夏が近づいてきた。夏野菜の代表格、トマトとブロッコリーの収穫がピークを迎えている。野菜はビタミンやミネラル、食物繊維を多く含み、エネルギー量は少なく、食事療法に取り入れやすい食品。最近では家庭菜園に取り組む人も増えている。
トマトの赤い色素はリコピン
トマトは1年を通じて収穫されているが、本来の旬は6月下旬から8月。食卓でおなじみの野菜になっており、生産量も多い。2006年度の農業産出額をみると、トマトは米についで2位で、もっともよく食べられている果菜類。市場で出ているのは桃色系トマトが主流だが、近頃では赤色系や調理用の品種も店頭に並んでおり、流通するトマトも多様化しつつある。
トマトの原産はアンデス高原あたりと考えられており、16世紀頃にジャガイモとともに欧州にもたらされた。日本に入ってきたのは明治時代になってから。そのころ栽培されたのは赤色系の酸味の強い品種で、消費はそれほど増えなかった。その後、日本人のし好に合った食味の優れる品種の育成が盛んに行われた。いま主流になっている品種は酸味や臭みの少ない「桃色系トマト」。ミニトマトが1970年代に普及し、桃色系トマトをもとに皮が薄くて柔らかい品種「桃太郎」が80年代に開発された。
トマトの赤い色素「リコピン(リコペン)」はカロテノイドの一種。リコピンは活性酸素を消去する作用が強い。善玉コレステロール(HDL)の酸化を阻害し、動脈硬化の抑制につながる。野菜のリコピンを多くとっている人で、心筋梗塞など心血管疾患、がんなどのリスクが低下したという報告は多くある。
その他にもトマトは、体内でビタミンAに変わるβ-カロテンや、ビタミンC、ビタミンB群などのビタミン、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、セレンなどのミネラルを含んでいる。
ブロッコリーの栄養がピロリ菌を減らす
ブロッコリーは1年を通じて市場に出ているが、6月から7月頃に流通するのは北海道産や長野産が多い。30年前はあまり食べられていなかった野菜だが、1970年代から食卓に上るようになった。いまでは緑黄色野菜として注目されている。
ブロッコリーにもカロテン(ビタミンA)が多く含まれる。その他にもビタミンC、カリウム、カルシウム、鉄分、食物繊維など、多くの栄養を含んでいる。ブロッコリーは茎にも栄養が豊富に含まれる。花の部分だけでなく茎も刻んで調理したい。
ビタミンCは主に淡色野菜に多く含まれるが、ブロッコリー100gにレモン果汁の2倍以上にあたる120mgが含まれている。ビタミンCは加熱すると失われてしまうので、さっと固めに手早くゆでると効率よくとることができる。脂溶性ビタミンであるビタミンAは油と相性がよいので、油を使った炒め物にすればビタミンCの損失も少なくてすむ。
スーパーの野菜売り場などで、かいわれ大根のような「スプラウト」と呼ばれる発芽野菜を見かけたことがあるだろうか。ブロッコリーもスプラウトのひとつで、他にはマスタード、アルファルファ、レッドキャベツなどが売られている。
ブロッコリー(スプラウト)には、強い抗酸化作用のある「スルフォラファン」が豊富に含まれる。スルフォラファンは、人間の胃の中に住んでいるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)に対し抗生作用をもつとみられている成分。ピロリ菌は潰瘍や胃炎、胃がんなどの原因となる。
米国がん研究協会(AICR)の発表によると、ブロッコリーを食べると、スルフォラファンの働きでピロリ菌を抑えられる可
能性があるという。谷中昭典・東京理科大学薬学部教授やジョーンズ・ホプキンス大学の研究者らのチームは、ピロリ菌を保有する48人を2グループに分け、それぞれブロッコリーとアルファルファのどちらかを1日2〜3皿(サービング)食べてもらう実験を行った。アルファルファもスプラウトだが、スルフォラファンを含んでいない。
8週間後に、ブロッコリーを食べたグループではピロリ菌が有意に減少したが、アルファルファを食べたグループでは変化がみられなかった。ブロッコリーを食べるのをやめると、2ヵ月後にピロリ菌は以前の水準に増加していた。
毎食に野菜料理をもう1皿加える
厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド」では、野菜料理を副菜として毎日食べることを勧めている。野菜はビタミンやミネラル、食物繊維の供給源となる。野菜サラダやお浸しの小鉢が「1皿(サービング)」の目安で、1日に「5〜6皿(サービング)」が適量となる。
特に若い世代の摂取量が低く、20代や30代などでは目標量の7割しか野菜を食べていない。野菜料理は不足しがちなので、毎日の食事に意識して取り入れたい。
野菜類摂取量の平均値
厚生労働省の「2007年国民健康・栄養調査」
いろいろとり混ぜて1日に300gの野菜を、3分の1以上を緑黄色野菜でとることが勧められている。
生産農業所得統計(農林水産省)
Cancer Prevention Research 2, 353, April 1, 2009. doi: 10.1158/1940-6207.
関連サイト
社団法人家の光協会
トマト大学(カゴメ(株))
[ Terahata ]