運動療法に取り組んでいるのに、なかなか血糖コントロールが改善しないという2型糖尿病の患者は、運動の効果を妨げる遺伝子をもっている可能性がある。
2型糖尿病患者のおよそ5人に1人が、運動療法を行っても血糖コントロールの効果を得られない可能性があるという研究が発表された。
運動療法をしていてもコントロールが改善しない患者
2型糖尿病は遺伝的な要因と、運動不足や肥満などの生活習慣による要因が重なり発症する病気だ。運動や身体活動を増やすことで、血糖コントロールを改善できると考えられている。
「しかし医療の現場では、運動を行っているにも関わらず、血糖コントロールやインスリン抵抗性、ミトコンドリア濃度による脂質代謝機能などが改善しない患者が少なからず見受けられます」と、米フロリダ病院および米サンフォード バーナム医学研究所のローレン マリー スパークス氏は言う。
血中のインスリン濃度に見合ったインスリン作用を得られない状態を「インスリン抵抗性」という。2型糖尿病の患者の多くはインスリン抵抗性が原因で、細胞への糖の取り込みが難しく、血糖値が上昇しやすくなっている。インスリン抵抗性は、運動により改善する。
また、運動は細胞内の「ミトコンドリア」は、ヒトが動いたり、歩いたりするための筋活動に必要なエネルギー源である「アデノシン三リン酸」(ATP)を発生させる。運動を習慣として行うと、ミトコンドリアが増え、より多くのATPを産生できるようになる。
ほとんどの患者で運動療法は効果をもたらすが、中には運動を継続しているにも関わらず、血糖コントロールがなかなか改善しない患者がおり、多くの医師を悩ましてきた。
2型糖尿病患者の15〜20%は運動療法の効果を得られにくい
「1日に30分歩いて体重を5kg以上減らすと、HbA1c値を改善できることが臨床的に確かめられています。しかし、その2倍の運動をしても、期待した効果を得られないという患者が少なからずいます」と、スパークス氏は言う。
研究チームは、運動の効果があらわれにくい遺伝的な要因があるのではないかと考えた。このような運動介入の成果がみられない糖尿病について、動物モデルを用いた研究と遺伝子モデルを用いた研究を行い、運動を行っている2型糖尿病患者に対して臨床的な検討を行った。
その結果、2型糖尿病患者の15〜20%は、運動療法による効果を得られにくい可能性があることが示された。
こうした「運動に対する抵抗性」は、動物研究および遺伝的の研究の結果から、DNAにコーディングされた情報がもとになって発現しており、世代間で遺伝する可能性があるという。
「大半の患者は運動療法によって血糖コントールの改善効果を得られる。しかし少数とはいえ無視できない数の患者では、遺伝子が原因で代謝面の改善が得られにくいことが、研究で示唆されました」としている。
運動の効果を予測するには、遺伝的および後生的遺伝子のパターンを解読する必要がある。この情報を読み取れるようになると、特定の遺伝子を対象にした介入や治療が可能になるという。
運動プログラムの効果を予測する治療
米国人の4割は、2型糖尿病を発症したり糖尿病予備群になる可能性があると、米国疾病予防管理センター(CDC)は予想している。
今後、遺伝情報を調べる研究を続けることで、運動プログラムによりどの程度の治療効果を得られるかをあらかじめ予測できるようになる可能性がある。
「運動の便益を得られやすい患者に対しては、効果的な介入と治療が行え、運動療法を行っても効果を得られにくい患者に対しては、その助けとなる最適化した治療を提供できるようになると期待しています」と、スパークス氏は言う。
ただし、「運動が効果的な治療であることは明らかです。今回の研究は、2型糖尿病患者は日常的な運動を行わなくても良いことを示すものではありません。運動療法によって、糖尿病治療薬を減らすことができた症例はたくさんあります」と強調している。
Exercise Regimens Offer Little Benefit for One in Five People with Type 2 Diabetes(米国内分泌学会 2014年11月20日)
[ Terahata ]