インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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Part1 子どもの成長とSAP療法 前編

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

前編:治療法と機器

お話を聞いた皆さん

高谷具純 先生
千葉大学医学部附属病院 小児科
1型糖尿病/8歳発症/
SAP療法で治療中

AYさん
17歳(高校2年生)
1型糖尿病/12歳発症/
SAP療法で治療中

いと君とご家族
8歳(小学2年生)
1型糖尿病/3歳発症/
SAP療法で治療中

mana さんのお母さん
6歳(幼稚園年長)
1型糖尿病/1歳発症/
SAP療法で治療中

はじめに

高谷具純 先生

私は医師でもあり1型糖尿病患者でもあります。SAP療法をおこなっており、その素晴らしさを体感しています。SAPは、特に基礎インスリンの調節が簡単なので、いろいろなパターンを試して自分に最適な設定を見つけることができます。近年、SAPの性能はどんどん向上しており、低血糖や高血糖時を予測してアラートが鳴ったり、低血糖に備えてインスリン注入が自動停止してくれたりと、血糖コントロールが楽になってきました。最近では、基礎インスリンが自動投与される新しい機器も登場しました。
SAP療法をはじめた私の患者さんの多くが、SAPの機能を便利に使いこなし快適に過ごしておられます。この座談会を通して皆さんにもSAP療法のよさを知ってもらえればうれしいです。

*SAP:文中では、SAP療法のために用いるCGM機能のついたインスリンポンプのことを指します

どうしてSAP療法を始めたの?

いと君父

息子のいとは、保育園のときに1型糖尿病と診断されました。保育園に通いながらでも治療しやすいという点で、SAP療法を選びました。

例えば給食のとき、注射だといちいち親が保育園に打ちに行かないといけませんが、高谷先生があらかじめインスリンポンプの基礎レートを、お昼ご飯に合わせてインスリンが入るように設定してくれましたのですごく助かりました。

SAP機能のおかげで、保育園の先生に血糖値をチェックしてもらえますしいとの体調を気にかけてもらうこともできました。

※SAP療法で測定するのは「センサーグルコース値(間質液中の糖濃度)」で、血糖値そのものではありませんが、座談会の文中では「血糖値」と表現されています。

manaさん母

うちは1歳で糖尿病を発症して入院した際に、先生にお勧めいただくままにSAPに決めました。決め手は低血糖の怖さですね。

まだ小さいmanaは、気分が悪くても自分から訴えることができなかったので、「血糖値が見える」という機能は必須でした。たとえ私がmanaのそばにいなくても、対応方法を知っている方であれば、きちんと対応してもらえるというのは本当に心強かったです。

AYさん

私は小6だったのですが、ポンプと注射をどっちも試して自分でSAPに決めました。針を打つ回数が少ないのと、血糖値が見えること、便利な点から選びました。

manaさん母

うちも、入院中にインスリン注射を教えていただいて打っていたのですが、manaが嫌がって大泣きしてご飯を食べられなかったこともありました。manaが入院して糖尿病とわかったとき、私には糖尿病の知識は一切なく、調べる余裕もありませんでした。すべてがあまりに急激に進んだので呆然としていました。

そんなとき、高谷先生が「実は僕も1型糖尿病でね」ってお話くださって、緊張の糸が一気にほどけましたのを覚えています。

先生は、SAP療法のプロ! 先生から、SAP療法だと基礎インスリン(ベーサル)を何パターンも設定できて、それを使い分けできたり、血糖値が常に見えたり、さらに今のSAPは低血糖傾向になったらインスリン注入が自動で止まって、それが回避できたら再開もすると聞いて、本当にすごいと思いました。

AYさん

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SAP療法を始めるときの不安

いと君父

インスリンポンプが詰まることがあると聞いていたので不安でした。実際使ってみて、やっぱり詰まりましたね(苦笑)。あと、針をどこに打ったらいいのか悩みました。お腹に打つのが怖くて、お尻に打ったりしたこともありました。

高谷先生

患者さんには、ポンプの詰まりが原因でケトアシドーシスになるという話を必ずしますので、それが一番皆さん心配されるところですね。

*ケトアシドーシス:急激に起こる異常な高血糖状態のこと

AYさん

ポンプの詰まりは私にも経験あります。「詰まったときはチューブを交換!」で、対処できるようになりました。

manaさん母

うちの場合は、SAP療法をはじめた当初はもう不安を感じている余裕もなかったですね。最初からSAPのありがたさを感じるばかりでした。


患者さんに聞いてみました ①

Q.インスリンポンプやSAPを使い始めるとき、懸念や不安はありましたか?

インスリンポンプやSAPを使ったことのある糖尿病患者さん69名

出典:2021年糖尿病ネットワークアンケート
(インスリン治療を受けている患者さん260名を対象にしたインターネット調査/2021年10月実施)

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こんなときに便利!SAP療法

いと君父

子どもが小さいと間食をしたいっていうときにすぐ打てるのはすごくいいです。

manaさん母

そうですね。子どもは「今すぐ食べたい」が急に始まるので、SAP療法は本当に便利です。外出先で間食を食べたときも、SAPに表示される血糖値を見て必要なら追加(ボーラス)インスリンを打てるし、すごく助かります。

また、SAP機能のおかげで幼稚園の先生にも血糖値の異常に気づいてもらえやすいです。

AYさん

私の場合は人前で注射を打つのは抵抗があるし、いちいちトイレや保健室へ行くのも面倒だけど、ポンプだったら携帯をいじっているみたいな感じで気軽に追加インスリンが打てます。

SAPに低血糖のときに自動でインスリン注入が止まる機能がついてからは、夜中に起きる回数が減ったのもありがたいと思っています。

SAP機能のおかげで低血糖の心配がかなり減少し、私も夜、ゆっくり寝られるようになりました。

インスリン注射の時代は、低血糖の不安から、寝る前は150mg/dLぐらいにしておかないと駄目かなと思っていましたけど、SAPだと朝起きて見ると低血糖をちゃんと回避しているので夜間のストレスが減ったと感じています。当直中も短い時間ですがきちんと眠れるのでありがたいです。

高谷先生

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取り扱いやトラブル対処法

いと君父

同じ部位ばっかりに打っていると、かぶれて皮膚が硬くなってしまうことがあって、そうなるとインスリンの効きが悪くなってきます。うちでは、ときどきポンプお休み期間を設けることにしています。

特に、親がそばにいてやれる週末は、インスリン注射に切り替えることが多いです。注射に慣れてほしいっていうのもありますし、本人もやっぱり何かが体についているのは煩わしいというのもあるようで。あと、センサーをとめるテープ部分がかゆくなるようで。

今日はセンサーもはずしてるよ!

いと君

いと君母

今日は、CGMもインスリンポンプもはずしていますが、CGMだけ、もしくはインスリンポンプだけという使い方もしています。インスリンポンプをお休みしてCGMで血糖値だけ見たり、CGMはお休みするけど注射をしたくないのでポンプだけつけるとか。

高谷先生

子どもは身体が小さいので、打つ部位も限られてしまいます。皮膚のかゆみには塗り薬もあります。CGMのセンサーやインスリンポンプの注入部を装着する際に保護膜形成剤を使ったり、下にテープを張ってその上に穿刺したり、いろいろ試してもらいます。

AYさん

私も、以前はセンサーを防水テープみたいなので貼って固定していたんですけど、痒くなっちゃいました。テーピングテープを使うようになって、安定してきました。

manaさん母

あとは、幼稚園で、石でできた滑り台を滑ったときに、後ろにポンプがきていたみたいで、スパイベルト*のポケット部分に穴があいたことがありました。その時はそれで済んだのですが、子どもが小さいだけに、ヒヤッとすることはありますね。

*スパイベルト:インスリンポンプ専用のウエストポーチのこと

いと君母

うちもスパイベルトを使っているんですけど、どっかに引っかかるのではと心配です。本人はまったく気にしてないようです。機器が服から出ちゃったりしていても、ぜんぜん気にしない。

それから、やっぱりSAPのエラーも心配です。ただそれ以上に、血糖値が簡単に確認できることが絶対的なメリットだと思っています。学校の先生方にも気軽に確認していただけますので。

AYさん

最初、「未較正」というエラーが出たときは意味が分からなくて、SAPのメーカーがやってる24時間対応してくれるサポートラインに、夜中に電話をかけて相談したことがありあす。言われた通りにしたら解決しました。

manaさん母

基本的な使い方やセンサーやポンプのチューブの交換などは2、3カ月で慣れた感じでしたけども、アラートやエラーなど、知らないことが起きたときは焦ります。

AYちゃんと同じで、使い始めの頃はよく24時間サポートラインに電話して教えてもらって、次は聞かずに対応できるようにと必死にメモして、自分のマニュアルみたいなのを作っていましたね。今では、だいぶ経験値があがりました。

AYさん

どんどんメモして、自分だけのマニュアルになっていくのは私も同じです。

manaさん母

SAPのCGMのトランスミッタが、感度が低いことが2~3カ月続いて、先生に話したらトランスミッタの寿命かもしれないと教えていただき、取り替えたらすぐ解決しました。そういうこともあるのかって、自分では気付けないことでした。

*トランスミッタ:センサーで感知したセンサーグルコース値のデータをCGMに送信するシステム。

うちも、SAPには2~3カ月で慣れたとは思うのですが、最初のうちはやっぱり、マニュアルを何度も読み返しましたね。アラートが鳴るたび、マニュアルで調べていました。

これから成長とともにインスリン量も変化していくでしょうし、季節によってインスリンの効きに変化があることもあります。インスリンの調整はいまだに大変です。

いと君父

いと君母

せっかくなので、いとからみなさんに聞いてみたいことある?

いと君

ない!

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SAP療法に慣れるまで

いと君母

AYさんにお伺いしたいのですが、SAPもご自身でつけられますか?

AYさん

SAPは、お尻はちょっと届かなかったりとか、テープが綺麗に剥がせなかったりとかしちゃうので、お母さんに手伝ってもらいます。でも、腕やお腹は自分で打ちます。

いと君父

小学校の頃から、自分でお腹に打てたんですか?

AYさん

そうです。入院中に練習して1時間くらいでできるようになりました。初めはインスリンポンプの針を入れるのが怖くて怖くて、1時間かけて頑張ってひとりでできるようになりました。1、2、3と、タイミングで決めて打つようにして。結局は慣れですね。

いと君父

痛くはなかったですか?

AYさん

血糖測定で針を刺すことには慣れてました。

いと君母

針を刺すのは、自分でも抵抗あるじゃないですか。それを小さな子どもにするのは、最初は抵抗がありましたが、必要な治療なのでやらざるを得ない。

そういうところからスタートして、親子ともども慣れてきました。今小2ですがどこかのタイミングで、例えば修学旅行とか、いとが自分で対応できるようにしないといけないなと思っています。

manaさん母

うちもいと君のところと全く同じで、今は親が対応しています。

本人にまかせるのは、本人に覚悟ができてから。無理に自分でやらせることで喧嘩になったり、治療をいやがったりするようになるのは避けたいので。AYさんが6年生でできたと聞いたので、それくらいを目標にしたいと思います。


患者さんに聞いてみました ②

Q. インスリンポンプやSAPの取り扱いに慣れるのに、どれくらい時間がかかりましたか?

インスリンポンプやSAPを使ったことのある糖尿病患者さん69名

出典:2021年糖尿病ネットワークアンケート
(インスリン治療を受けている患者さん260名を対象にしたインターネット調査/2021年10月実施)

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あったらいいな、こんな機能

manaさん母

インスリンポンプに、幼稚園や小学校にいる子どもの血糖値が遠隔で分かる機能があるといいですね。

あとは基礎インスリンを自動で設定してくれたら助かります。インスリンの効きが冬は悪くなって夏は逆によくなるし、身体も成長していくので、インスリンの調整は常に試行錯誤ですが、そこを自動でやってもらえたら助かりますね。

いと君父

低血糖になったら補食せずに、グルコースとかを自動で入れてくれる機能かな。

いと君母

遠隔で、ボーラスができる機能があると小さい子どもにはいいと思いますね。

あと、AIがポンプのトラブルのときにエラーメッセージだけじゃなくてアドバイスをくれたり、あと何日でインスリンが切れますといったお知らせをしてくれるといいかな。アラートが鳴るとドキドキしちゃうから、その直前に察知してやさしく教えてくれると嬉しいですね。

AYさん

低血糖のときに自動で血糖値を上げてくれる薬を入れてくれたり、高血糖のときは自動でインスリンを入れてくれたりしたら便利だと思います。あと遠隔もいいですね!夜中にお母さんが見回りに来なくても、スマートフォン操作ができたらお母さんも楽ですね。

高谷先生

先日、新しいSAPが登場しました。トランスミッタが刷新されてスマートフォンと連動するようになり、なによりベーサル(基礎インスリン)を自動で変更してくれます。特に夜間の血糖値が安定するというデータが報告されています。

アメリカでは、自動でボーラス(追加インスリン)が入るさらに新しいタイプも登場しています。ほかには、低血糖時にグルカゴンを注入してくれる「グルカゴンポンプ」を併用するポンプがあり、すでに欧米で試験が行われています。

試験の時は、インスリンポンプとグルカゴンポンプの2つを着けていましたが、それが一体化して一つのポンプにインスリンとグルカゴンの両方を搭載するタイプが開発中です。このように、糖尿病の医療機器は様々な進歩を続けていますので、どうぞ皆さん楽しみにしていてください。


患者さんに聞いてみました!③

Q. SAPを使ってよかったことは?

小児・思春期(18歳未満)でSAPを使ったことのある糖尿病患者さん8名

  • 「低血糖を予防できることが一番大きい。 ボーラスの際、煩わしい計算をしなくてよいのも便利」
  • 「スマートガード機能で基礎インスリンが止まるのがよい」
  • 「どこでもインスリンの追加打ちができるのでカーボカウントが適当になってしまっても安心して間食ができること」
  • 「基礎インスリンの細かな調整、低血糖前自動停止、手軽にボーラスが打てるなど、体の一部として便利に使っている」
  • 「基礎レートのパターンを何個もつくると便利」
  • 「睡眠時の低血糖症状を改善することができた。常時血糖値が分かるので対処しやすい」
  • 「夜間の血糖値が見られること」

出典:2021年糖尿病ネットワークアンケート
(インスリン治療を受けている患者さん260名を対象にしたインターネット調査/2021年10月実施)

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この記事は2022年2月に制作しました。

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