Part1 子どもの成長とSAP療法 後編
SAP(Sensor Augmented
Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。
後編:通学・通園
お話を聞いた皆さん
高谷具純 先生
千葉大学医学部附属病院 小児科
1型糖尿病/8歳発症/
SAP療法で治療中
AYさん
17歳(高校2年生)
1型糖尿病/12歳発症/
SAP療法で治療中
いと君とご家族
8歳(小学2年生)
1型糖尿病/3歳発症/
SAP療法で治療中
mana さんのお母さん
6歳(幼稚園年長)
1型糖尿病/1歳発症/
SAP療法で治療中
幼稚園・保育園での過ごし方
いと君母
うちは保育園の途中で糖尿病を発症して、保育園を続けられるか不安がありましたが、保育園の先生たちが受け入れてくださったおかげで無事に過ごすことができました。
小学校に入る3カ月くらい前から、練習のために保育園でも自分で血糖値を測らせてほしいとお願いしたときも、対応していただけました。
manaさん母
manaの幼稚園には上の子がすでに通っていたのですが、manaの事情を説明したら、過去に同じ1型糖尿病のお子さんが通っていた経験があるといわれ、一安心しました。低血糖の対応についてはもちろん、この時間になったらこれぐらい補食をしてほしいとか、補食を取りすぎて高血糖から給食が始まってしまわないようにとか、細かく先生たちにお願いをしました。
先生方には、本当に丁寧に対応していただいています。先日も、「もうすぐ給食なのに、血糖値がちょっと高めなんですが大丈夫ですか?」と電話をもらって、あわててインスリンペンを持って幼稚園に走りました。先生方もきっと不安だと思いますが、対応に慣れてきてくださっている印象です。
保育園や小学校には、あれもこれもお願いするのではなく、ここだけはどうしてもお願いしたいという譲れないポイントを絞って、先生方の心配や事情もお聞きしながら相談していくといいと思います。
案外「それだったらできますよ」と言っていただけることがあるんじゃないかなと思います。うちの場合は、低血糖時の対応だけは譲れないので、話しかけても反応がにぶいとか、注意すべき具体的な状況と対応方法についてお話をしました。
いと君母
患者さんに聞いてみました ④
Q. 幼稚園や保育園・学校、地域など、教育関係者や友人などからインスリンポンプやSAPで治療を行うことへの理解やサポートは得られましたか?
小児・思春期(18歳未満)でSAPを使ったことのある糖尿病患者さん9名
出典:2021年糖尿病ネットワークアンケート
(インスリン治療を受けている患者さん260名を対象にしたインターネット調査/2021年10月実施)
小学校での過ごし方
AYさん
私の小学校には1型糖尿病の生徒はいなかったです。給食前に血糖測定をしようとすると「何やっているの?」とか聞かれたりするのが面倒で。血糖測定や補食を保健室でするのが、ちょっと悩みでしたね。
いと君
僕も、補食は保健室とかほかの部屋で食べてるよ。
いと君母
小学校に上がるときに、体育でボールが当たったりしてポンプが壊れてしまうのが心配だと先生にいわれました。もちろん壊れたら困りますが、それはそれでしょうがないと思っています。「壊れたら困るので球技はさせないでください」とは言いたくないです。1型糖尿病だからできないことはない、なるべくいとの日常生活を制限したくないと思っています。
入園前・進学前の準備
manaは来年小学1年生になるんですが、進級して担任の先生が変わるたびに、学校の先生とはお話をした方がいいんでしょうか? 先生との日々の連絡はどんな風にするといいんでしょう?
manaさん母
いと君母
うちは、新学期が始まるときに担任の先生と栄養士の先生と面談をしています。保育園のときも同じでしたが、先生には、こういうときにはこういう補食をしますといった緊急時のマニュアルを作って渡してあるので、進級時にすり合わせをしています。
いと君父
緊急時マニュアルも連絡ファイルも苦労して作りました。なるべく学校の先生の負担にならないようにと思って。
いと君母
日常生活では、連絡ファイルを作って活用してます。連絡ファイルには、朝の血糖値や保護者からの連絡事項、学校からの連絡事項の枠を作ってあるので、先生には例えば低血糖になった時間、そのときの血糖値と補食についてなどを記入してもらっています。
たとえば、うちは補食用にゼリーを本人に持たせてるんですが、保健室にも置かせてもらっていて、それが少なくなると「補充してください」といった連絡をファイルでやりとりしています。
manaさん母
すごい!ありがとうございます。参考になりました。
いと君母
最初に連絡ファイルをご提案いただいたのは、1年生のときの担任の先生なのですが、前年に同じ1型の子がクラスにいたそうで、その時に連絡ノートを使っていたと教えていただきました。うちでは先生のアドバイスを参考に、ファイルという形にしました。先輩がいたのはありがたかったですね。
manaさん母
同じ学校にいらっしゃるってことですよね。
いと君母
そうなんです。学校内に実はあと2人、1型糖尿病の生徒がいるので、ちょっと珍しいと思うのですが、おかげで学校側もうちの子を受け入れることに対して抵抗はなかったんじゃないのかなと思っています。
manaさん母
なるほど。ありがとうございます。
先日、就学児健診で小学校の教頭先生とお話をしました。1型糖尿病の野球選手やサッカー選手が活躍されていることをご存じだったので、「一番、大切なのは低血糖の対応で、なにか食べれば大丈夫なのね? 入学後に徐々にやっていきましょう」と、とても自然な感じで受け入れてくださった印象です。
中学・高校での過ごし方
AYさん
中学のときは保健室が階下にあり、面倒なのと途中で倒れてしまうのが怖かったから、トイレで補食したりしていました。小学校のころから自分で管理できていた方なので、先生に頼ったことはあまりなかったです。
私の高校はお菓子持参OKだから、もういくらでも補食できます!もちろん授業中は食べられないので、低血糖を感じたら「トイレ行ってきます」って言って、トイレで補食したりしています。
私はこれから大学生とか社会人になることを考えても、不安は特にないです。SAPなら低血糖や高血糖も教えてくれるし、インスリン注入もできるから大丈夫だと思っています。
いと君父
これから大きくなるにつれ、活動が増えてくるのが少し心配です。
AYさん
中学ではテニス部だったのですが、やっぱりポンプを外せないので、ベルトでがっちり固定してそのまま普通に部活をしていました。
高校受験では、試験の最中に補食が必要になったときに普通の教室で取るのは怖かったので、別室で受験をしました。受験する高校や中学の先生と相談して配慮していただけることになりました。
最近、インスリンが出なくなってきているからかもしれないんですが、血糖コントロールが難しくてグラグラ不安定です。でも、SAPのおかげで補食や追加打ちのタイミングもつかみやすいです。
高谷先生
私が子どものときは、SAPはなかったので、注射で頑張っていまして、時代は変わったなぁと思いますね。私は受験のときはやや高血糖気味に調整していました。
私は高校受験の面談で、自分が1型糖尿病であることを話したんですが、すぐに言わなきゃよかったと後悔しました。でも帰りには、これで落とされたらそんな高校行ってもしょうがないなと、心を決めたことを今でも覚えています。結局そこに合格して進学しましたので、話してよかったのかもしれません。
患者さんから、就職の際には1型糖尿病を隠していると聞くことがありますが、1型糖尿病だから駄目っていう会社だったら、入社できても後でいろいろ問題が生じるのではないかとも思います。自分が会社を選ぶ選択権を持てるよう、自分を高めておくのも大事です。私自身は1型糖尿病という病気に負けたくないというのが、頑張る動機付けとなっています。
お友だちについて
いと君母
うちは保育園のときは、クラスのお友達に入院中にいただいた絵本を使って、先生から病気のことを話してもらいました。今、小2ですが、1年生、2年生ともに、やはり先生から新年度の始まりのときにクラスのお友達に話してもらっています。
保育園でも小学校でも、いと本人の同意の上です。これから、中学校とか高校ではどうなるのかまだ分かりません。AYさんは、お友達に話していますか。
AYさん
小学校のときは、担任の先生から病名は言わないで「血のコントロールができなくなる病気」みたいな感じで話してもらいました。どうしても「糖尿病」っていうとあまりいいイメージがないというか。
中学のときは、親しい友達だけに、やっぱり糖尿病とは言わずに「血のコントロールが・・・」みたいな感じで伝えています。その他の友達には、聞かれたら答えるようにしています。高校でも同じようにしています。
manaさん母
話は変わるのですが...、AYちゃん、もしかしてmanaが入院したとき、病院でお会いしていませんか?
AYさん
やっぱり! 私もそう思ってたんです!
manaさん母
AYちゃんがポンプをつけていると聞いて、「どう?」って質問させてもらいましたよね?
AYさん
そうですね!懐かしい。
高谷先生
AYさんとmanaちゃんは同じ時期に入院されたので、お二人でお話をしてもらったことがありましたね。皆さん、1型の患者さんの友達はいますか?いと君はお友だちいる?
うん、お友だちいるよ♪
いと君
いと君母
同じ小学校に、1型糖尿病の男の子が2人、6年生と5年生にいるので、入学前も一度遊ばせていただいたりして交流を持っています。学校に同じ病気を持っている子がいることは、本人も心強いのではと思っています。
AYさん
私はキャンプ*に何回か行って、そこで友達ができました。キャンプはすごく楽しかったです。同じ病気の人には親近感がわいて、自分だけじゃないのだとパワーをもらいました。
*キャンプ:糖尿病を持つ子ども達を対象に全国で実施されるイベントのこと。日本糖尿病協会が主催する「小児糖尿病サマーキャンプ」などがあります。
いと君母
うちも発症してすぐのころに1回だけキャンプに参加しました。同じ病気の友だちを見つけるのにキャンプはいいと思います。
高谷先生
コロナ禍が収束して、早くキャンプを実施できるようになってほしいですね。
manaさん母
うちは同じ病気の友達はいませんね。この前、病院で待っている間に、ちょっとmanaより上のお姉ちゃんかなっていう女の子に話しかけて、どんな状態なのかを聞いたりしました。
あと、病院の待合室で、たぶんオリジナルに作られたんだと思うスパイベルトが見えて気になったので、話しかけて、ベルトを見せてもらいました。いちいちファスナーを開けなくても血糖値が見えるように、部分的に透明のフィルムで作られていて参考になりました。
高谷先生
なるほど、そういう交流もいいですね。みなさん、病院の待合室で他の患者さんに話しかけられたらどう思いますか。
いと君母
全然嫌じゃないです!
AYさん
私ももし何か聞いてくれたりしたら、むしろ、なんか頼ってくれる感じが嬉しいです。
周りのサポートについて
AYさん
低血糖でまだ倒れたことはないのですけど、血糖値30mg/dL台くらいになっちゃったときにお母さんに補食を取ってきてもらったりしました。
いまだに夜中の低血糖のアラームで起きるのが得意じゃないので、お母さんが夜中に見回りに来てくれて、鳴っていたら起こしてくれます。
低血糖のアラートが授業中に鳴ったときなんかは、周りの友だちが「低血糖じゃないの?」って教えてくれるようです。周りが理解してくれているので、いとも補食しやすいのではないかと思います。
いと君父
いと君母
学校の先生から、教室はどうしてもがやがやしていることがあるので、アラート音は最大に設定してくださいとご指示をいただいています。保育園でも同様でしたね。
保育園では先生がたまたま近くにいないときにアラートが鳴ると、周りのお友だちが教えてくれたそうです。お迎えのときに、お友達が「今日いと君ポンプ鳴ったよ」と教えてくれていました。子どもたちが普通に受け入れてくれていてうれしかったです。
manaさん母
いとくんと同じですね。やっぱりお友達が、「アラート、鳴っているよ」って先生に教えてくれたり、私が血糖値を測りに園に行くと、お友達が「manaちゃんあっちだよ」と教えてくれたりします。小さな子ども達ですが、すごく頼もしいですね。
小児慢性特定疾病対策補助について
高谷先生
1型糖尿病は20歳までは小児慢性特定疾病対策補助の対象となります。しかし20歳以上は補助の対象ではなくなりますので、1カ月分の目安としてSAPだと約3万円、ポンプだけだと約1万5千円程度の自己負担となります。
1型糖尿病を難病指定してほしいという要望を学会から出していますが、なかなか実現しない状況です。SAPの1カ月3万円というのは重い負担ですので、その点も将来は考慮しないといけないと思います。
最後に一言
AYさん
ポンプは、本当にインスリン注射とは比べ物にならないくらい便利な面がたくさんあります。特に、血糖値がずっと見られるのはすごくありがたいことなので、本当にお勧めします。
いと君父
うちはもう、これが「当たり前」になってます!
いと君母
その人のライフスタイルによって、例えば子どもだったら習い事なんかでSAPが煩わしいこともあるとは思いますが、もしも迷っているなら、一度試してそこから判断してもいいと思います。状況に応じて、注射と使い分けしたり、一定期間だけ使ったりすることもいいと思います。
manaさん母
うちもSAPありきの生活になっていますが、やはりSAPは血糖値が見えるということが安心につながります。特に小さいお子様だったらまず、試してみてほしいです。
SAPは私自身も使っていて、非常に便利ですし、今後もどんどん進化していくと思います。怖がらずに、一度トライして、そのメリットデメリットを体感していただきたいですね。
高谷先生
番外編 補食に何を食べてる?
AYさん
小学校では、お菓子だと周りの友だちに何か言われそうなので、薬っぽいグルコースを保健室で取っていました。中学はグルコースとスポーツドリンクです。スポーツドリンクは取りやすいのでテニスの部活中に低血糖気味なときは一気に飲んだりしていました。高校はもうお菓子OKなので、チョコレートとか飴とかいろいろです♪
いと君母
保育園のときは、薬っぽく見えるグルコースでした。おやつだと周りのお友だちに「いいなぁ」と言われてしまうのではと心配だったので。最近のお勧めは、お菓子売り場で売っているスティックゼリーです。かさばらないので持ち運びに便利な上、いろいろな味があるので飽きにくい。また、例えばクッキーだと飲み物も必要ですが、ゼリーだと喉越しがよくて食べやすいです。
manaさん母
うちは、幼稚園ではリンゴの乳酸菌です。あとはラムネですね。自宅では、低血糖のときは「好きなおやつが食べられる」ことにしているのでアラートが鳴ると喜んでいます。低血糖はよくないことですが、補食も楽しい雰囲気でと心がけています。外出の際は、ラムネなどを必ず携帯するようにしています。
この記事は2022年2月に制作しました。