腎臓の健康道 ~つながって知る、人生100年のKidney Journey~

特別インタビュー

悲観は禁物「糖尿病関連腎臓病″治療″」を諦めないで
″腎代替療法″も自分らしい選択を

東京女子医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝内科学分野 講師

花井 豪 先生

はない こう
2001年、大分医科大学(現:大分大学)卒業。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・研修指導医・学術評議員。日本腎臓学会、日本透析医学会などにも所属。糖尿病および慢性腎臓病に造詣が深く、糖尿病関連腎臓病に関する臨床研究にも尽力する。

 糖尿病の傍らで慢性腎臓病(CKD)が静かに進行していく「糖尿病関連腎臓病」。後編のテーマは糖尿病関連腎臓病の「治療」。ここ数年で腎臓を守る作用のある新しい薬が次々に登場し、糖尿病関連腎臓病の見通しは以前より明るいものになりました。薬を正しく使うこと、現状を維持するために大切なこと、自分らしい治療などについて、前編に続き花井豪先生が解説します。(関連記事:前編「無症状のままCKDが進行―糖尿病関連腎臓病 定期的な検査で、見るべき項目とは?」)

 ※慢性腎臓病(CKD):腎臓の働きが健康な人の60%未満に低下する(GFRが60mL/分/1.73 m2未満)か、タンパク尿が出るといった腎臓の異常のいずれか、または両方が3か月以上続く状態のこと

新しい糖尿病治療薬の「腎保護効果」

 糖尿病性腎症が原因で透析を始める方の割合は、2015年から低下傾向が続いています1)。その大きな理由の一つと考えられるのが、腎臓を保護する効果のある新しい薬の登場です。ここでは、腎保護が期待できる3種類の薬を紹介します。

●SGLT2阻害薬

 尿の中に糖を出すことで血糖値を下げるお薬ですが、腎臓を保護する働きがあり、腎機能低下の抑制を示すことがわかってきました。腎機能低下が進み、eGFRがかなり低下している方、たとえば30mL/分/1.73m2前後でそろそろ透析導入を考え始めなければいけない状況にある方にも、腎臓を守る目的で使うことがあります。知っておいていただきたいのは、この薬は飲み始めに腎機能が一時的に少しだけ悪くなる(eGFRの低下)現象が起こることです。それを知らない患者さんは次の受診時に検査結果を見て驚いてしまうので、「最初にeGFRが少し下がってしまうけれど、その後は低下のカーブがなだらかになります。長く続けるほど得なのですよ」と、グラフを描いて説明するようにしています。腎保護効果の目安になるのは、尿アルブミンの値です。とくに尿アルブミンが30mg/gCr以上の方には、積極的に使うことをおすすめしています。
*eGFR、尿アルブミンについては、前編「無症状のままCKDが進行―糖尿病関連腎臓病 定期的な検査で、見るべき項目とは?」をご参照ください。

●MR拮抗薬(非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)

 2型糖尿病を合併するCKDの薬で、長い目で見て腎機能の低下を抑えます。これも一時的にeGFRが下がることは知っておいてください。また、血中のカリウム値が上がりやすくなるので、カリウムの多い野菜などを摂りすぎないように注意していただき、血中のカリウム濃度の値を見ながら使います。服薬を始めると、数か月程度でも尿アルブミンの量が改善することがあります。「尿アルブミンが下がってきましたね」と一緒に確認できるので、患者さんの励みになります。

●GLP-1受容体作動薬

 血糖値を下げる糖尿病の薬ですが、食欲を抑え、体重を落とす効果がある、いわゆる「やせ薬」として広く知られるものも含まれます。また、腎保護が期待できそうな薬でもあります。血糖値を下げることはもちろん、薬によっては体重減少が見込めますが、腎保護作用については研究報告が他の2種よりまだ少なく、エビデンスが確立されているとはまだ言い難いと考えています。あくまで私の場合ですが、先述の2種の薬をまず使い、効果が不十分な場合にGLP-1受容体作動薬を加えています。体重減少が見込める薬は、必ずしも肥満の方ばかりが使うわけではありませんが、少なくとも明らかに痩せている方には使いません。

腎機能低下を防ぐために適正なHbA1cを保とう

 できるだけ現時点の腎機能を維持するには、先に挙げた薬を使うことと併せて、糖尿病関連腎臓病の早期から血糖値を適正に保つことが重要です。血糖管理がうまくいかず、eGFRの低下と尿タンパクの増加が進むと、脳梗塞や心筋梗塞といった深刻な影響が及びかねません。

 ただし血糖値については、日々の数値に一喜一憂し過ぎる必要はありません。前編でもお話ししたように、CKDは長い時間をかけて進行します。腕や腹部に装着した小型センサーで1日の血糖値の変化を継続的に測ることができる持続グルコースモニタリング(Continuous Glucose Monitoring:CGM)は、糖尿病のある人が自分の血糖値の動きを知るにはとても良いものですが、CKDの進行を防ぐという意味では、1日の血糖値の細かな変動よりも、長期的な血糖の状態を反映したHbA1cのほうが大切です。毎回の受診時にHbA1c値を確認して、糖質や脂質の摂り過ぎを控えるなど食生活に留意してください。

高齢患者さんは頑張り過ぎないことも大切

 CKD早期の高齢患者さんにどこまで腎臓を守る治療を徹底するかについては、医師としていつも悩ましく感じています。たとえば80歳の時点で、eGFRが50mL/分/1.73m2、尿アルブミンが100mg/gCr前後という方であれば、多くの場合、透析治療が必要になることはありません。そのような方にまで「透析導入を防ぐために厳しく血糖管理をしましょう」というのは、過剰なのではないかと思うのです。

 それに、食事療法を頑張り過ぎると、前編でお話ししたフレイル(筋力が落ち、全身が弱ってしまうこと)が進行してしまうリスクがあります。血糖を気にするあまり食事を減らし過ぎて、ふらついて転ぶなどして、骨折して寝たきりになってしまっては本末転倒です。

 私は、患者さん個々の健康状態や活動の程度、生活の質(QOL)を見ながら判断しており、正直なところ、かなり"甘い"ほうだと思います。HbA1cが多少上がっても、それによる差し迫った不利益がなければ、しっかり食べて毎日を楽しく過ごしていただくほうが、よほど大切だと思うからです。ご本人やご家族の希望も聞きながら、その方に合ったちょうどよい加減を探しています。

 その一方で、50代~60代の方については、食事療法にも力を入れて血糖を管理していく意義は大きいと考えます。年齢と腎臓の状態の両方を見て、力の入れどころを決めていくことが大切です。

eGFRの急激な低下は、薬や脱水の影響も

 eGFRがどの程度低下しているかは、CKDの進行状態を把握するうえでとても重要です。最近は電子カルテが普及し、eGFRの経時的な変化がわかりやすくなりました。
 極端に大きくeGFRが低下したとき、たとえば「CKDの初期だと思っていたのに、次の受診では10mL/分/1.73m2以上も下がっていた」というような場合、多くは脱水や他の薬による影響が考えられます。たとえば、利尿剤の効き過ぎによる脱水や、NSAIDs(エヌセイズ、市販の鎮痛剤)の使用で下がったりします。この場合は、薬を調整したり、水分をしっかり摂っていただいたりすることで、たいていは元に戻ります。

透析か、移植か 腎代替療法の選び方

 患者さんの中には、さまざまな努力をしても腎機能の低下が抑えられず、腎代替療法が必要になる方もいます。腎代替療法には「腎移植」「血液透析」「腹膜透析」の3種類があり、患者さん個々に最も適したものを選択します。

 腎移植は、「生体腎移植」と「献腎移植」があります。日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録された方から、死後腎臓を提供してもらう「献腎移植」は現在、平均的な待機時間が約15年2)となっています。透析の前に移植を行う「先行的腎移植」という方法もあります。

 透析療法の選択肢では、糖尿病関連腎臓病の患者さんにとって血液透析と腹膜透析のどちらが良いという明確なデータはなく、基本的には同等です。日本では血液透析が主流で、腹膜透析は数%にとどまっています。血液透析は「医療者に全てお任せしたい」という方には安心感があるようですが、週3回・毎回4時間程度の長い時間が必要です。腹膜透析は自宅で自分の生活に合わせて行えるため、社会的な活動や通院負担の面で利点があります。

 最近は高齢の方にこそ通院負担の少ない腹膜透析を、という考え方もあります。私も80代で腹膜透析を始められた方を診ていますが、月に一度の通院でトラブルもなく、とても喜んでおられます。なお、腹膜透析液にはブドウ糖が含まれているものがあるため血糖値が上がりやすくなりますが、現在は透析療法を受けている方でも薬で血糖コントロールができますので、それを理由に避ける必要は全くないと考えています。

早期なら正常に戻る可能性も

 糖尿病のある方のうち、糖尿病関連腎臓病の方は約30%3)と決して少なくありません。しかし、実際に透析療法を受ける方は、糖尿病のある方全体の1%以下とごくわずかです。「慢性腎臓病(CKD)」や「腎機能低下」などと聞くと、すぐにでも透析になるのではないかと悲観してしまう方が多いのですが、そこには大きな隔たりがあります。

 そして、早期の慢性腎臓病(CKD)、つまり尿アルブミンが少し出ているといった段階であれば、治療によって数値が正常に戻る「寛解」も十分にあり得ます。薬も進歩し、たとえ寛解に至らなくても、透析までの時間を確実に延ばせる手段が増えてきました。糖尿病関連腎臓病の見通しは、確実に良くなっています。

 ですから、糖尿病関連腎臓病や慢性腎臓病(CKD)と言われても、どうか諦めず、基本治療である食事・運動などに気をつけ、薬を毎日きちんと続けてください。それが腎臓を守るための大きな力になります。

■参考文献

  • 1)正木崇生, 花房規男, 阿部雅紀, 他.わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在). 透析会誌2025; 58: 524-590.
    https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2024/pdf/03.pdf
  • 2)公益社団法人日本臓器移植ネットワークウェブサイト
    https://www.jotnw.or.jp/ishokujijou/current-status/transplant-hopefuls.html
  • 3)清水美保, 古市賢吾, 和田隆志. 糖尿病性腎症の疫学・病態. 日腎会誌 2017; 59(2): 43‒49.
    https://jsn.or.jp/journal/document/59_2/043-049.pdf
  • 提供:株式会社ヴァンティブ メディカルアフェアズ部