インスリンポンプ・CGM情報ファイル

インスリンポンプ・CGM情報ファイル

知っておきたい、インスリンポンプとSAP/AIDの基本

監修:廣田勇士先生
神戸大学大学院医学研究科
糖尿病・内分泌内科学部門 准教授

不足したインスリンを体の外から補う治療を「インスリン療法」といいます。インスリンには、1日を通して分泌される「基礎インスリン」と、食事などで糖質を摂取したときに分泌される「追加インスリン」があり、これらを補うためにインスリン製剤を注射したり、インスリンポンプという機器で注入したりします。これらの治療法の特徴についてご紹介します。


インスリン注射療法

インスリンをペン型のインスリン製剤注入器で注射して補う治療法です。インスリン製剤には、基礎インスリンを補うものと追加インスリンを補うものがあり 、それらを使い分けて注射することで1日の生理的なインスリン分泌パターンに近づけます。

*基礎インスリンと追加インスリンの両方を補うインスリン製剤もあります

インスリン注射療法

イメージ図

食事前のインスリン量はどうやって決める?

食事前には、食事によって上昇する血糖値を下げるために必要なインスリン量と、目標値まで血糖値を補正するために必要なインスリン量を、それぞれ医師に指示された「糖質インスリン比*1」や「インスリン効果値*2」といった指標を用いて計算し、それらを合計したインスリン量を補います。

*1 糖質インスリン比:インスリン製剤(超速効型 )1単位が処理できる糖質量(g)のこと。食事などで上昇する血糖値を下げるのに必要なインスリン量を計算するのに使う指標です。
*2 インスリン効果値:インスリン(超速効型)1単位で低下する血糖値のこと。高血糖を補正するのに必要なインスリン量を計算するのに使う指標です。


インスリンポンプ療法

インスリンポンプという機器を使ってインスリンを皮下へ注入し、体内に投与する治療法です。インスリンポンプを体に装着し、簡単なボタン操作で必要な量のインスリンを注入します。

基礎インスリン:時間ごとに適切なインスリン注入量をあらかじめポンプに設定しておくと、24時間かけて自動的に少量ずつインスリンが注入されます。機種によっては、その日の活動量や体調などに合わせて、注入量を一時的に変更することができます。

追加インスリン:食事などに合わせて必要なインスリン量を入力することでインスリンが注入されます。糖質インスリン比やインスリン効果値を設定しておけば、食事の糖質量を入力することで必要なインスリン量を自動計算してくれる機能がついています。

インスリンポンプ療法
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SAP/AID療法

リアルタイムCGMシージーエムという機器と連動可能なインスリンポンプ療法を、「SAPサップ(Sensor Augmented Pump)療法」といいます。リアルタイムCGMとは、体に装着したセンサーによって持続的に血糖の動きをみるシステムです。

SAP療法では、このリアルタイムCGMのデータをもとに、インスリンポンプが低血糖や高血糖の可能性があることをアラートで知らせてくれたり、低血糖の可能性があるときにはインスリンの注入を停止してくれたりします。

さらに最近の機種では新しい機能がついたシステムが使えるようになっており、このシステムを使った療法は、AIDエーアイディー(Automated Insulin Delivery)療法と呼ばれています。

AID療法では、アルゴリズム(独自の計算方法)により、基礎インスリン量を自動調整してくれる機能が備わっています。
また、基礎インスリンにくわえ、補正インスリンの自動注入ができることも特徴です。

SAP/AID療法
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リアルタイムCGMによる血糖管理について

体に取り付けたセンサーで、皮下組織にある間質液中のグルコース濃度を測定します。間質液中のグルコース濃度は、血糖値(血液中のグルコース濃度)と同じ動きをするため、血糖管理に用いることができます。CGMで測定したデータはスマートフォンアプリなどで確認ができ、センサーが作動している間中、寝ている間も運動している間も、いつでもどこでも血糖の動きを記録してくれます。

インスリン注射・ポンプ・AID比較

※治療内容や機器の種類などによって異なる場合があります。詳細は必ず医師にご相談ください。

インスリン注射 インスリンポンプ AID
インスリンポンプ+リアルタイムCGM機能
穿刺 ・注射時 1日3回~5回 ・カニューレ交換時 2~3日に1回
  • ・カニューレ交換時 3日に1回
  • ・CGMセンサー交換時 最長7日に1回
血糖自己測定 ・1日4回以上、またはCGMによる測定 ・1日4回以上、またはCGMによる測定 ・必要時に実施(CGMで測定されるため基本的には不要)
インスリン製剤 ・基礎インスリンと追加インスリンで、製剤を使い分ける ・速効型または超速効型インスリン*1 ・速効型または超速効型インスリン*1
基礎インスリン量の調整 ・医師と相談して設定
  • ・医師と相談して設定
  • ・少量ずつ時間をかけて注入可能
こんな機能も その日の活動量や状態などに応じて基礎インスリン量を一時的に増減することができる。
  • ・医師と相談して設定
  • ・少量ずつ時間をかけて注入可能
こんな機能も CGM値に応じて基礎インスリン量を自動調整する。
追加インスリン量の調整 ・カーボカウントを実施して炭水化物に対するインスリンと、血糖値に対する補正インスリンを合計して投与する ・必要なインスリン量を計算して設定
こんな機能も 食前血糖値と食事の糖質量を入力すれば必要なインスリン量を自動計算してくれる*2
・必要なインスリン量を計算して設定
こんな機能も CGM値に応じて補正インスリンを自動注入する*2
低血糖 ・設定値に到達、または近づくと予測されると、アラートで知らせてくれたり、基礎インスリンの注入を自動で一時停止し、回復すると注入を自動再開する機能も。
こんな機能も 基礎インスリン量を自動調整する。
高血糖 ・設定値に到達、または近づくと予測されると、アラートで知らせてくれる。
こんな機能も アルゴリズムにより基礎インスリン量を増量し、必要時には補正インスリンを自動注入する。
1回の受診にかかる
費用の目安*3
約12,000円(1日4回注射の場合) 約20,000円 約30,000円
こんな患者さんに
  • ・インスリン療法をおこなうすべての患者さん
  • ・人目や外出先でのインスリン注射に抵抗がある
  • ・夜間の血糖管理やインスリン注射がつらい
  • ・食事前の追加インスリン量の計算が苦手
  • ・幼稚園や学校などでのインスリン注射に不安がある
インスリンポンプの項目に加えて
  • ・低血糖・高血糖を起こしやすい
  • ・厳格な血糖管理が求められる妊婦さん
  • ・生活が不規則、運転・人前に出ることが多いなど、生活の変化が大きい
  • ・適応年齢は7歳以上

*1 機種によって異なります
*2 糖質インスリン比やインスリンの効果値などを予め設定しておく必要があります
*3 3割負担の場合の窓口支払い額 参考:糖尿病情報センター「糖尿病とお金のはなし


廣田先生からのアドバイス

インスリンポンプ療法やSAP療法、AID療法は、個々人の生活に合わせたインスリン療法を実践しやすい治療法です。一般的には、低血糖、高血糖が減ることだけでなく、生活の質(QOL)が上がることも知られています。安全に用いることが大前提ですが、医療従事者と相談しながら活用し、よりよい糖尿病ライフを過ごせることを願っています。

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