2型糖尿病は肝臓と膵臓で過剰な脂肪が蓄積されることで引き起こされるという研究が発表された。
"いったん糖尿病になったら一生治らない"と言われることが多い。しかし、肥満のある人は、食事療法で体重を減らし、体にたまった余計な脂肪をなくせば、糖尿病を根治できる、少なくとも血糖コントロールを大きく改善できるという。
肝臓と膵臓にたまった脂肪が糖尿病の原因
英国のニューカッスル大学のロイ テイラー教授らは、肥満のある2型糖尿病の人は、カロリーを適切に調整した食事により、体にたまった余分な脂肪を取り除けば、糖尿病が「治った」状態を維持できるという研究を2017年に発表した。
テイラー教授によると、2型糖尿病には共通する病態があるという。
・ 過剰なカロリー摂取により肝臓に過剰な脂肪がたまる。その結果、血糖を下げるインスリンに対する肝臓の反応が鈍くなる(インスリン抵抗性)。
・ インスリン抵抗性が起こっても、はじめのうちは膵臓のβ細胞から多くのインスリンが分泌され、血糖値を一定に維持しようとする。すると全身で脂肪がたまりやすくなる(高インスリン血症)。
やがてβ細胞は疲弊し、インスリンの分泌が悪くなる。そうなると、血糖値は上昇する。
2型糖尿病の人の多くに肥満がみられる。肝臓にたまる脂肪は、皮下脂肪、内臓脂肪に続く第3の脂肪ともいうべきもので、放置していると血糖コントロールの悪化の原因になるだけでなく、動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。
脂肪は肝臓だけではなく、膵臓にもたまる。そうなるとインスリンの分泌はさらに悪くなる。早い段階で発見し、食事や運動などの治療を開始することが大切だ。
体脂肪を減らせばβ細胞は再び正常に機能しはじめる
英国の国民保健サービス(NHS)が実施し、英国糖尿病学会(Diabetes UK)が支援した大規模な研究「DiRECT」では、体重コントロールに着目した新しいアプローチにより、2型糖尿病をどれだけ改善できるかが検討された。
研究グループは、発症後6年以内でBMIが30以上の肥満のある2型糖尿病患者を対象に、食事療法や運動療法を中心とした集中的な体重コントロールに取り組む介入群と、従来通りの治療を行う対照群にランダムに割り付けた。
介入プログラムに参加した149人の患者は、徹底した低カロリー食を続け、ウォーキングなどの運動を毎日行い、専門のスタッフによる食事や運動、ストレスへの対処や睡眠などについてのアドバイスを受けた。
その結果、介入群では46%(68人)が血糖コントロールが改善し、12ヵ月でHbA1cの値が6.5%未満に下がり、糖尿病から離脱できたことが明らかになった。多くは薬を飲む必要もなくなったという。
2型糖尿病から離脱できた人と、そうでない人を比較したところ、離脱できた人は体重10kg以上減らしており、36人(24%)は体重を15kg以上減らした。
2つの群の最大の違いはインスリンを産生するβ細胞だと考えられている。減量により血糖コントロールが安定した群では、β細胞は再び正常に機能しはじめ、体が必要とする適切な量のインスリンを分泌するようになった。
体重を落としたらその状態を維持することが重要
食事をコントロールし、体の脂肪の蓄積が減ると、膵臓でのインスリンの産生が改善する。2型糖尿病の人は、発症後10年以内なら、肥満を解消し肝臓と膵臓に蓄積した脂肪を減らすだけで、糖尿病が「治った」と同じ状態を維持できると、テイラー教授は指摘している。
テイラー教授らは「DiRECT」研究の2年後に、参加者を対象に健康診断を実施。その結果、糖尿病から離脱した人の半数は糖尿病を再発していなかったが、一部の参加者は糖尿病が再発しており、体重も元に戻っていた。
糖尿病から離脱した人の血液を検査して、肝臓で生成される中性脂肪(トリグリセリド)を測定したところ、正常値であることが確認された。また、内臓をスキャンした結果から、膵臓にも脂肪が蓄積されておらず、インスリン分泌機能も正常であることが分かった。
一方、体重が増え、糖尿病を再発してしまった人の血中トリグリセリド値は、糖尿病が寛解した時に比べて上昇しており、膵臓にも脂肪が蓄積されていた。
脂肪は肝臓や膵臓にもたまる
「体重が標準体重を超える肥満の人にとって、減量がいかに重要であるかが示されました。とくに肝臓や膵臓に脂肪が蓄積された状態は危険です。2型糖尿病と診断され、肥満があったら、体重を減らすことにすぐに取り組むべきです」と、テイラー教授は述べている。
テイラー教授によると、皮下に蓄えられる脂肪量には個人差があり、この限界量を超えると脂肪は肝臓に蓄積され、さらに脂肪が増えると膵臓にも蓄積される。これにより、膵臓でインスリンを生産しているβ細胞が疲弊し、2型糖尿病が引き起こされる。
脂肪肝の治療の必要性が広く説かれるようになったが、脂肪は膵臓にもたまることにも注意を向ける必要があるとしている。
しかし、このプロセスは可逆的であり、食事療法と運動療法で体にたまった余分な脂肪を減らせれば、糖尿病を発症する以前の状態に戻すことができる――こうしたメカニズムを、テイラー教授は「ツインサイクル仮説」と呼んでいる。
糖尿病を発症する以前の体に戻すことができる
テイラー教授は、2型糖尿病は「過剰な脂肪が肝臓から膵臓にあふれだし」発症すると表現している。2011年に発表した研究では、低カロリー食によってカロリー摂取量をコントロールすると、肥満が解消され、脂肪蓄積が引き起こす負のサイクルが一気に逆転しはじめることが確認された。
「大切なことは、食事や運動などの生活習慣の改善を徹底して行えば、糖尿病を発症する以前の状態に戻すことは決して不可能ではないということです。糖尿病の発症が分かったら、すぐに生活習慣の改善を始めるべきです。介入が早いほど成功する可能性は高くなります」と、テイラー教授は言う。
肥満の人は時間をかけて計画的な減量を
過剰な脂肪の蓄積を減らすにはどうすればいいのだろうか。テイラー教授は、まずはゆっくりと体重を減らすことを勧めている。脂肪肝のある人では、半年から1年をかけて体重の7~10%を落とすと、内臓脂肪や脂肪肝は改善する。体重70kgの人なら5~7kg程度の減量になる。
体重を落としたら、その状態を維持することも重要だ。いったん過剰な脂肪の蓄積をなくして血糖コントロールが改善しても、再び脂肪が増えはじめると、やがて血糖値は上昇するようになる。
低カロリー食によってカロリー摂取量をコントロールし、時間をかけて計画的に体重を減らしていけば、リバウンドする可能性を減らすことができる。さらには、運動などを併用し筋肉を増やすようにすると効果的だ。
NHSは2020年に、イングランドとスコットランドで最大5,000人を対象に、短期間の集中的なコントロールにより、2型糖尿病を改善できるかを調べる試験を開始する予定だ。
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[ Terahata ]