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運動療法の効果判定とフォローアップ(2)
■運動を継続するためのモチベーションの向上と維持
 患者さんの中には、運動に積極的な患者さんもいれば、運動が苦手な人や運動療法の効果に疑問を持っている人、運動する時間がない人など、運動に消極的な患者さんもいます。運動に積極的な患者さんには、運動の目的やメリットを詳しく指導すると共に、運動がすぐに開始できるよう具体的に、安全で効果的な方法を指導します。一方、運動に消極的な患者さんに対していきなり具体的な運動方法を説明しても、なかなか取り組んでもらえません。この場合、患者さんにとってなぜ運動が必要かわかりやすく説明する必要があります。また、運動療法の効果は継続することで期待できるのですが、運動療法を開始しても、残念ながらすべての患者さんが継続できるわけではありません。

 私たちが習慣や行動を変えることを「行動変容」といいますが、患者さんが運動療法を開始し継続していくためには、この「行動変容」が必要になります。行動変容ステージモデルでは、人が行動を変える場合は、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージ(期)があると考えられています。

図.行動変容ステージモデル
行動変容ステージモデル
参考:e-ヘルスネット 行動変容ステージモデル
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html

 糖尿病の治療のために運動を開始し、継続してもらうためには、指導者が様々な方法や工夫で、患者さんの運動に対するモチベーションを高め、維持していくことが大切です。そこで、指導する患者さんが現在どのステージに相当するかを把握し、ステージを意識した指導を行うことで、より効果の高い指導が可能になります。

(1)無関心期
 運動に関心がなく、6カ月以内に運動を始める意志がない時期です。このステージの患者さんには、まずは運動に関心をもってもらい、糖尿病の治療のために運動が必要だということを理解してもらうことから始めます。その人にできそうな、その人がやる気になりそうな運動を一緒に考えることが大切です。
 また、糖尿病そのものへの関心が薄い患者さんも多いため、そのような患者さんには、糖尿病がどのような病気なのか、放置すれば合併症が出現することを説明する必要もあります。

(2)関心期
 運動に関心や興味、また必要性を認識し、6カ月以内に運動を始めようという意志が芽生える時期です。運動を始めることや、継続するメリットとデメリットを説明し、適切なアドバイスを行うことが大切です。患者さんが運動に対して不安などを抱いている場合は、一緒に考え、解消する手助けをし、患者さんが運動に積極的に取り組めるように工夫しましょう。

(3)準備期
 運動への関心が最も深まり、1カ月以内に運動を始めようという意志が固まる時期です。達成可能な具体的な目標を設定し、運動をすぐに実行できるよう後押しをしていきます。家族や身近な人に運動を開始する宣言をし、協力してもらうと運動の継続につながりやすい場合もあります。

(4)実行期
 運動を開始して6カ月未満の時期です。運動を継続でき、運動量が徐々に増加している患者さんもいれば、思うように運動ができず、モチベーションが下がる患者さんもいます。また、この時期は運動を中止して、前のステージへ戻ってしまうこともあります。
 継続できている患者さんには、しっかり褒める言葉を掛け、ステップアップを図りましょう。目標がクリアできていない患者さんには、良いところを褒め、励ましながら実現可能なゆるやかな目標を設定します。また、血糖値やBMIなど、医学的指標での運動の効果を確認し、ケースに応じ本人の励みになる形で利用します。

(5)維持期
 運動が継続的に行われ、6カ月以上続いている時期です。実行期と同様に、医学的指標での効果の確認や、目標の再設定を行い、指導に効果的に利用します。運動内容などに飽きが生じないようメニューを工夫し、積極的な患者さんには、新しいスポーツへの挑戦を勧めることも考慮します。

   指導する際は、以上の(1)〜(5)の患者さんのステージを想定して指導を行うとともに、外発的動機付け(血糖コントロールや体重の改善など)と、内発的動機付け(運動そのものが楽しいなど)のバランスを見ながら、患者さんがモチベーションを維持できるよう、目標設定や運動メニューを工夫します。

 運動メニューは、年齢や体力、職業など患者さんの背景も十分に考慮したうえで、無理なくライフスタイルに合わせた指導を行っていくことが大切です。運動ができないときは別の日に行うことや、運動がきついなど無理が生じている場合には、運動量を一時的に減らすなど、適宜アドバイスや調整が必要です。
夫婦で運動
 そして、患者さんが運動療法を継続していくうえで欠かせないことが、指導者による賞賛と励ましです。効果が現れたところを中心に患者さんの努力をしっかり評価し、褒める言葉を掛けることで、患者さんのモチベーションが高まり、運動を継続するための動機付けにつながっていきます。患者さんが目標を達成できた時、患者さん自身への食事、旅行、買い物など、「報酬」を設定してもらうのも、運動を継続させるのに役立ちます。

2012年09月 

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