筑波大学が開発に協力した糖尿病の人向けの「
筑波大学の安心献立」が、インターネットで無料で公開されており、昨年12月には書籍も出版された。糖尿病の食事療法に最適化されたメニューとレシピを手軽に利用できることから、利用者が増えている。
糖尿病の食事療法に取り組む患者さんは多いが、「カロリーや各栄要素の計算や計量が面倒」、「献立がワンパターンになりがちで、単調さに飽きてしまう」という声が少なくない。
しかし、クックパッドで公開されている「
筑波大学の安心献立」では、おいしくヘルシーで、手軽に利用できる食事メニューとレシピが紹介されている。
「安心献立」が誕生した経緯など紹介した書籍『
筑波大学附属病院とクックパッドのおいしく治す「糖尿病食」』も昨年12月に出版された。
「おいしくて健康的な糖尿病食」を自宅で簡単に作れる
著者である筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也先生にお話をお伺いした。
矢作先生 糖尿病の発症予防や、発症後の重症化予防には、食事療法が必要不可欠です。糖尿病や予備群の方々は、毎日の食事でエネルギー摂取量や栄養バランスに気を付けなければなりません。しかし、食事療法を続けることを困難に感じている患者さんは少なくありません。
糖尿病食というと、「あれもダメ」「これもダメ」という制約ばかりで、おいしくないというイメージをもたれる方も多いかと思います。しかし、実際にはやり方を考えれば、豊かで賑やかな食卓が実現可能です。
「
筑波大学の安心献立」は、クックパッドで蓄積されたレシピをベースにして、同サイトの栄養計算システムと、筑波大学付属病院で培われた医療現場のノウハウを合体させて作成したメニューとレシピです。
クックパッドは2,000万人以上が利用し、150万品以上ものレシピが投稿されており、家庭から生まれた知恵の宝庫といえます。クックパッドの人気レシピは、手軽さ・簡単さという面で優れたものが多くあります。そうしたものをベースにすることで、「家庭でごく普通に作れる献立」を提供することができます。
「安心献立」では、クックパッドで人気のレシピを選び、標準的な糖尿病患者さんを念頭において、管理栄養士が栄養バランスの調整を加えた上で、最適な組み合わせを考えて献立にしています。
もとのレシピには、その作者さんの思いやこだわりが込められています。それらを尊重しながら、糖尿病や予備群の方でも楽しめるように工夫しました。インターネットで無料で公開されており、いつでもどこでもご覧になれます。
「筑波大学の安心献立」は、下記のような基準を満たすように作成されています。
- エネルギー 1,600kcal未満/1日
- 食物繊維 20g以上/1日
- コレステロール 0.3g前後/1日
- 塩分 8g以下/1日
- PFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物の比率) タンパク質 15〜20%、脂質 20〜25%、炭水化物 50〜60%
- 朝昼夜のエネルギーバランス 「1:1:1」から「3:3:4」の間
各レシピには、エネルギー(カロリー)、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、食塩相当量といった栄養価が表示されています。「もっと見る」をクリックすると、カリウム、カルシウム、鉄、各ビタミン、コレステロールなどについて、1日の摂取目安量のうちどのくらい摂取することになるか、一目で分かるようになっています。
糖尿病の人や予備群の方をはじめとする、健康的な食生活を目指すすべての方々に、特に「今日の献立はどうしようか」と頭を悩ませている主婦の方にも役立つメニューです。プロの管理栄養士にも栄養指導の現場でそのまま使っていただける、信頼性の高い内容です。
次は...「検査で早期発見し、正しく治療をすること」が目的
「検査で早期発見し、正しく治療をすること」が目的
矢作先生は、研究者としてニュートリゲノミクスに関する先進的な研究を推進しながら、医師として糖尿病やメタボリックシンドロームの診療にあたっている。インターネットとは別に「
糖尿病診断アクセス革命」として、薬局で微量の血液から糖尿病チェックを行える仕組みづくりにも取り組んでいる。
矢作先生 現代は、誰しもが糖尿病になりうる時代です。糖尿病をよりよく治療し改善していくための方法は実はシンプルです。「(1)血液検査を受けていない人は血液検査を受ける」、「(2)異常値が出た場合は、正しい治療をする」という2点をしっかりと実行していくことが大切です。
このうち(1)については、「どうせ治る病気ではないから」、「今のところ症状は出ていないから」と受診しない人が多いようです。厚生労働省の調査によると、糖尿病人口約1,000万人のうち、定期的に医療機関を受診しているのは約半数で、若い人ほどこの傾向が強いことが明らかになっています。可能な限り早く病気の兆候を把握し、適切な対策を打つことが大切ですが、十分な治療を受けていない人が多いのです。
そこで、2010年〜10月から「
糖尿病診断アクセス革命」により、薬局の店頭で血糖値を測定、高い値が出たら医療機関への受診を薬局が勧めることで、糖尿病の早期発見・受診を促す活動にも取り組んでいます。これまで、東京都足立区と徳島県で実証事業を行い、これまでに2,500人以上から3割近い「糖尿病予備群」以上の人を見つけ、受診勧奨をしました。
(2)についても、「糖尿病の食事療法や運動療法は難しい」と治療を怠ったり中断してしまう人がいます。治療を中断させないためのプロジェクトのひとつが、今回の書籍で紹介した「筑波大学の安心献立」です。
生活習慣病は自覚症状に乏しいため、健康診断などで注意を促されても、そのまま放置してしまう方が少なくありません。しかし重症化してからでは手遅れです。少しでも多くの方がしっかりと定期健診を受け、異常がみつかれば適切に生活改善に取り組んでもらうことを願っています。
筑波大学の安心献立
糖尿病診断アクセス革命
[ Terahata ]