インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

インスリンポンプ・SAP療法座談会
先輩患者さんに聞いてみよう

SAP療法のある生活ってどんな感じ? 経験者にお話しいただきました

Part2  妊娠・出産とSAP療法

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

    お話を聞いた皆さん

    小谷紀子 先生
    国立国際医療研究センター病院
    糖尿病内分泌代謝科
    1型糖尿病/1人目のお子さんを出産後に発症(28歳)/
    SAPで治療中

    さちさん
    1歳8か月のお子さんのママ
    1型糖尿病/19歳発症/
    SAPで治療中

    みーちゃんママ
    5歳の男の子と1歳5カ月の女の子のママ
    1型糖尿病/1人目の妊娠中に発症(38歳)/
    現在はインスリンポンプとisCGMで治療中

    MFさん
    6歳と1歳10カ月のお子さんのママ
    1型糖尿病/38歳発症
    現在はインスリン注射で治療中

    はじめに

    小谷先生

    妊娠・出産に不安を持っておられる糖尿病の患者さんは多いと思います。特に妊娠期間中は、病気が赤ちゃんに影響しないかという不安が頭から離れることはないかもしれません。それでも、私は、患者さんには妊娠期間を少しでもゆったりと赤ちゃんの成長を楽しむ時間にしてもらいたいと願って診療にあたっています。今回は、CGM搭載型インスリンポンプ(以下、SAP)を活用して血糖管理を行いながら無事に元気なお子さんを出産され、今は子育てを頑張っておられる1型糖尿病の患者さんにお集まりいただきました。SAP療法の経験を含めて、妊娠・出産の時期をどんな思いで、どんなふうに過ごしていらしたのか、忌憚のないお話しをお伺いできればと思います。

    *SAP:文中では、SAP療法のために用いるCGM機能(連続的に間質液中のグルコースの濃度「センサーグルコース値」を測定する機能)のついたインスリンポンプのことを指します

    ー「SAP機器」編ー

    糖尿病を発症したときのこと

    小谷先生

    私は28歳で1人目の娘を出産し、育休が明けた矢先に会社の健康診断で1型糖尿病だとわかりました。そして、1型糖尿病の診療に携わりたいと思うようになり、会社を辞めて医学部に進み医師になりました。しかし、研修医になった途端に血糖の状態が悪くなって、3カ月でHbA1cが6%から8%まで一気に上がりました。当時は頻回注射の時代でしたが、白衣の中にインスリンペン(インスリンペン型注入器)や血糖自己測定器は携帯できないし、食事をとる時間もまちまちで、自分の血糖管理ができていないのに、糖尿病患者さんの診療に当たるという矛盾した状況でした。その後、SAPを使用するようになってからは、血糖管理がある程度は適切にできるようになり、すごく楽になりました。

    MFさん

    私は今から3年ほど前、35歳のときに1型糖尿病を発症しました。糖尿病になってからあまり時間が経っていなくて、正直まだ血糖管理も探り探りという状況です。
    発症したときは、2人目の妊活をしている最中で、年齢的にのんびりしている暇もなかったので、血糖管理をすごく頑張って、すぐに先生から「妊娠していいよ」とOKをもらえました。妊娠中の厳しい血糖管理にはSAPが便利だと先生から聞いていたので、妊娠後はインスリンペンからSAPに変えました。
    子どもは、今1歳10カ月。元気に育っていて本当によかったと思っています。

    みーちゃん
    ママ

    私は38歳で発症しました。1人目の妊娠のときに、別の病院で「妊娠糖尿病です」と言われたのですが、よくよく検査をしたら1型糖尿病だったのです。1型糖尿病発症という思いがけないことがありましたが、無事に1人目を出産しました。その4年後、先生から妊娠の許可をいただくことができ、SAPで血糖管理をしながら2人目を出産しました。
    上の子は5歳のお兄ちゃんで、下の子は1歳5カ月の女の子です。

    さちさん

    私は大学2年生の19歳の時に1型糖尿病を発症しました。インスリンポンプは長く使っていて、SAPは妊娠を考えたタイミングで使い始めたので2年半ぐらいです。以前はHbA1cが7%以上あったんですが、SAPを使い始めたらすぐ6%台に下がって、ちょうどその頃に妊娠しました。SAPのお陰であまり心配なく妊娠できたと思っています。
    子どもは、1歳8カ月。よく食べて元気に育ってくれて、本当によかったと思っています。医療従事者として働いているのですが、自分の患者としての経験が生きる場面もあるので、大変なことも多いけど、そこから得るものもあると感じながら1型糖尿病と向き合っています。

    小谷先生

    今回ご参加いただいた皆さんはお仕事されながら、1型糖尿病の管理もとてもしっかりされています。

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    SAPを始めたきっかけ

    さちさん

    SAPは、以前通っていたクリニックで教えてもらいました。それまではインスリンポンプだったのですが、主人に相談したら体のことが一番大事なので、より進化した機器ならぜひ導入してほしいと勧めてくれました。主人は、私の体調が悪いときに何が原因かわからないことや、夜中に低血糖で起きるといったことをすごく心配していました。SAPだと血糖値が誰でも目で見てすぐわかることに魅力を感じました。

    MFさん

    私は、妊活中はインスリンペンで血糖管理がうまくいっていたので、妊娠してもそのままいけるかなと思っていましたし、新しくSAPの治療を一から覚えるのは大変かもしれないとも思っていました。でも先生から、妊娠中はどんどん血糖値が上がっていくのでインスリンの調整が難しいと聞き、また主人も賛成してくれたのでSAPにしました。結果、思いのほかうまくいったと感じています。

    みーちゃん
    ママ

    私の場合は、1人目の出産直前に1型糖尿病とわかりました。外来へ行ったら、そのまま入院しましょうとなり、まずインスリンペンで治療を開始しました。出産後はisCGMとインスリンポンプを使っていましたが、2人目の妊活を開始したときに先生のお勧めもあってSAPにしました。

    *isCGM:間歇スキャン式持続血糖測定。intermittently scanned continuous glucose monitoringの略。フラッシュグルコースモニタリング(FGM)とも呼ばれる。CGM同様に、腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定。センサーに専用端末(リーダー)をかざしてデータをスキャンすることで数値を確認する。

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    妊娠・授乳中のSAPの悩み

    みーちゃん
    ママ

    SAPの機器自体がちょっと大きいので、最初、どこにつけていいのか迷いました。胸の谷間に入れることが多いですが、ワンピースのときは内腿につけたりもしています。うまく装着する工夫が知りたいですね。

    MFさん

    妊娠中はワンピースが楽なので、お腹のところにポケットのあるワンピースを買って、チューブを通す穴を自分で開けていました。

    さちさん

    穿刺はお腹にして、機器はいつもズボンのポケットに入れています。子どもを寝かしつけるときに子どもに奪われちゃうので、そのときは外して別のところに置いています。

    MFさん

    私の場合は、洋服のポケットに入れていたことが多かったです。でも、赤ちゃんを抱っこ紐で抱っこすると邪魔になるので、あれこれ考えて、ランニングポーチという薄くてよくのびるウエストポーチに本体を入れて抱っこ紐に巻き付けていたこともあります。

    みーちゃん
    ママ

    私は母乳ではなくミルクだったので授乳のときは平気でしたが、やっぱり抱っこ紐をつけたときに胸の谷間に本体を入れていると、ちょうど赤ちゃんのおでこにガチガチ当たってしまって困りましたね。

    小谷先生

    確かに赤ちゃんを抱っこしているとちょっと大変ですよね。赤ちゃんの足にチューブが絡まるというお話はよく聞きますね。

    MFさん

    妊娠中期以降はお腹が大きくなるにつれて、お腹に赤ちゃんがいることを実感するので、そこに針をパチンと打つのが、絶対に針が赤ちゃんに届かないことは分かっているけどちょっと抵抗がありました。カチャンって音がすると赤ちゃんがビクッと動くので、「ごめんね」みたいな気持ちになりましたね。

    *針:インスリンポンプのカニューレ(インスリンを注入する細くてやわらかい管)を専用の器具(クイックサータ)などで皮下に挿入する際に刺す針のこと。カニューレ挿入後、針は抜きます。

    私も同じ気持ちでした。打つ前に「今から打つよ」って、赤ちゃんに声をかけてから打っていました。

    さちさん

    みーちゃん
    ママ

    私も気になって、あんまり関係ないとは分かってはいるものの、肉や脂肪の厚みがあるところに打つようにしていました。

    小谷先生

    どこに刺しても大丈夫なのですが、妊娠後期はお腹が前に出てくるので、お腹の横の脂肪の付いている辺りに打つ方がお母さんも安心かもしれませんね。

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    パートナーの協力・両親の心配

    MFさん

    夫はノータッチというか、微笑んで見ている感じでした(笑)。でも親は、そもそも糖尿病になったことを受け入れるのに時間がかかっていて、インスリンポンプが繋がっているのを見ると、いつも「本当に大丈夫なの?」「痛くないの?」と心配していました。

    さちさん

    主人と出会った時点ですでにインスリンポンプをつけていたので、SAPに抵抗はなかったと思います。今では「較正の音鳴っているよ」とか、画面を見て「血糖値が下がってるよ」とか教えてくれます。低血糖アラームで夜中に起こしてしまって、迷惑をかけていた面はあると思います。

    みーちゃん
    ママ

    私の場合は、私も主人も2人とも全く知識がなくて、最新の一番良い方法でやっていこうという気持ちだったのでSAPに抵抗はなかったです。主人が一緒に1型糖尿病やSAPについて勉強してくれたのは心強かったですね。 うちもMFさんと一緒で、私たち夫婦よりも私の親の方がなかなかSAPを受け入れてくれなくて、「こんな機械で本当に大丈夫なのか」と心配していました。できるだけ仕組みを説明したり、低血糖アラームなどのメリットを教えたりしながら、少しずつ理解してもらってきた感じです。

    さちさん

    うちの親は、発症当時は1型糖尿病になったこと自体にやっぱりショックを受けていましたね。自分が悪いのではないかとか、親は自分を責めている感じがありました。インスリンポンプに対しては、私が操作もすぐに覚えて問題なく使えていたので、心配はなかったと思います。

    小谷先生

    小児の患者さんの場合、私たち医師が親御さんとお話する機会が必ずありますが、今のお話を伺って、成人の患者さんでも場合によっては親御さんにもきちんとお伝えすることが大事なんだと知りました。確かに、皆さんのご両親のケアまではできていませんでした。

    MFさん

    インスリンペンの場合は、注射を打っているところを親が見ることはほとんどないけど、インスリンポンプだともう見えちゃっているわけですから、やっぱりこの子は糖尿病なのだっていうことを実感している感じはありましたね。

    小谷先生

    SAPの機器がチューブで体に繋がっている様子をご覧になると、大変なものをつけているように感じるかもしれないですね。

    MFさん

    うちの親は妊娠すること自体に反対していましたね。「リスクを冒してまでもう1人産む必要があるの?」と、私の体のことを心配してくれていました。でも主人と相談して、もう1人欲しいという気持ちが少しでもあるなら、後悔しないように挑戦しようと決めました。

    みーちゃん
    ママ

    うちの親は反対しませんでしたが、子どもへの影響やちゃんと出産できるのかは親も私もとても心配でした。主人と話してとりあえず納得いくまでやってみようってことになって、チャレンジする気持ちで臨みました。

    さちさん

    うちは妊娠に対しての親の反対は全然なかったです。糖尿病のことは私に任せている感じです。ただ私自身が、妊娠中に産科で子どもの頭囲が小さいと言われたとき、糖尿病の影響なのかと心配して泣いてしまったことがありました。糖尿病で妊娠というのはリスクがあるのかなと不安になることは、やっぱり何回かありましたね。

    日本ではSAP以前に、そもそも1型糖尿病をきちんと知っている人が少ないので、すごく大変なことになってしまうのではと不安に思う親御さんが多いのではないかと思います。今日、集まっていただいた皆さんが、無事に出産されて元気に過ごしていらっしゃることが、1型糖尿病を持ちながらでもなんでもできるということの何よりの証だと思います。

    さちさんは妊娠中、赤ちゃんが小さいと言われましたが、結果、赤ちゃんは正常な出生時体重でした。さちさんが心配されていたことに、もっと早く気づいて、しっかり説明を差し上げるべきだったと反省しています。

    小谷先生

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    ー血糖管理とSAP編ー

    妊活、妊娠中の血糖管理

    小谷先生

    妊娠を希望される方は、妊娠前からHbA1c6.5%未満を目標にします。そのため、血糖コントロールをよくする目的で妊娠前にSAPを始める人は少なくありません。さちさんやみーちゃんママさんも、妊娠前からSAPを始められていましたね。

    さちさん

    妊娠してもいいように、厳格に血糖管理をしようと思ってSAP療法にしました。仕事をしているので、SAPだと追加のインスリンも簡単に入れられるし、血糖値もいつでも確認できるのでよかったです。SAPがなかったら厳しい血糖管理はできなかったんじゃないかと思います。SAPは血糖の変動がわかるので、目標範囲に入るように、ちょっとゲームみたいな感じでやっていましたから、厳しい血糖管理もそんなに苦じゃなかったです。

    みーちゃん
    ママ

    私もさちさんと同じで妊娠前にSAP療法を開始して、血糖値が140mg/dL以下になるように常に心がけていました。

    さちさん

    妊娠がわかってから小谷先生のところでお世話になって、HbA1cよりも血糖値を140mg/dL以下にすることが大事と言われていたので、それを意識しました。
    妊娠後も引き続きSAPを使いましたが、仕事中でもちゃちゃっとインスリンを入れられることと、血糖値によって自動的にインスリン量を計算して入れてくれる機能にはすごく助けられています。

    小谷先生

    過去1~2カ月間の血糖値の様子がわかるHbA1cはとても大事な指標ですが、たとえば同じHbA1c6.5%でも、低血糖が多い6.5%と低血糖がない6.5%では全く違います。その点、1日中、血糖の動きを記録してくれるCGMのデータは医療者にとっても重要です。
    MFさんも、妊娠が分かってからはSAPになりましたね。

    MFさん

    妊娠してSAPを使ってみて一番いいと思ったのは、低血糖や高血糖のときにアラームで教えてくれるところです。そして、その都度本当にすぐに、いつでもどこでもインスリンが注入できるし、量も細かく調整できるのがよかったです。
    私は、子どもへの影響という不安から特に高血糖はできるだけ避けたいと思って、何度も血糖値を確認していました。SAPで血糖値がわかることが安心につながりました。一方で、低血糖はそれほど気にしておらず、もし低血糖になったら何か食べればいいかなと思っていました。

    みーちゃん
    ママ

    私も、低血糖になることが多かったんですが、低血糖は食べれば大丈夫と思っていたので、どちらかというと高血糖の方が怖かったです。妊娠中は日に日にインスリンの量が増えてくるのを実感していたので、なるべく血糖値が急激に上がらないように、例えばカレーやそうめんを食べないとか、食事の回数を増やして少しずつ食べたりとかしていました。

    小谷先生

    妊娠中はインスリン抵抗性が上がって、必要なインスリン量が増えてきて、出産前にはさらにガツンと増えます。どんどん状況が変化していくので、血糖管理がなかなか大変なのですが、皆さんはしっかりSAPを使いこなして、妊娠中の変化に対応されていたと思います。

    SAPは常に血糖値が見えるので、みーちゃんママさんのように、経験から血糖値が上がりにくい食事を選んだり、前に5単位であまりよくなかったから次は7単位にしてみたりとか、ご自身で少しずつ改善されていく。そんな試行錯誤を患者さんたちは毎日、1日何回もやっておられるわけです。この取り組みは本当にすごいと思います。
    一方で、私は妊娠期間をなるべく糖尿病のない人と同じようにゆったりと過ごしていただきたいという思いがあります。数字に振り回されることなく、子どもの成長をゆったり楽しめるような使い方ができるようにサポートさせていただかなくてはいけないなと思っています。

    みーちゃん
    ママ

    血糖値が上がったら追加打ちして、下がり過ぎたらすぐに補食してって、血糖管理に振り回されるようなことになりがちなので、あまり気にし過ぎないように過ごしていました。あと、私は低血糖が多くて、低血糖アラートでよく夜に起こされてちょっと困っていたので先生に相談して、睡眠のためにアラートを切ったりすることもありました。

    小谷先生

    低血糖で夜寝られないという状態は、本来あってはならないことです。みーちゃんママさんはご自身のインスリン分泌がまだ残っているのでインスリン注射量を減らして、低血糖が起きないことを確認して、アラートは消しても大丈夫だろうと判断しました。とにかく夜はしっかり寝てほしいというのがありましたね。
    今までのSMBGの1日何回かの「点」のデータではこうした細かな調節は難しい。私たち医療者も、CGMの1カ月分のデータを見て、次の1カ月につなげる、その繰り返しです。

    さちさん

    妊娠中、低血糖は私も寝ている間に結構、ありました。妊娠が進んでいくと、夜中にすごくお腹がすいて起きてしまうので、寝る前に何か食べるようにしていたんですが、血糖値は下げておきたいので、それなりにインスリンを打つと下がり過ぎてしまうこともあって。食べるものとインスリン量の調整は試行錯誤していました。

    妊娠が進むにつれてインスリン量もどんどん変化して、今は朝食5単位ぐらいしか打ってないのですけど、妊娠中は20から25単位ぐらい打っていたので、当時はインスリンカーボ比が変わっていたのだと思います。

    小谷先生

    さちさんは10代で糖尿病を発症され、長い間、自分できちんと管理されていたので、経験を元にインスリン量をどんどん増やされていました。インスリンカーボ比をここまで下げて大丈夫?低血糖を起こしてないの?と心配しながら確認していましたね(笑)。

    MFさん

    ほかにもSAPは仕事中に気軽に打てますし、打つか打たないか迷うぐらいときに、本当にちょっとだけ打つとかできるので、よい血糖管理につながったと思います。

    小谷先生

    インスリンペンだとインスリンを0.5単位刻みまでしか打てないけど、インスリンポンプでは基礎インスリンは0.025単位(基礎流量が1U/hr以下の場合)を30分刻みで調節でき、ボーラスインスリンは0.1単位刻みで調節できます。高血糖、低血糖のアラート機能もありますし、いつでも血糖値を見ながらインスリンの調整ができますね。グルコース値が下がり傾向でもスマートガードが作動するから、ある程度は大丈夫という感じはありましたか。

    *スマートガード:センサーグルコース値が設定値に近づくと(または近づくと予測されると)、基礎インスリン注入を一時停止して低血糖予防をサポートする機能。センサーグルコース値が回復すると自動的に基礎インスリン注入が再開される。

    MFさん

    そうですね。妊娠中でもこの時間帯にこれだけ入れたらちょっと多かったとか経験から学んでいきました。SAPだからこそいろいろトライできたと思います。マメじゃないとできないとも思いました。

    小谷先生

    毎日のトライがしっかり結果につながったと思います。マメな人も、マメでない人も、一人ひとりに合ったSAPの活用に取り組むことで、よりより血糖管理ができるようになると思います。

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    出産・授乳中の血糖管理

    小谷先生

    出産時は点滴でインスリンを注入する方法ありますが、私は、患者さんが他院で出産されるときは、出産の際もSAPを継続して使っていただけるように病院にお願いしています。出産直前は痛みとともに血糖値が上がったり、出産した直後は急に下がったりするので、血糖値をリアルタイムでモニターしながらインスリン量を調整できるように、SAPは外してほしくないと考えます。

    さちさん

    出産時は血糖値を自分で見る余裕はなかったです。私は陣痛促進剤を使って出産したんですが、促進剤のせいか吐き気がひどく、昼食前に食事量分のインスリンを打った後に吐いてしまいました。それで低血糖になり、なかなか回復できなくて、一旦陣痛促進剤をストップすることになりました。これから出産する方は、ちゃんと食べられるかどうかを考慮しつつインスリンを打たれた方がいいと思います。これは私自身の辛い経験になってしまったので、皆さんにお伝えできればなと思っています。

    小谷先生

    さちさんは本当に、大変だったと思います。よくがんばられました。お母さんの血糖値がぐっと上がると、赤ちゃんがインスリンをたくさん分泌するので、新生児低血糖を起こしてしまいます。ですので、不用意にインスリンを控えめに打つのもよくないです。したがって、陣痛促進剤を使う場合は吐き気を警戒して食事量を減らすなどの対策がいいかもしれないですね。

    でも、こうしたことが毎回必ず皆さんに起こるというわけではありませんから難しいです。だからこそ、SAPでいつでも血糖値がわかって、誰でも簡単にインスリンの調整ができるというのは大きいと思います。疲れきっている妊婦さんの指先で血糖自己測定を行うのは、本人もつらいです。

    私は、出産時に小谷先生に立ち会っていただいたので、血糖値のことは先生や看護師さんとSAPにまかせて、安心して出産に臨めました。

    みーちゃん
    ママ

    MFさん

    私も陣痛が来ているときはもう血糖値を確認する余裕はなくて。みーちゃんママさんと一緒で「小谷先生がいるから大丈夫」と出産だけに集中しました。
    陣痛みたいな痛みがちょっときていたけど、1人目の経験からこの痛みはまだ陣痛ではないと思ってたら、看護師さんが血糖値を見て、上がるタイミングじゃないのにこれだけ上がっているっていうことは、陣痛がもう始まっているから部屋を移動しましょうって言ってくれました。出産と血糖値についてよくわかっている看護師さんたちなんだなと感じて、すごく頼りになると思いました。

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    出産後の治療の選択

    MFさん

    私は出産後にSAPからisCGMとインスリンペンに戻しました。SAPは高額なので出産後しばらくまでの間と決めていました。SAPは面倒な部分もありますが、やはり便利なので、これに慣れるとペンに戻せなくなると感じていました。いつかペンに戻すなら早く戻して糖質量の計算に慣れて、ある程度は感覚で打てるようにしたいという気持ちが強かったです。

    みーちゃん
    ママ

    私は出産後にSAPからインスリンポンプとisCGMにしたのですが、先週から新しいCGMに変えました。どちらかというと機械音痴なので、新しい機械についていくのはちょっと大変......。先生からペンに変えてもいいですとおっしゃっていただいたのですけど、もう自分で打つのが怖くなってしまったので、先週からはCGMとインスリンポンプという形にしました。目で見て血糖がわかる状況がやはり安心だと感じています。

    授乳で血糖値が下がると聞いていたので心配していたんですが、私の場合、授乳しても血糖値が下がらないタイプだったので、授乳は考えずに血糖管理ができました。でも赤ちゃんを抱っこしちゃうと、赤ちゃんを下ろすまでインスリンが打てないので、食事がとれないことがありました。子どもが抱っこをしなくてもよくなる年齢まで、もう少しSAPを使うという選択肢もあったのではと思っています。

    MFさん

    小谷先生

    授乳中は思いがけない低血糖に注意が必要ですし、やっぱりお子さん中心になるので、どうしても自分のことが後回しになって、食事を食べそびれることもあると思います。お母さんが、赤ちゃんを抱っこしていて低血糖になっては大変ですから、出産後は多少の高血糖には目をつぶっていいですよとお話ししています。

    MFさんはご自身のインスリン分泌が残っているので、授乳中の大きな血糖の変動もなかったのでしょう。MFさんのような場合には、出産後にペンに切り替えても問題はないと思います。でも、赤ちゃんを抱っこ中にペンだとインスリンが打てないというのは、先ほどお話しいただくまで気付きませんでした。いいアドバイスありがとうございます。

    さちさん

    出産後はやっぱり子ども優先で、自分のことは後回しになっているので、妊娠中みたいな血糖管理はできていないのですけど、SAPは安心感があります。子どもを寝かしつけるのに抱っこしてスクワットして低血糖になったことも(笑)

    小谷先生

    さちさんは、明日から、新しく登場したハイブリッドクローズドループ機能をもつSAPに切り替えですね。

    *ハイブリッドクローズドループ:CGMから5分ごとに得られるセンサーグルコース値にもとづいて、基礎インスリン量を自動調整し、高血糖や低血糖を軽減、血糖値を目標範囲に保つシステムのこと。追加インスリンの注入は自身で設定するため、"人工膵臓"とも呼ばれる「クローズドループ」に対し、「ハイブリッドクローズドループ」と呼ばれる。

    さちさん

    はい、楽しみです。

    小谷先生

    新しいSAPは、機械に学習機能があって、今までのインスリン注入履歴とCGMのデータから、基礎インスリンを自動で調整して注入します。使い方にコツがありますが、血糖管理は楽になると思います。

    みーちゃん
    ママ

    基礎インスリンを自動で調整してくれるのは魅力的ですね。

    MFさん

    血糖管理がすごく楽になりそうで、いいなぁと思います。

    小谷先生

    基礎インスリンを自動で調整する機能が必要かどうかは、人によって違います。もしも今後、ちょっとやってみようかなと思ったら、例えば妊娠期間中にSAPを使ったみたいに1年間だけ使ってみることもできるので、その時その時で気軽に試してみるといいと思います。

    さちさん

    子育てしていると、自分にかまえないことが本当に多いので、機械が代わりにやってくれるのはすごい楽しみだし期待しています。あと、今は食事ごとにマメに較正ができておらず、結果調整もずれてくることがあるので、その点は気を付けたいなと思っています。

    小谷先生

    SAPが日本で一般に使えるようになったのは2014年12月ですが、2015年以降は私どもの病院で妊娠出産された方は全員SAP療法です。しかし、当然ですがSAP療法にしただけですべて問題が解決するわけではありませんし、血糖管理が楽になるだけでなく負担もあります。金銭的な問題もあります。そうしたSAP療法のメリット・デメリットをしっかりご説明したうえで、患者さんが使ってみたいという場合には、たとえば機械が苦手だったり指先が不器用だったりで不安という患者さんもおられますが、そうした場合も全力でサポートします。出産後もSAPを使い続けるかどうかも、経済的な面も含めて、患者さんの希望を聞きながらよりよい方法を一緒に考えていきたいです。

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    月経について

     

    小谷先生

    妊娠・出産とは違うお話になりますが、女性の「月経周期」は血糖推移に影響を与えます。皆さんはどのように調整していますか?

    さちさん

    月経中は、イライラして食べちゃうので、それで高血糖になってインスリン注入の回数が増えがちです。

    MFさん

    私は出産後にインスリンペンに戻したのですが、インスリンペンでも月経直前は基礎インスリン量を上げます。私の感覚ですけど、SAP療法だったら、月経などの変化にもうちょっと楽に対応できるかなっていう思いはあります。変化の波に対応できる元気があるときと、疲れ切ってできないときがあって、疲れているときは血糖値が高めでも、インスリンペンだとそれにちょっと追いつけない感じです。

    みーちゃん
    ママ

    私は月経による血糖値への影響はほとんどなくて。月経よりも運動の影響を感じます。自転車通勤で片道だいたい30分ぐらいなのですが、自転車をこぐと血糖値がばぁーっと下がって、自転車を降りて自宅に着くとちょっと低血糖気味というのをよく経験します。走ることも同様なので、運動による影響は大きくて、血糖管理が難しいと感じます。

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    妊娠を振り返って

    MFさん

    妊娠するまでは常に期待と不安が混じっている状態でした。SAP療法を始めてから、やっぱり細かく調整できるので不安も減ったと思います。もっと早くSAP療法を始めてもよかったのかなと思います。妊娠中は不安がずっと頭の片隅にありました。先生以外にそうした不安について話すことができなかったので、ちょっと辛かった面もあります。

    小谷先生

    外来や療養指導の場だけではなかなか話せないこともあると思います。もっと皆さんとお話しができるような診察の場にしたいと思っています。

    さちさん

    私は妊活中からSAP療法を始めていたので、妊娠したときにはそのメリットをもう十分感じていました。SAPだと、その時点の血糖値やそのトレンドが目で見てわかるので、多くの不安が解消され、糖尿病がない人と同じような感じで割と妊娠に集中できたと思います。 でも、1型糖尿病で妊娠した方でSAPを使っている方の情報が、インターネットで調べても全然出てこなかったので、やはり情報は得にくいと思いました。またコロナ対策で主人が出産に立ち会うことができませんでした。そんな不安要素もありましたが、SAPのお陰でそれほど悩まずにすんでよかったと思っています。

    小谷先生

    さきほども言いましたけど、さちさんが妊娠中にインスリンの量をどんどん増やせたのは、SAPを使っていただけていたからです。私たちもこんなに変化する人もいるのだと学びながらついていきました。SAPは、患者さんにとってQOLに貢献するものであると同時に、われわれにとっては患者さんの血糖値とインスリン注入の状況を把握できる大変有効なツールです。SAPからすごく貴重なデータを得られます。

    みーちゃん
    ママ

    皆さんと同じですけど、妊娠中はやっぱりSAPだと血糖値のデータが目に見えるので、安心感がすごく大きかったと感じます。糖尿病であることの不安はありましたし、なかなか生の情報で出会えなかったというのもありました。今日は私自身、全然知らないことがいっぱいあって、非常に勉強になりました。

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    最後に一言

    さちさん

    忘れかけていたことも多かったので、振り返るよい機会となりました。こうして子どもに手がかかって大変と言えるのも、糖尿病と妊娠と向き合って乗り越えたからこそなんだなと思いました。

    みーちゃん
    ママ

    このように同じ境遇の方のお話など聞ける機会が初めてでしたので大変に勉強になりましたし、私も頑張ろうという気持ちになりました。いろいろお話しをして安心することもできました。大変貴重な機会をありがとうございました。

    MFさん

    1型糖尿病は情報が少ないので体験談というのは本当に心強く私もネットで探し回っていた日々があります。小谷先生以外に1型糖尿病の方とお話しするのは初めてだったので、今日はうれしかったです。
    私が糖尿病を発症したのは、2人目を流産した直後でした。体調が悪いのは精神的なものからくるホルモンバランスの崩れだと思い込んでいました。偶然、産婦人科の担当の先生が以前糖尿病科にいたとのことで血液検査の項目に糖尿病の検査を追加してくださり1型糖尿病を発見できました。症状が出てから3カ月くらい経っていて、その間本当につらくて仕事も生活もままならない状況でした。自分の経験からも、より多くの人に糖尿病について正しい知識をもってほしいと思います。

    小谷先生

    糖尿病の妊婦さんには、妊娠期間中を糖尿病ではない人と同じように過ごしていただきたいという思いがあります。まったく血糖管理の負担がないというのは無理ですが、少しでもQOLを上げて、お腹の子どもが大きくなるのをゆったりと楽しんでほしいです。SAPをうまく使うことで、血糖値に振り回されて焦ることなく、くつろいで過ごしてもらえるようにしたいと思っています。
    今日は私が診察室で聞けていなかったことを聞くことができました。皆さんのいろんなお話を伺えて本当よかったです。今回の座談会のお話が、これから妊娠を考えている1型糖尿病の方やご家族に少しでも参考になるといいなと思っています。

    今日はどうもありがとうございました。

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    この記事は2022年6月に制作しました。

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