インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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Part4 先生たちのSAP体験談
〜ご自身のこと、患者さんのこと〜

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

ハイブリッドクローズドループ機能で何が変わる?

テクノロジーの進化により、今、SAP療法が大きく変わりつつあります。
今回は、座談会企画「先輩患者さんに聞いてみよう」にご協力いただいている3人の先生方にお集まりいただき、糖尿病専門医であり1型糖尿病を持つ一人の患者でもある先生方に、SAP療法の今についてお話を伺いました。

ご参加いただいた先生方

高谷具純 先生
千葉大学医学部附属病院 小児科
先生の座談会「Part1 子どもの成長とSAP療法

小谷紀子 先生
国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科
先生の座談会「Part2 妊娠・出産とSAP療法

加藤 研 先生
国立病院機構大阪医療センター 糖尿病・内分泌内科 科長
先生の座談会「Part3 仕事とSAP療法~成人発症の男性患者さん~

※本文中、マーカーがついた用語は、用語解説で解説しています。


新しく登場したSAPの「ハイブリッドクローズドループ」機能とは?

高谷先生

ハイブリッドクローズドループ(以下、HCL)」機能とは、設定された目標の血糖値になるように、リアルタイムCGMで測定した皮下のグルコース値をもとに基礎インスリンを自動調整してくれるものです。

この機能がついたSAPが、2022年1月に登場し、うちの小児科では9割くらいの患者さんでHCLをはじめています。

小谷先生

SAP療法をやっておられた私の患者さんは全員、HCL機能つきのSAPに切り替わりました。すべての患者さんで血糖管理が改善しています。特に、夜間睡眠中の血糖値が、目標値の120mg/dL前後できれいに安定することに驚いています。

加藤先生

私の座談会に参加してくれた患者さんも、皆、この新しい機能がついたSAPに切り替えられましたが、やっぱり夜間がすごいですね。朝起きて100~140mg/dLをキープできているのを見て、皆さんとても喜ばれています。

1型糖尿病でも2型糖尿病でも、「朝の血糖値が安定していると1日がうまくいくような気がする」とおっしゃる患者さんは多いです。朝の調子がいいということは、患者さんの気持ちの面でもよい影響を与えていると思います。

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HCL機能は、誰でもすぐに使いこなせますか?

小谷先生

多くの患者さんで血糖推移の改善が見られます。少し調整が必要な場合もありますが、一人一人の生活や状況に合わせて使い方を工夫しています。HCLのオートモードをどれだけ信用して任せられるか、という点が大きいかもしれません。

加藤先生

インスリン治療歴が長い患者さんは、ご自身のやり方というのをそれぞれお持ちなので、SAPの自動制御に任せることに抵抗を感じる方もおられます。そのお気持ちも理解ができますね。

小谷先生

CGMはいつでもどこでもグルコース値が見られるのが利点ですが、その数値に一喜一憂してしまう方、ちょっとした変化で不安になってしまう方、ポンプトラブルで不安を感じる方などもおられます。こうした患者さんには、十分なサポートが必要だと思います。

加藤先生

HCL機能は大変よいものなのですが、「これを使いこなせればみんな絶対にうまくいくんだから」と、すべての患者さんを無理にこの治療に合わせるようなことになってはいけないなと、常々感じています。患者さん個々の生活に合わせた治療を心がけたいですね。

小谷先生

おっしゃる通りだと思います。 あと、HCL機能を使い始めてしばらくの間は、血糖測定(要血糖値、要較正)を頻繁に求められて大変だという声も聞かれますね。

加藤先生

高血糖でも低血糖でもないのに、「要血糖値」や「要較正」というアラートが頻繁に出て、夜起されてしまうといったお話は、患者さんからよく聞きますね。

高谷先生

SAPでは、CGMのセンサーの精度を上げるために、最長で12時間に1回、血糖自己測定を行い、その結果を入力して調整をおこなう必要があります。HCL機能のついた新しいSAPではさらに精度を上げる必要があるため、追加の較正が求められることがありますね。

加藤先生

1日10回以上、血糖値を測らされたという患者さんもおられますが、血糖値が安定してくると1日2~3回程度に減るようです。

小谷先生

例えば、血糖値が高めで推移していてオートモード最大注入量が4時間継続したとき、また、低血糖やチューブつまりなどで、オートモード最小注入量が2時間半継続したときなどに、オートモードは終了するアルゴリズムになっています。
このような時には血糖値を確認する必要があるので、血糖値を入力するよう求めるアラートが出ます。これに対応してオートモードが終了しないようにしなければなりません。

患者さんのことを先回りして心配してくれるアルゴリズムなんですね。

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HCL機能は、使い分けができますか?

高谷先生

HCL機能で基礎インスリンの投与を自動制御する「オートモード」と、これまで通り自分で設定する「マニュアルモード」が選べます。

加藤先生

オートモードをどれくらい使っているか、使用率が表示されるのです、オートモードに早く慣れたい患者さんは、この数字が目標になっている方もおられますね。

小谷先生

オートモードは、2~3日使えば慣れると思います。オートモードでうまく血糖が管理できるようになれば、手放せなくなる患者さんは多いのではないでしょうか。

高谷先生

HCL機能では、基礎インスリンは自動調整されますが、追加インスリンは自分で設定しないといけません。しかし、小児の患者さんの場合、昼間、保護者のいない幼稚園や学校では、追加インスリンの設定ができない患者さんもおられます。

その場合は、昼間はマニュアルモードにして基礎インスリン量を上げて追加インスリンを補い、夜間だけオートモードに切り替えています。追加インスリンが自分で設定できるようになってきた患者さんには、例えば休日はオートモードを試してもらうなど、徐々に慣れていってもらいます。

小谷先生

私の患者さんに、仕事のある時は活動量が多くオートモードでは自動で注入される基礎インスリンで血糖が下がってしまう方がおられます。このような場合には平日はマニュアルモードで調整して、休日にオートモードにしている方がおられます。

加藤先生

個々の患者さんで、使い分けをされておられるのですね。
HCL機能は、患者さんの直近6日間の血糖の動きを学んで基礎インスリン量を計算するそうですから、やはり、基本的にはなるべく長く使ってもらった方がいいのでしょうか?

高谷先生

なるべく長く使っていただく方がいいと思いますが、小児の患者さんの場合は日中は部活動などで難しいケースも多いです。

しかし、夜間の血糖値がだいぶ安定するので、そうしたHCL機能の良さを実感してもらうことで、昼間の不安も軽減し、1日中オートモードが使えるようになったという方もおられます。

小谷先生

オートモードで血糖値が下がりすぎてしまったり、カーボカウントを失敗して高血糖が長く続いてしまいオートモードが終了してしまったりと、はじめのうちは対応に慣れていく必要があります。

でも、「オートモードで夜間の血糖値が安定した」といった成功体験をすることで、「これをつけていればうまくいく」という自信がつき、HCLを生活の中で活用できるようになります。

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HCL機能は、妊婦さんにも使いやすいですか?

小谷先生

妊娠中は、厳格な血糖管理が求められ、空腹時血糖を95mg/dL未満、食後2時間を120mg/dl未満にする必要があります。HCLのオートモードは、目標血糖値が120mg/dLですので妊娠中の血糖管理には適応になりません。

そのため、妊婦さんにはマニュアルモードで使用していただきます。オートモードのメリットは得られませんが、SAPの低血糖や高血糖の予測アラートや、低血糖を予測して基礎インスリンの注入を一時的に中止してくれる機能は、妊娠中の血糖管理にはとても有用です。

今のHCLは目標血糖値が変更できませんが、近く使えるようになる次世代の機種では目標血糖値を100、110、120mg/dlから選択できるようになります。妊娠期間中は目標血糖値を100mg/dlとして使用できます。

この機種では、較正は不要となり、基礎インスリンだけでなく、高血糖補正のための追加インスリンも自動で注入できるようになります。

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HCL機能を使ってみた、先生ご自身のご感想をお聞かせください。

高谷先生

最初は慣れるのに苦労して、低血糖も頻繁に起こしたのですが、だんだん要領がわかってきて、今では安定しています。

小谷先生

使い始めの頃は、インスリンが多めに注入されてしまうこともありましたが、過去の必要インスリン量から、常に機械が注入量を調整するので、徐々にアルゴリズムがうまく自分自身の生活リズムに合ってきました。HCLの性能を実感しています。

使い始めの頃と、1カ月後のレポートを見比べると、基礎インスリンの量が変わっていることがはっきりとわかります。面白いほど、自分の生活リズムに馴染んでくる。

高谷先生

はい。自身の体験からも、患者さんには、最初はちょっと苦労するかもしれないけれど、使い続けているとだんだん慣れて、血糖管理が楽になるよと、最初の導入時にしっかりお話するようにしています。

小谷先生

低血糖が怖くて、インスリンを少なめに調整してしまう患者さんがおられます。ケアリンクレポートを見て、オートモードがしっかり機能して基礎インスリン量を調整してくれていることがわかってくると、安心して必要なインスリン量を注入できるようになります。

加藤先生

私の場合、実はHCL機能のオートモードを使ってからHbA1cが少し上がったんです。というのも、以前は、血糖値100mg/dL以下を目指して、とても細かく自分で調整していたんです。

しかし今は、機器に任せて低血糖や高血糖への心配が少なくなり、1型糖尿病と付き合うことがとても楽になりました。生活の質が、とてもよくなったと感じています。

小谷先生

患者さんはこれまで、一生懸命ご自身で血糖管理をされてきました。この新しい技術で患者さんには少しでも楽になってほしいです。

そして、こうした新しい治療の情報に、すべての患者さんが等しくアクセスできるようになることを期待します。

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~患者さんとの座談会を振り返って~

高谷先生

私は、「子どもの成長とSAP療法」の座談会に参加させていただきました。小児の患者さんや保護者が治療について情報交換する場というのは他でもありますが、今回の座談会ほどテーマを絞ってじっくり行なう機会はなかなかないので、参加した皆さんは「勉強になった」と大変喜んでおられました。

ちょうど糖尿病サマーキャンプがコロナ禍で中止になっていた時期なのでタイミングもよかったです。未就学児、小学生、中学生、高校生と、ライフステージによって患者さんが直面する課題は違いますから、さまざまな年齢・立場の方にお話が聞けたのもよかったですね。

加藤先生

保護者の関わり方という点でも、興味深い座談会でしたね。自分自身と親との関係を思い出しながら読ませていただきました。私も随分親には心配をかけましたから。

高谷先生

ありがとうございます。小谷先生の「妊娠・出産」をテーマにした座談会は、私は小児科の医師として中高生の患者さんにお話をすることがありますが、詳細までを説明することはないため、こうした先輩患者さんの実体験が記事として読めると、患者さんの参考になると思います。

加藤先生

インスリンポンプを装着していると、授乳や抱っこのときに赤ちゃんの足にポンプのチューブが絡まりやすい、といったリアルなお話が聞けるのはとても貴重ですね。

小谷先生

妊婦の1型糖尿病患者さんが同じ境遇の患者さんと話をされる機会はほとんど無いんじゃないでしょうか。ですから、自分の体験を少しでも他の患者さんに役立ててほしいという思いで、積極的にお話を聞かせてくださいました。

加藤先生

私の担当した「仕事」をテーマにした座談会では、患者さんそれぞれが上手に工夫をされて毎日を過ごされている様子をお伝えしました。この座談会を通して、患者さんとの距離がかなり縮まったのを感じています。

小谷先生

私もそう思います。診察室の外で患者さんといろいろお話ができて、とても貴重な体験になりました。

加藤先生

座談会の中で患者さんに、「1型糖尿病を発症して救急搬送されたとき、運ばれたのが先生の病院でよかった」と言っていただき、とても励みになりました。

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この座談会は2023年9月に実施しました。

用語解説
  • ・リアルタイムCGMシージーエム

    体に取り付けたセンサーで、皮下組織にある間質液中のグルコース濃度を連続的に測定することができる。測定したデータは、スマートフォンに転送される。
  • SAPサップ

    CGM機能を搭載したインスリンポンプのこと。リアルタイムCGMで測定した間質液中のグルコース濃度をもとにインスリン注入量をボタン操作で設定できる。
  • ・ハイブリッドクローズドループ(HCL)機能

    SAPに搭載された新しい機能。リアルタイムCGMの測定結果をもとにアルゴリズム(独自の計算方法)によって基礎インスリン量を自動調整する。
  • ・(ハイブリッドクローズドループ(HCL)機能の)アルゴリズム

    HCL療法で使用される技術で、基礎インスリンを調整するために予めプログラムされている一定の計算方法。

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・詳しくは「インスリンポンプとSAPの基本」をご覧ください

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