糖尿病により心不全が発症するメカニズムに「心臓毛細血管不全」が関与しており、糖尿病治療薬として用いられている「DPP-4阻害薬」が、心臓毛細血管不全を改善する作用を介して、拡張不全を改善する可能性があると、名古屋大学の研究チームが発表した。
高血圧や糖尿病という、数千万人規模の「国民病」の30%以上に、「拡張不全型心不全」は合併するといわれている。
糖尿病の合併は心不全の増悪因子であることが知られているが、その機序には不明な点が多く残っている。
超高齢化社会を迎え、高齢者に多く発症する心不全患者数は増加傾向を示している。
また、いったん心不全症状が顕性化した場合、その後5年の生存率は一部の報告では30〜50%と不良であり、心不全悪化予防法の開発は医療費抑制の観点からも急務となっている。
一般的に、心不全と認知されている病態は、収縮能が低下した収縮不全の状態であり、その前段階には、拡張不全性心不全の病期が存在する(
画像)。拡張性心不全の主な原因は、高血圧や糖尿病や加齢だ。
そこで研究グループは、拡張不全を制御するメカニズムに、心臓毛細血管不全が関与していると仮説し、糖尿病モデルを用いて検証した。
また、糖尿病治療薬として用いられているDPP-4阻害薬の投与が、糖尿病合併症としての心不全発症を抑制しうるか、さらに、DPP-4活性のモニタリングが糖尿病およびそれ以外の原因による拡張不全心発症を予測しうるかを検証した。
そして今回の研究により、DPP-4の心臓における発現パターンが毛細血管特異的であることを突き止めた。
動物モデルを用いて、心臓毛細血管内皮に発現する「セリンプロテアーゼDPP-4」の活性異常が、糖尿病を原因とする拡張不全性心不全発症の原因のひとつであることを見出した。
さらに、糖尿病以外の原因として、血圧負荷による拡張不全に対するDPP-4阻害の影響も検証し、心臓毛細血管不全のない病態では、「インクレチンホルモン」の増加を介した異なる機序において、心機能を改善することを確認した。
また、拡張不全患者末梢静脈血中のDPP-4活性を測定し、心エコーにおける拡張機能の一部と相関することをあきらかにした。
研究グループは今後、今回の成果を臨床的に実践可能か否か検証する予定だ。また、心不全患者における糖尿病治療の重要性を啓発していくとしている。
成果は、名古屋大学大学院 医学系研究科循環器内科学の坂東泰子講師、同・室原豊明教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、10月3日付けの米国科学雑誌「Circulation」電子版に続き、印刷版の10月9日号にも掲載された。
名古屋大学
[ Terahata ]