糖尿病セミナー

12. 病気になった時の対策
シックデイ・ルール

2014年11月 改訂

?. シックデイの対処法 「シックデイ・ルール」

 それでは、このような非常事態を上手に乗り切り、早くいつもの快適な生活に戻るための適切な方法「sick day rule〈シックデイルール〉(病日対処法)」を紹介しましょう。

シックデイ・ルール 1

早めに受診する

 症状がごく軽い場合は1日ぐらい様子をみていても構いませんが、次のような場合には早めに受診して適切な治療を受けてください。

★こんな時はすぐに受診
1.強い自覚症状(嘔吐、激しい下痢・腹痛、心臓の鼓動が異常に早い、息苦しいなど)が続く
2.高熱(およそ39℃以上)
3.高血糖(血糖値なら350mg/dL以上の時。尿糖なら強陽性が続く時)
4.食事をほとんどとれない
5.尿ケトン体が強陽性
6.上記1〜5に該当するほどではないが、症状が改善する気配が感じられないとき


シックデイ・ルール 2

安静にし、水分・炭水化物を摂取

 急性の病気の基本的な対応は、体を安静にし温かくすることです。それによって体力の消耗を防ぎ、病気に対する抵抗力を保てます。
 さらに、食欲がなくても脱水を防ぐために水分を十分補給し、ケトーシス予防のために炭水化物をなるべく口にするようにしてください。また嘔吐や下痢が続く場合には塩分などの電解質が失われやすいので、その補給も必要です。

★シックデイの食事の工夫
消化の良い炭水化物は...重湯〈おもゆ〉、お粥、おじや、茶碗蒸し、うどん、など。
水分や電解質の補給に...みそ汁、野菜スープ、果物ジュース(冷たいものや炭酸飲料以外)。
経口補水液を適宜に...脱水を改善し、同時に炭水化物と電解質を補給できる経口補水液(OS-1®など)が市販されています。

シックデイ・ルール 3

病状の把握に努める

 数時間おきに病状を自分でチェックし、快方に向かっているのか、それとも悪化していて受診を急ぐべきなのかの判断に役立てましょう。

★シックデイに役立つ検査
体温...感染症などの重症度の推移の目安になります。
血糖...シックデイは血糖値が乱れやすいので、血糖自己測定は病状把握の強い味方です。
尿糖...血糖自己測定をしていない場合、尿糖測定で高血糖の程度を推測します
尿ケトン体...ケトアシドーシスの前兆をつかめます(尿糖測定に用いるのと同じような試験紙が市販されています)。
体重...急激な体重減少は、脱水が起きている可能性が疑われ、要注意です。
*尿糖測定は、SGLT2阻害薬を使用している場合、高血糖状態を正確に評価できません。
シックデイ・ルール 4

薬の加減の目安

 シックデイルールの4番目は、薬物療法をしている場合の対処法についてです。

1型糖尿病の場合の対処

 1型糖尿病の場合、なにより大事なことは、たとえ食事をとれなくてもインスリン注射を絶対に中止してはいけないということです。そして、不安ならすぐに主治医に連絡をとって相談することです。血糖自己測定を数時間おきに行い、高血糖ならその程度に応じて作用時間の短いインスリン(超速効型か速効型)を数単位程度ずつ追加することを繰り返し、血糖コントロールするという方法が一般的です。

2型糖尿病の場合の対処

 次の項に薬の種類ごとの目安を示します。ただしこれはあくまで目安なので、実際の対処法は主治医の指示を守ってください。また、薬を減量・中止することにより血糖値が上昇し、一時的にインスリン療法が必要になることもあるので、血糖自己測定や尿糖測定をこまめに行い、高血糖や尿糖の強陽性が持続する場合には早めに受診してください。
スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬...インスリン分泌を刺激して血糖値を下げるこれらの薬は、食事の量にあわせて加減します。シックデイでもいつもどおりか、いつもよりやや少ないくらい食べられるなら、いつもと同じ量を服用します。半分程度しか食べられないのなら薬の量も半分にし、半分も食べられないなら薬は中止(休薬)します。なお、ふだんこれらの薬を'食前'に飲んでいても(速効型インスリン分泌促進薬は食直前の服用が原則)、シックデイには'食直後'に、食べられた量にあわせて薬の量を調節して飲むのも構いません。
DPP-4阻害薬...食事をとれるなら服用しますが、とれないなら服用しても血糖降下作用が少ないことが予想されます。
ビグアナイド薬...シックデイに伴う脱水により乳酸アシドーシスという副作用が起こりやすくなる可能性があるので休薬します(特に腎障害を合併している人や高齢者)。
SGLT2阻害薬...シックデイに伴う脱水やケトーシスを強めるように作用するので休薬し、医師に相談してください。
α-グルコシダーゼ阻害薬...下痢などのおなかの症状を強める可能性があり、中止しても血糖値が極端に上がることはないので休薬します。
チアゾリジン薬...この薬は中止してもしばらく作用が続き血糖値に大きく影響しないので、休薬しても構いません。
GLP-1受容体作動薬...吐き気や腹痛など、おなかの症状がある場合は休薬します。そうでなければ継続します。
インスリン製剤...2型糖尿病でもふだんインスリン療法をしているのであれば、1型糖尿病と同様に、シックデイで食事がとれなくてもインスリン注射を中断してはいけません。全く食事がとれなくてもふだんの半分程度のインスリンが必要です。そして、こまめに血糖自己測定を行い測定結果に応じて数単位ずつ増減し、血糖コントロールする方法が一般的です。具体的には主治医に相談してください。

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