魚油のDHAやEPAによる脂質代謝の改善効果は摂取時刻によって異なることを、産業技術総合研究所(産総研)が明らかにした。DHAやEPAを朝に摂取すると、血液と肝臓の中性脂肪の低減効果を得やすいという。
生体リズムを利用した時間栄養学の研究
睡眠や深部体温、血圧、糖代謝や脂質代謝など、ほとんどの生理機能には日内リズムがあり、「体内時計」によって制御されている。
「時間栄養学」は、「何をどのくらい食べるか」という従来の栄養学に、「いつ食べるか」という体内時計の視点を加えて、食事のリズムと機能性との関係について研究する新しい学術分野。
食の機能性を高めるための至適摂取時刻や、食を利用した睡眠や体内時計のコントロールなどに関する研究が注目されている。
産業技術総合研究所(産総研)は、体内時計に関する研究開発を行い、生体リズムを利用した時間栄養学の成果を実践することによる健康長寿社会の実現を目指している。
食を中心とした生活習慣による積極的な生体リズムの制御や、食品成分の機能性と至適摂取時刻との関係の基礎研究に取り組んでいる。
DHAとEPAの摂取時刻と機能性の関連を調査
DHA(ドコサヘキサエン酸)およびEPA(エイコサペンタエン酸)は、ニシン、サバ、イワシ、マグロ、カツオ、サンマ、ブリなどの魚油に多く含まれている。人間の体内ではほとんど作られないが、体の機能維持に必要な脂肪酸だ。
DHAやEPAには、心血管障害の抑制効果や抗アレルギー効果、脳機能向上効果、脂質代謝の改善効果などのさまざまな機能性があることが報告されている一方で、魚油の摂取時刻と機能性との関連性についてはよく分かっていない。
そこで産総研は、2013年よりマルハニチロと共同で、魚油に含まれるDHAとEPAの摂取時刻と機能性の関連性について研究を行っている。
体内時計は、睡眠覚醒や深部体温、血圧、免疫機能、脂質代謝などのさまざまな生理機能の日内リズムをコントロールしており、薬物の代謝や食物の消化・吸収にも日内リズムがみられる。
DHAやEPAは朝に摂ると良い 血液と肝臓の中性脂肪が低下
研究チームは、マウスを明期12時間・暗期12時間の環境下で飼育し、魚油の摂取時刻による機能性の違いを調べた。
マウスを、(1)魚油を含まない果糖過剰食を与えた「コントロール群」と、(2)朝食に相当する時間帯に12時間だけ4%の魚油を含む果糖過剰食を与え、残りの12時間は果糖過剰食のみを与えた「朝摂取群」、(3)夕食に相当する時間帯に12時間だけ4%の魚油を含む果糖過剰食を与え、残りの12時間は果糖過剰食を与えた「夕摂取群」の3群に分け、2週間の自由摂食の飼育を行った。
その結果、1日あたりの魚油の摂取量は朝摂取群と夕摂取群との間に有意差はみられなかったが、血液と肝臓の中性脂肪の量は、コントロール群に比べて朝摂取群だけに有意な低減効果があった。
また、DHAとEPAの血液中の濃度を測定した結果、朝摂取群の血中濃度は夕摂取群よりも有意に増加していることが判明した。このことは、朝の魚油の摂取は、DHAやEPAの血中濃度を高め、脂質代謝を改善することを示している。
研究グループは、なぜ時刻によってDHAやEPAなどの機能性成分の吸収や中性脂肪の低減効果が変わるのかを分子メカニズムで明らかにし、ヒトについても魚油の至適摂取時刻を検証する研究を目指している。
この研究は、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門生物時計研究グループの大石勝隆研究グループ長と、マルハニチロとの共同研究によるもの。成果は、11月に名古屋大学で開催される第23回日本時間生物学会で発表される。
産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
[ Terahata ]