運動療法の効果判定とフォローアップ(1)
糖尿病患者さん(以下、患者さん)に本連載第3回で述べた運動処方(①運動の種類・生活活動、②運動強度、③継続時間と実施頻度、④実施時間帯)を処方した後は、患者さんが処方内容に従って運動を実施し、運動の効果が現れているかどうか、定期的に確認していきます。運動処方は、一度だけ処方すれば終わりというわけではなく、処方内容を見直し、調整していく必要があります。患者さんによっては、運動処方の再処方が必要な場合や、食事療法や薬物療法も含めた処方内容の調整が必要な場合もあります。また、運動療法は継続することによって効果を発揮するので、患者さんが運動を続けられるよう、継続的に支援を行っていくことが大切です。そこで、本連載の第4回では、「運動療法の効果判定とその方法」と「運動を継続するためのモチベーションの向上と維持」、さらに「運動療法に役立つ運動支援機器」について触れていきます。
■運動療法の効果判定とその方法
運動療法の効果は、薬物療法と比べると緩やかに現れてきますが、血糖コントロールの改善だけではなく、薬物療法では得られない幅広い効果が期待できます。そのため、様々な角度から総合的に効果判定を行っていき、効果が現れているかどうかを確認します。効果判定の主なチェックポイントは、次の4点になります。
①運動能力や体力が向上したか
②血糖コントロールが良好となったか
③肥満度や血圧、脂質異常が改善したか
④運動療法により生活の質(QOL)に向上がみられたか
②血糖コントロールが良好となったか
③肥満度や血圧、脂質異常が改善したか
④運動療法により生活の質(QOL)に向上がみられたか
これらの4点について、それぞれどのように効果判定を行っていくか詳しく述べていきます。
①運動能力や体力が向上したか
運動能力や体力の向上を判定する指標して有用なのが、最大酸素摂取量です。最大酸素摂取量を調べるためには、自転車エルゴメータやトレッドミルに、呼気ガス分析機を組み合わせた装置を使用して、運動中の酸素摂取量を測定しますが、この装置がそれほど普及していないため、どこでもできる方法ではありません。
そこで、効果判定を簡便に行う方法として、運動中の心拍数を用いる方法があります。運動中の心拍数は運動強度にほぼ比例して増加するため、運動能力が向上すると、同じ強度の運動をより低い心拍数で行うことができるようになります。 特にウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を継続して行っていると、最大酸素摂取量が増加します。これによって、運動能力(スピードやタイム)が向上し、同じ運動が楽に短時間で行えるようになります。 心拍数は、脈拍数を測定することで確認できます。連載第3回で紹介した「糖尿病の運動療法における適度な脈拍数の目安(50歳代以下120拍/分、60歳代以上100拍/分)」をもとに、脈拍数を一定に保ちながらいつもと同じウォーキングコースを歩いていると、運動能力の向上につれて歩く時間が徐々に短縮していくことを患者さん自身で実感できます。あるいは、同じ時間内で歩行できる距離が長くなることや、同じ運動をしていても脈拍数が上がらなくなり、次第にもっと少ない脈拍数でこなせるようになってきます。 |
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②血糖コントロールが良好となったか
運動療法の効果判定において最も重要なものが、インスリン抵抗性が改善しているかどうかです。インスリン抵抗性の改善を判定するための指標としては、早朝空腹時の血中インスリン濃度やHOMA-R(空腹時血糖値×空腹時インスリン濃度÷405)が用いられます。早朝空腹時の血中インスリン濃度では15μU/mL以上、HOMA-Rでは2.5以上でインスリン抵抗性が存在すると判断されます。運動を続けることで、早朝空腹時血糖値とともに、早朝空腹時の血中インスリン濃度やHOMA-Rの低下がみられる場合は、運動療法の効果が現れていると考えられます。また、運動によってインスリン抵抗性が改善すると、血糖コントロールが改善することが多くみられ、空腹時血糖値とともに、食後血糖値も下がります。空腹時血糖値が正常な場合でも、食後血糖値が高いと、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)や脳卒中などの合併症が増えるため、特に食後血糖値がどの程度改善したかを確認することは、運動療法の効果判定を行ううえで重要です。この点、食後の運動習慣が特に重要になってきます。
さらに、空腹時血糖値や食後血糖値が改善すると、次第にHbA1cも改善します。血糖コントロール状態の最も重要な指標であるHbA1cを効果判定に積極的に用いると、血糖コントロールが良好に向かっているかどうか確認できます。
③肥満度や血圧、脂質異常が改善したか
2型糖尿病の患者さんでは、肥満を合併している場合も多く、運動によって肥満の改善に期待ができます。肥満度の判定は、BMIを用いるのが簡便で一般的です。定期的にBMIを判定し、数値が下がっているかどうか確認しましょう。また、肥満が改善されると、血圧や脂質異常なども改善されるので、継続的な運動によって、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防・解消につながります。参考:BMIとは?(大人の健康生活ガイド)
血圧が高めの患者さんでは、定期的に血圧を測定し、下がっているかどうか調べます。自宅での血圧測定を習慣にしてもらえば、患者さん自身で効果を実感することも可能です。
脂質異常症は主に、高LDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症の3つに分けられます。継続的な運動習慣によって、特に善玉コレステレロールと呼ばれるHDLコレステロールが増加し、トリグリセリドが低下する効果があります。また、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールも低下する傾向がみられます。脂質異常症がある患者さんでは、定期的に血液検査を行い、血清脂質の数値が改善しているかどうか確認します。
参考:動脈硬化と糖尿病 メタボリック シンドローム(内臓脂肪症候群) (糖尿病セミナー)
④運動療法により生活の質(QOL)に向上がみられたか
運動を継続していると、運動能力や体力の向上で「体が軽くなった」、運動による適度な疲労感により「よく眠れる」などの感覚を患者さん自身が実感することが多くあります。これは、日常生活に運動を取り入れることで、生活リズムが整い、爽快感や充実感などが得られ、ストレス解消や睡眠の質が良くなるなど、生活の質(QOL)が向上するためです。QOLの向上は、運動を継続していくうえでの強い動機付けにつながります。運動療法を始める前よりも、患者さんのQOL改善がみられたか確認しましょう。
以上の①〜④について運動療法の効果を判定するとともに、運動によるリスク面の管理も大切です。運動による合併症が現れていないか、運動によって膝が痛むなど整形外科的問題が生じていないか、などを確認し、運動療法の再処方に反映していきます。
2012年09月
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