糖尿病セミナー

18. 糖尿病による神経障害

2011年8月 改訂

からだ全体に関連してくる病気です

 糖尿病性神経障害は、症状、原因の違いによって下の表のように分類されています。

多発性神経障害

 まず、もっとも多いのは、症状が多方面にあらわれる多発性神経障害といわれるものです。これは感覚神経や運動神経の障害によって起こるものです。手足の末端、ちょうど靴下や手袋で覆われる部分の痛みやしびれ、足の裏に薄紙が貼りついたように感じる感覚の鈍麻から始まります。それが段々と、足先から膝へ、手先から肘へと、からだの中心に向かって広がっていきます。
 とくに足先は神経の一番の末端ですから、これらの症状が一早くあらわれます。安静時や夜間に痛みが増す、両側の手や足の同じ部分に症状が出るのが特徴です。場合によって関節部麻痺で運動機能が損われ、リハビリテーションが必要になることもあります。

自律神経障害

 次に自律神経障害ですが、自律神経は内臓の活動をはじめ、発汗による体温の調節、血圧の維持など、人間が生きていくために必要なさまざまな機能を調節している神経です。
 自律神経が障害されることによりこれらの調節ができなくなると、下痢や便秘、心臓の動きが突然おかしくなる不整脈、汗をからだの一部分だけ異常にかいたりまたは汗をかかなくなったりする発汗異常、お腹がふくれあがるほど尿がたまっても尿意を感じず排尿できない無緊張膀胱、起立性低血圧(立ちくらみ)、勃起障害など、自律神経が関係しているあらゆる範囲に症状があらわれる可能性があるのです。

単一性神経障害

 神経を養っている細い血管が、小さな血栓で詰まって神経に血液が通わなくなり、その部分にだけあらわれる障害です。顔面神経麻痺や一方の目が動かなくなる、などがその症状です。

糖尿病性神経障害の分類と主な症状


神経障害が悪化すると

 このように糖尿病による神経障害はからだ全体に悪影響をおよぼしますが、進行すると次のような深刻な状態に陥る危険性があります。

神経麻痺・壊疽

 神経そのものが麻痺してしまうことで、痛い、熱いという感覚が失われます。そのためケガやヤケドを気付かずに悪化させ、潰瘍や壊疽へと進行させてしまいます。とくに足は壊疽になりやすく、場合によっては壊疽部分の切断を余儀なくされます。

無自覚性低血糖

 低血糖になってもからだがそれに反応せず、血糖値を上げるホルモンが分泌されなくなります。また、冷汗、手足のふるえ、どうきなどの症状が起こりにくく、低血糖の症状を自分で自覚できなくなります。このために低血糖の警告症状なしにすぐに意識がなくなりますので、非常に危険です。

低血糖・高血糖を繰り返す

 自律神経障害により消化管運動のリズムが乱れると食べたものの吸収が一定せず、インスリン注射をしている場合は、食後、血糖が上昇してくる時刻とインスリンが効いてくる時刻のタイミングが合わずに、低血糖、高血糖を繰り返すことになります。同時に食欲もなくなりがちで、さらに血糖コントロールが難しくなります。

無痛性心筋虚血

 心筋梗塞あるいは狭心症になると激しい胸痛があるのが普通ですが、心臓の神経が障害されるとそれを感じません(無痛性心筋虚血)。そのため治療が遅れて、死につながるような大きな発作に突然みまわれる危険性が大きくなります。神経障害があるときには症状が軽いようにみえても、実際は重大な病状になっていることが少なくないのです。

突然死

 神経障害があると無自覚性低血糖による意識喪失、無痛性心筋虚血による発作のほかにも、致命的な不整脈や呼吸の停止を起こしやすくなり、突然死の危険が高くなります。

うつ病

 激痛による睡眠不足、ゆううつ感で精神的に落ち込み、うつ病になることがあります。
神経障害と診断されたら
低血糖・高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定してコントロールの改善につとめる。
立ちくらみを防止するため、寝ている姿勢から一気に起き上がらず、いったん座り直しひと息ついてから立ち上がる。長風呂は避ける。また、立ちくらみを低血糖の症状と勘違いしないように。
足はとくに壊疽を起こしやすいので、ケガやヤケドがないか毎日チェックし、手入れを習慣づける。
味覚障害を起こしていると、濃い味付けを求めがち。味付けの濃い料理は合併症や糖尿病以外の生活習慣病を悪化させるので要注意。
たばこは血流障害を悪化させる一因。心筋梗塞、脳梗塞にもつながるので禁煙を。

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