「1日1万歩」のウォーキングを続けることで、肥満を改善でき、血管の状態も良くなり、動脈硬化を予防しやすくなる。しかし、この目標を達成できない場合でも、あきらめてはいけない。
ウォーキングの速度を少し上げて、「活発なウォーキング」を心がければ、少ない時間でも十分な健康効果を得られるという研究が発表された。
さらに、ウォーキングをする時間は食後が効果的だという。
「1日1万歩」のウォーキングを実行するのは難しい
保健指導ではウォーキングの目標として「1日1万歩」をアドバイスされることが多い。しかし、この目標を達成できる人はそう多くない。しかし、あきらめてはいけない。座ったまま過ごす時間をなるべく減らして、ウォーキングの速度を上げて、「活発なウォーキング」を1日に3,000歩行うだけでも、血圧値や血糖値を下げられ、コレステロール値も低下し、肥満を解消できるという研究が発表された。
「米国人は1日の歩数の平均は5,000~7,000歩です。これに30分のウォーキングをプラスすると、1日の歩数は1万歩に近づき、ガイドラインで推奨されている"週に150分の運動"を達成できます。しかし、毎日忙しく過ごしている人にとって、この目標を達成するのは困難です」と、米国のオレゴン州立大学公衆衛生・人間科学部のジョン シューナ氏は言う。
研究チームは「米国健康・栄養調査」(NHANES)に参加した20歳以上の男女3,388人を対象に調査を行った。参加者に活動量計を渡し、1週間の歩数と、1分間の歩数をはかってもらい、同時に腹囲、血圧、BMI(体格指数)、空腹時血糖、インスリン値、コレステロール値などを測定した。
参加者のうち1日1万歩を達成していたのは、男性では上位の20%だった。女性の上位の20%の平均歩数は9,824歩だった。1日の歩数が1万歩を超えている人は、歩数が5,000~7,000歩の人に比べて空腹時血糖、インスリン値、コレステロール値が低く、肥満が少ない傾向が示された。
「1分あたり100歩」のウォーキングが体を変える
一方で、「ウォーキングの速度が1分あたり100歩」を1日に30分維持している人でも、歩数の合計が1日1万歩に達していない場合でも、検査値が良好であることも分かった。「1分あたり100歩」のペースでウォーキングをしている人は上位25%だった。
「運動は、しないでいるよりも、した方が良いことは多くの方が認知しています。しかし、1日にまとまった運動の時間をとるのは、なかなか難しいものです。そうした人でも、ふだんのウォーキングの速度を少し上げただけでも健康効果を得られます」と、シューナ氏は言う。
「1分あたり100歩の活発なウォーキングを1日3,000歩」という目標は、多くの人にとって取り組みやすい。3,000歩のウォーキングは体力的に無理な場合は、10分間のウォーキングでも良いという。10分間の運動であっても、回数を重ねることで運動による恩恵を得ることができる。
シューナ氏によると、「1日1万歩」という目標が広く知られるようになったきっかけは、1960年代に日本で発売された万歩計だ。「漫然とゆっくりと歩く場合と、活発に歩く場合では、1万歩を達成しても健康に対する影響は異なります。ただ歩数をはかっただけでは効果を得られない可能性があります」と、シューナ氏は説明する。
オレゴン州立大学では、ウォーキングのペースや速度を毎分測定し、利用者に最適なウォーキングのペースを知らせる活動量計の開発にも取り組んでいるという。
食後の10分間のウォーキングが食後高血糖を改善する
2型糖尿病の人は、食後に10分間のウォーキングすることで、食後の血糖値の上昇を抑えられるという研究を、ニュージーランドのオタゴ大学が発表した。
研究チームは、2型糖尿病患者41人に参加してもらい、(1)1日の中で時間を決めず30分歩く、(3)朝・昼・晩の食事の後にそれぞれ10分間歩く――の両方に2週間取り組んでもらった。研究は、1ヵ月間のインターバルをおいてどちらかの方法でウォーキングを行う、クロスオーバー比較試験として行われた。
参加者に、活動量計と5分毎に血糖測定する持続血糖測定器を装着してもらった。その結果、1日のうち時間を決めずウォーキングを行った場合に比べ、食後にウォーキングをすると、食後血糖値は平均して12%低下することが明らかになった。
参加者の多くは日中は座ったまま過ごす時間が長く、夕食で炭水化物をもっとも多く摂っていた。ウォーキングの効果は夕食後がもっとも大きく、血糖値は22%低下した。
「ウォーキングは食後に行うと、もっとも血糖値を下げる効果を得られることが分かりました。2型糖尿病患者が血糖コントロールを改善するために、食後の血糖値の上昇を抑えることは重要です。特に食事に炭水化物が多く含まれるとき、食後のウォーキングは効果的に血糖値の上昇を抑えます」と、オタゴ大学人間・栄養学部のアンドリュー レイノルズ氏は言う。
英国のケンブリッジ大学とロンドン大学の研究では、30分のウォーキングを週5回行っている人は、2型糖尿病の発症リスクが26%低下することが判明した。しかし調査では、運動をする習慣をもたない人が44%に上ることも明らかになった。
「運動を続けるのが難しいという人は、10分間のウォーキングであっても効果があるので、とにかく運動を始めることをお勧めします。そして運動をする時間は食後30分~1時間後が効果的です。糖尿病の治療ガイドラインにも、このことを含めるべきです」と、レイノルズ氏は指摘する。
Want to optimize those 10,000 (or fewer) steps? Walk faster, sit less(オレゴン州立大学 2016年10月13日)
Short walks after meals may prove important tool in managing diabetes(オタゴ大学 2016年10月18日)
[ Terahata ]