糖尿病患者や糖尿病予備群が血糖コントロールの悪い状態が続くと、20年後に認知機能の低下が起こりやすいことが、米国の1万3,000人以上を対象とした調査で明らかになった。
血糖コントロールが不良だと認知能力は低下しやすい
中年期に糖尿病を発症すると、20年後に認知症を発症し、記憶力や思考力が低下する危険性が高まることが、米ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部の研究で明らかになった。
「糖尿病の人や糖尿病予備群は、20年後に認知能力の低下するリスクが19%上昇することが示されました。影響が大きいのは、十分な血糖コントロールを得られていない患者です」と、ジョンズホプキンス大学のエリザベス セルビン准教授(疫学部)は言う。
発表されたのは、米国の4地域の住民を前向きに長期間追跡した「Atherosclerosis Risk in Communities」(ARIC)研究の成果。この研究は、米国立衛生研究所の資金提供を得て行われた。
「認知症を発症する5〜7年前に、認知能力の低下が起こります。糖尿病が認知能力の低下にどう影響するかを調べることが研究の目的です」と、セルビン氏は説明している。
調査には平均年齢57歳の男女1万3,351人が参加し、うち1,779人が糖尿病と診断された。研究チームは、調査を19.3年(中央値)継続し、言語能力、実行能力と処理速度、言語の流暢さを調べるテストを行った。
その結果、認知機能の低下は、糖尿病のある人ではそうでない人に比べ、19%多いことが判明した。
一般に、認知能力の低下は年齢が高くなると自然に進行するが、糖尿病でない人が65歳で経験する認知能力の低下を、糖尿病のある人では60歳で経験するという。
認知症は糖尿病の「第8の合併症」*
記憶力や思考力などの認知能力の低下は、過去1〜2ヵ月の血糖値の平均を示すHbA1cが5.7%未満の人に比べ、7%以上の人でより進行しやすいことも判明した。また、糖尿病の罹病期間が長いほど、これらの能力は低下しやすくなる傾向が示された。
血糖コントロールが不良の状態が続くと、脳卒中や心臓病、腎臓病、網膜症などの合併症が起こりやすい。同様に認知症も起こりやすいことが最近の研究で明らかなっており、認知症は糖尿病の「第8の合併症」と呼ばれている。
社会の高齢化に合わせて認知症は糖尿病と同じく増加している。米国では、2010年に認知症の医療コストは1,590億ドル以上に上り、2040年には80%増えると予測されている。
なぜ糖尿病の人で認知能力の低下が起こりやすいかは不明だが、「高血糖は脳の血管にもダメージをもたらしている可能性がある」と研究者は指摘している。
50歳を過ぎたら、血糖コントロールの改善をより徹底的に行い、活動的な生活をすることが、認知症の予防につながる。「肥満のある人は、体重を5〜10%減らすことで、糖尿病を改善できます」と、セルビン氏は指摘している。
精神的な活動を活発にし、感覚的な刺激の豊かな生活をし、運動を習慣として行い、食事を含む規則正しい生活スタイルを身に付けることが、認知症の予防につながる。
*糖尿病の合併症は、(1)糖尿病網膜症、(2)糖尿病腎症、(3)糖尿病神経障害、(4)動脈硬化症、(5)糖尿病足病変、(6)手の病変、(7)歯周病。
Diabetes in Midlife Linked to Significant Cognitive Decline 20 Years Later(ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部 2014年12月1日)
Diabetes in Midlife and Cognitive Change Over 20 Years: A Cohort Study(Annals of Internal Medicine 2014年12月2日)
[ Terahata ]