ゆっくりと糖質が消化吸収される「スローカロリー」が肥満や生活習慣病の予防・改善につながり、日本人の食生活の課題を解決する鍵となる可能性がある。「スローカロリー研究会」が、糖質の“質”に注目し、健康的な生活スタイルを提案する取り組みを行うと発表した。
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一般社団法人スローカロリー研究会」(理事長:結核予防会新山手病院生活習慣病センターセンター長・宮崎滋氏)が3月4日に東京で、「第1回講演会」を開催した。
食品の組み合わせを考慮し生活習慣病を予防・改善
現在の日本人は一般的に肥満になりやすい食生活をおくっている。その背景には栄養バランスの良い和食から脂肪摂取量の多い欧米型食生活への変化がある。エネルギー摂取量と糖質摂取量は1970年代から年々減少しているが、ソフトドリンクやお菓子などに含まれる果糖の摂取量は増加し続けている。それに合わせるよう、日本人のBMI(体格指数)は上昇し肥満が増えている。
日本では「肥満やメタボリックシンドローム」「2型糖尿病などの生活習慣病」「高齢者の低栄養やサルコペニア」「若年女性の不健康な痩せと低体重児」などの増加が公衆衛生上の課題になっている。これらを防ぐポイントとなるのは適切なエネルギー(カロリー)の摂取と、食品の組み合わせを考慮することだ。腹八分と運動により適正体重を維持し、炭水化物を量的・質的に調整し、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐことが重要になる。
3大栄養素のバランスが基本
「食の基本は、3大栄養素のタンパク質、脂肪、炭水化物(糖と食物繊維)のバランスです。1日のエネルギー量の50〜60%を炭水化物からとるのが適正で、炭水化物を減らすとタンパク質と脂肪が増える傾向がある。そうした栄養の偏りによって肥満が増加し、その結果、高血圧、脂質異常症、糖尿病が増加しています」と、宮崎氏は述べた。
3大栄養素については、各栄養素の過不足が起きないよう注意することも重要だ。糖質制限ダイエットを行う人もいるが、糖質制限によって、必要な栄養素の一つを極端に減らすと栄養バランスを欠くことになる。また、急な食事制限をすると、タンパク質がエネルギー源として分解されるようになり、筋肉量が減ってしまい、その結果、かえって代謝が低下して太りやすい体質になるおそれがある。
「現在われわれが住んでいる社会では、食べ物には不自由しない。至る所にコンビニエンスストアや自動販売機があり、簡単に食べ物が手に入り、食欲に対して誘惑も受けやすい。また、運動面でも私たちは身体活動をしなくて済むようになりました。職場や家庭で1日ほとんど座ったままで過ごしているという状況です。エネルギーを使わず、反対にためこみやすい生活になったといえます」(宮崎氏)。
「スローカロリー」で糖質の消化・吸収がゆっくりに
「スローカロリー研究会」は生活習慣病予防の観点から、糖質の「質」に着目し、どのような糖質をどのように食べるか、どのように代謝されるのかを検討することを重要なテーマとしている。また、糖質の「量」の観点から、食べ過ぎず偏り過ぎない食事スタイルを提案し、糖尿病の食事療法で応用されている「カーボカウント」まで視野を広げて検討する。
「人はそれぞれの生活環境の中で、年齢や体調、趣向に合った食を選択しなくてはなりません。中でも、糖質は私たちが生きるために必要なエネルギー源であり、思考や活動のために中心的な役割を果たしています。糖質摂取量が極端に落ちると、思考力や活動力も落ち、栄養バランスが崩れてきます。むしろ、糖質を適切に摂取しなくてはいけない人がいます」(宮崎氏)。
スローカロリーの血糖変化
同研究会が提唱する「スローカロリー」は、糖質の小腸での消化・吸収速度がゆっくりであることを示す。カロリーがゆっくり吸収される食品を選ぶことで、糖質(ブドウ糖)の吸収が遅くなり肝臓への糖流入速度が遅くなる。血糖値がゆっくり上昇・低下し、インクレチンの分泌を高めて適量のインスリンの適量分泌を促すことで、内臓脂肪の蓄積を抑制し、糖尿病の発症、血糖の上昇を抑制することができる。また、集中力が持続しやすく、満腹感が持続しやすいので、運動にも向いている。
食事の量を「腹七〜八分目」、つまり適度に制限した方が長生きすることを示した研究がいくつか公表されている。加えて重要なのは食事の質で、消化吸収が低いグリセミック指数(GI)の低い玄米や全粒粉などの食材は、腸でゆっくり消化吸収されるため、肝臓への糖流入速度が遅く、血糖値の急速な上昇を抑えられると注目されている。ごはんを中心とし食物繊維が多くとれる和食は理にかなっているといえる。
スローカロリーの効果を得るために
「パラチノース」はスローカロリーの代表的な食品
「スローカロリー」は、多くの効用があることがさまざまな研究で明らかになっている。同研究会はその活用についてさらに検証し、データを蓄積していくことを活動目的としている。糖質をどのように摂取するか、関連領域の専門家の視点からその可能性を見出していく活動を展開する。
国際糖尿病連合(IDF)のガイドイランでは「食後およびブドウ糖負荷後の高血糖は、動脈硬化や心筋梗塞などの独立した危険因子」であり、「食後高血糖は有害であり、対処すべきである」と勧告されている。
「食後高血糖を是正するために“スローカロリー”は有用。同じ炭水化物で、同じカロリーであっても、吸収・消化のされ方によって、“食後血糖やインスリン”“内臓脂肪の蓄積”“運動時の燃焼性”“満腹感の持続性”など、体に与える影響は異なります」と、一般社団法人日本生活習慣病予防協会理事長でタニタ体重科学研究所所長であり、同研究会顧問を務める池田義雄氏は説明した。
スローカロリーの代表的な食品として「パラチノース」がある。「パラチノース」は砂糖由来の糖質で、カロリーは砂糖と同じ4kcal/gだが、消化吸収速度が砂糖の約5分の1と遅い。
「パラチノース」摂取による血糖値およびインスリン分泌の変化は2型糖尿病でも緩徐であり、健常者のインスリン抵抗性を軽減させることが研究で確かめられている。また、肥満者にパラチノースを長期摂取させた研究では、内臓脂肪面積を有意に減少することが示された。さらに、「パラチノース」を摂取すると、血糖値を下げるホルモンである「グルカゴン様ペプチド(GLP)-1」の分泌が促進されたことが報告されている。
左から
慶応義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲氏、
新山手病院生活習慣病センターの宮崎滋氏、
日本生活習慣病予防協会の池田義雄氏、
東京女子医科大学病院栄養管理部の柴崎千絵里氏、
三井製糖の奥野雅浩氏
スローカロリー研究会は、スローカロリーの有用性について調査・研究を進め、健康づくりのための食生活を指導する医療・保険指導従事者と一般生活者に向けて、その知識を普及することを目的に今年2月10日に設立された。スローカロリーの概念、意義に関する調査・研究および学術データの蓄積、知識の普及啓発、普及に取り組む医療・保健指導従事者、関連諸団体、企業との連携、産学連携によるスローカロリーを活用した製品・サービスの開発支援、普及促進などの活動を行っていく予定だ。
同研究会は3月4日にホームページの公開を開始し、今後メールマガジンの配信なども予定している。
一般社団法人 スローカロリー研究会
[ Terahata ]