インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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Part3 仕事とSAP療法
~成人発症の男性患者さん~ 後編

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

後編:仕事とSAP療法

お話を聞いた皆さん

加藤 研 先生
大阪医療センター
糖尿病内科科長
1型糖尿病/13歳発症/医師/3人のお子さん+インコや金魚など生き物多数!
SAPで治療中

Kさん
劇症1型糖尿病/37歳発症/自営(飲食店経営)/ボーダーコリー犬の"ジェイク"くん
SAPで治療中

YSさん
1型糖尿病/50歳発症/会社員(営業職)/高校3年生と中学3年生のお子さん
SAPで治療中

RSさん
1型糖尿病/27歳発症/会社員(営業職)/2年前にご結婚
SAPで治療中

SAPをはじめたきっかけ

RSさん

最初はSAP療法という言葉も知らなかったですし、入院当初は、インスリン注射で治療を始めて、その後に加藤先生からSAPを勧めていただきました。

YSさん

私は、最初は他院でお世話になっており、そこではインスリン注射をしていました。主治医の先生が退職されることになったので、大阪医療センターへ転院して、加藤先生にSAPを紹介してもらいました。

RSさん

最初は体に機器をつけたままで生活することが想像できませんでしたね。でも、加藤先生自身も同じ1型糖尿病で、SAP療法をしながら忙しい医師としての仕事も私生活も問題なく過ごされている様子を聞いて、自分もやってみようと思いました。

YSさん

私も、加藤先生がSAPで血糖値のグラフなどを見せてもらったり、いろいろな機能の説明を聞いたりして、自分の血糖値管理には、インスリン注射よりSAPが適しているなと思いました。先生には費用面のアドバイスもいただいて、考えて決めました。

加藤先生

現役世代の皆さんは仕事で忙しいです。また肉体労働の方もいれば、営業職の方、飲食関係で常に味見をする方、事務職の方、状況は人それぞれ違います。SAPならそうした個々の状況に応じて、インスリン量の調整がしやすいです。

血糖値やインスリン量などの数字の管理も簡単にできますから、忙しく働く世代には、やっぱりSAPがいいと思って勧めています。

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実際に使ってみてどうだった?

RSさん

血糖値のモニタリングができることが一番良いですね。インスリン注射だと、目隠ししている状況だと思うんです。だから逆に、いつも血糖値が気になってしまって。

SAPだと、確認したいときにぱっと血糖値を見ることができることが一番の利点だと思います。

YSさん

SAPでは、30日分のTIR、つまり目標とする血糖値の範囲にどれだけの時間、おさまっていたかが割合として出ますよね。私は70~180mg/dLの範囲に70%以上がおさまるようにと先生から言われていますが、80%を目指しています。

*TIR:血糖管理の指標として、70~180mg/dLを治療域(Target Range)とし、この範囲内の測定回数または時間をTIR(Time In Range)と呼びます。さらに、治療域より低値域をTBR(Time Below Range)、高値域をTAR(Time Above Range)と定義しています。

Kさん

私も、SAPは血糖値やインスリン投与のデータがきちんととれて、血糖の管理がしやすいですし、病院と簡単にデータを共有できるのもメリットだと思います。

それに、私はインスリン注射で、1日に何度も針を自分に刺す行為にずっと慣れませんでした。インスリンポンプなら3日に1回、穿刺補助器具を使ってカニューレの針を穿刺して留置すれば、頻繁に注射を打つ必要がないこともメリットの1つですね。

TIRが100%のときは、家族で集まって結果レポートを読んで大喜びしたりしています。これもSAPのよいところだと思います。

YSさん

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糖尿病について職場に話すかどうか

RSさん

会社へは、入院時に話しました。自分で血糖管理をすれば、特段、行動の制限はないと話したところ、無理のない程度にやってみようということになり、仕事復帰しました。

YSさん

私も入院するタイミングで話をしました。しかし、当時の上司も糖尿病の1型と2型の区別もついていないといった具合でしたので、返事の言葉には困っておられるようでしたね。

Kさん

私の場合、職場は家族経営で、みんなが知っています。低血糖のアラートが鳴ったら、周りが「早く何か食べといて」みたいに言ってくれます。

RSさん

仕事のお客様には糖尿病のことは最初からは言わないですが、食事に行くときとか、どうしても血糖値を見てインスリンを入れるというルーティンがあるので、「何しているの?」となって、そこからいろいろ話をしていくことが多いです。

Kさん

常連のお客様とかで僕の糖尿病のことを知っている方もいますけど、やっぱり、1型糖尿病のことは、なかなか理解してもらえないので、お客様にも友人たちにも話していないことの方が多いですね。

YSさん

お客様には話していないです。先ほどKさんもおっしゃっていましたが、1型糖尿病を理解してもらうのは大変です。「生活習慣が悪いからでしょ」みたいなことを言われてしまうし、また、相手に気を使わせてしまいそうで抵抗があるので、得意先には一切、話はしていません。

RSさん

以前は、血糖自己測定や注射は、周りに見られないようにこっそりやっていたのですが、そういうのもちょっと煩わしくなってきて、糖尿病のことを話すようになりました。

発症当時のことや、ちょっと笑えるエピソードなんかを話すようになったら、逆にそれがお客様との距離を縮めることにもなりました。

加藤先生

RSさんのように1型糖尿病をオープンにしてうまくいくケースが理想ですが、みなさん、なかなか周囲の方に1型糖尿病についてわかってもらえなくて、説明することが億劫になってしまうのですよね。

隠れてトイレでインスリンを注射する人もいますね。そこは仕事環境や本人の性格などによるので、一概に良い悪いとは言えないですね。

Kさん

インスリンポンプを見て、「それ何?」って聞かれたときは、GPSとか万歩計とか適当なこと言ってごまかしています(笑)。

加藤先生

1型糖尿病患者さんがより働きやすい世の中になるためには、社会全体で糖尿病への理解を深めることが重要ですね。2型糖尿病に関しても、必ずしも生活習慣が悪いために発症するわけではないことを知っておいてもらいたいです。われわれがもっと情報発信をしていかなくてはと思います。

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仕事で気を付けていること

RSさん

仕事で取引先との会食も多く、社内外の人を乗せて運転することも多いです。運転の前はインスリンの量を減らしたり、場合によってはブドウ糖をとったりすることにも慣れて、今は落ち着いて対応できています。

YSさん

私も、仕事は今も以前と変わらずに営業をしておりますし、ブドウ糖をきっちり常備しながら車の運転もしています。社内はみんな私の病気を知っているので、隣でブドウ糖を口に入れても誰も気にしません。

Kさん

職場が飲食店なのでその日その日で忙しさが違うために、予想外にとても忙しい日だと血糖管理に手が回らず、低血糖のアラートに気付かないことがあります。忙しい日は気をつけるようにしています。

YSさん

一番気にしていることはやはり低血糖ですね。軽い頭痛が起きたりしてなんとなく症状でもわかりますが、慢性化してくるとわからなくなると聞くので怖いです。その点、SAPの低血糖のアラートは心強いです。

健康管理のルーティンができることで、仕事の管理もできるようになり、結果、仕事にもいい影響が出てきているなと最近では思い始めています。

RSさん

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仕事、SAPで良かったと思うことは?

YSさん

会食の際に、SAPだと、今までの経験と勘でさっとインスリンの投与ができますが、インスリン注射のときは私もトイレに行ってやっていたので、非常に不便に感じていました。

Kさん

最初からSAPで治療をスタートしましたが、仕事でもプライベートでも予想外のことが起きてとても困ったという経験はないです。

YSさん

インスリン注射の場合はカーボカウントを自分で計算するので、インスリン量の調整がうまくいかないことも。SAPですと自動で計算して入れてもらえるので本当に助かります。

RSさん

仕事でもプライベートでも外出することが多いのですが、慣れてきたころに血糖測定器を忘れることがあって、センサーの数値を頼りにインスリン投与をしました。これはSAPじゃないとできないことで、インスリン注射だと大変だったろうと思います。

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仕事で、SAPで困ったことは?

RSさん

長期で旅行するとき、SAPの交換の道具一式を持っていくことになり、荷物が増えることでしょうか。新型コロナが落ち着いたら、長期の出張も出てくると思うので、そこはちょっと懸念ではありますが。

加藤先生

私も本当にもっと身軽に旅行したいと常々思っています。やっぱりSAPの交換に必要な一式のほかに予備も持っていこうとなると、ひと荷物になってしまいます。海外旅行だとどうしても予備も必要となるので、荷物が大きくなりますね。

RSさん

SAPは便利ですので、その代償と思えば仕方がないと思っています。

Kさん

私が困っている点はカニューレの管がよく仕事中に引っかかったりすることくらいです。この点が進化してくれたらうれしいですね。

YSさん

私は基本、アラートをマナーモードにしているのですけど、バイブが鳴っていることに気付かなくて、確認ボタンを押せないことがありました。そうすると気付かせようと音が鳴るのです。一度、会議中に鳴らしてしまって焦ったことがありました。

加藤先生

マナーモードでもアラートを無視していると音が鳴ってしまいますので、特に会議などの際には気を付けたいですね。

Kさん

便利になってくると、また更なる便利を求めてしまうのですが、防水機能があると安心ですね。サーフィンやスタンドアップパドルボードをするときは、いつも外していますが、この間、沢登りに行ったときにSAPをつけたまま川にはまってしまって。故障しなくてよかったです。

加藤先生

実はSAPは防水仕様です。しかし、亀裂や電池カバーの緩みがあった場合には水が入って故障するリスクがあります。使用しているうちに目に見えない細かな亀裂が入ることがあるので、濡れる可能性がある際には、外すことが推奨されています。

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糖尿病との向き合い方について

RSさん

糖尿病になってこの2年間で、病気の受け止め方が変わりました。糖尿病になったことは受け入れるしかなく、これからどうするかを考えられるようになってきたような気がします。

例えば「近視がある人」と同じように、糖尿病という身体の不具合が一つ増えたけど、それにうまく向き合えている状況だと思います。

Kさん

当初は落ち込みましたけど、1型糖尿病とはもう付き合っていくしかないので、RSさんがおっしゃったように、近視には「眼鏡」と同じように、1型糖尿病には「インスリン」と考えています。

YSさん

発症した当時はわからないことだらけで不安でしたが、ちゃんと血糖管理をしていけば、そんなに不自由なく生きていけることがわかりました。食べてはいけないものもないし、できないスポーツもないことがわかって、糖尿病のイメージがだいぶ変わりました。

Kさん

糖尿病になったことで、健康管理は普通の人よりも気を遣っていると思います。血糖管理の目的は合併症にならないことだと思うので、血糖管理と同様に合併症にも気を付けて、定期的な検査はきちんとするようにしています。

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最後に一言メッセージ

Kさん

自分が通った道ですが、あまり落ち込まないで欲しいですね。意外と1型糖尿病患者さんたくさんいますので、自分だけと思わずに前向きになってほしいです。

健康管理が厳しくなるので、逆に他の病気にはなりにくいんじゃないかなって思います。食事にも気を遣うので、健康にも美容にもいいと思いますよ。

RSさん

最初はマイナスのイメージしかないと思うのですけど、うまく付き合っていくしかないです。今、SAP療法もすごく進歩していますし、今後も糖尿病治療は進化していくと思うので、今までの生活と較べて遜色のない1型糖尿病患者生活ができる未来も来るのではないかと思います。

YSさん

ぜひ前向きに捉えてほしいです。当初、加藤先生から1型糖尿病を発症したことで健康管理が行き届きますから、元気に長生きしましょうと言われました。その通りだと思いましたね。

1型糖尿病になっても、少し制限はありますけれども、好きなものを食べて、好きなものを飲んで、今までの生活とそんなに変わらないと思っています。

RSさん

私は発症してからは食べる量に多少の制限があることが悲しかったですが、慣れてくるとその量が普通になってきました。

加藤先生

SAPは使いこなせれば、皆さんのように前向きに1型糖尿病を捉えて、以前より健康的になることもできると思います。先ほども申し上げましたが、やはり現役でバリバリ働いていらっしゃる忙しい方ほど、ポンプやSAPの治療が向いています。

Kさん

今日は面白かったです。すごく勉強になりました。加藤先生も交えて、実際、同じ1型の方の生の声を聞くことはすごく貴重な経験です。

RSさん

運ばれた病院が、先生のところでよかったです。

加藤先生

今日、お話しを伺って、皆さん、しっかりそれぞれが血糖管理に取り組んでいることがよくわかり、ちょっと胸が熱くなる思いです。私も勉強になりました。本日はありがとうございました。また外来でお会いしましょう。

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この座談会は2022年9月に実施しました

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