにある。生化学的解析からこのドメインは酵素活性には必要ないことがあきらかになった。
図2 Enpp1の結晶構造
これら結果から、Enpp1の触媒ドメインとヌクレアーゼ様ドメインが骨形成に関与し、ソマトメジンB様ドメインがインスリンシグナルに関与していることが示唆された。
研究成果は、東大理学系研究科 生物化学専攻の濡木理教授ら研究グループによるもので、米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。
東京大学大学院理学系研究科
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所