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運動処方:どんな運動を、どれくらい(3)
■運動を実施する際の注意点
①低血糖の防止対策
 インスリンや経口薬で治療中の患者さんは、低血糖になる場合があるため、運動量に応じてインスリン量の調整が必要な場合もあります。運動量が多い場合、主治医と相談し、運動前のインスリンを1/2〜1/3減らします。

 空腹時に運動する場合は、補食をとり、もし運動中に低血糖が起こった場合は、すぐにブドウ糖や砂糖あるいはこれらの加工品、またはコーラなど清涼飲料(加糖タイプ)を飲みます。運動時には、低血糖発作に備え、ペットシュガーなどを常に携帯するよう指導しましょう。運動前や運動後の補食には、おにぎりやクッキーなどの血糖上昇効果が持続する食品が勧められます。
 最近は、低カロリーやゼロカロリーの甘味料を利用した飲料が多くなっています。これらの飲料は、低血糖対策には役に立ちませんので、そのことも合わせて指導しましょう。

②水分補給
 運動する際は、脱水症状を防ぐため、適宜水分補給が必要です。(財)日本体育協会では、水分補給の目安として、運動前にコップ1〜2杯(250〜500mL)、その後、1時間ごとに500〜1,000mL、3時間以上では塩分の補給を行うことを推奨しています。日常の運動では、水や日本茶などで水分補給を行えば十分です。

 夏や蒸し暑い室内など、汗を多くかく環境で長時間運動を行う場合は、電解質の飲料での補給が勧められます。糖質濃度が3〜8%の飲料は糖質が含まれていない場合より吸収率が大きいです。しかし、スポーツドリンクは高カロリーのため、患者さんは多飲すると、血糖コントロールが乱れる場合があることに注意が必要です。

③準備運動と整理運動
 事故の予防と運動後の疲労を軽減するために、準備運動と整理運動を行うことが大切です。それぞれ5〜10分を目安に行います。

 準備運動は、体の多くの機能を安静から運動をする状態に導くための運動で、体を温め、ほぐすとともに、血液の循環を促進させ、運動中のケガや事故の防止に役立ちます。
 整理運動は、運動後に血圧や心拍数を徐々に下げることを目的とした運動です。運動終了後も引き続き軽い運動を続けることで、筋肉のポンプ作用が働き続け、正常な血液循環が保たれます。

④膝や腰など運動器の障害防止
 運動による効果は様々ありますが、急に行うと膝や腰などに障害を起こす場合もあります。これまで運動習慣のない患者さんが運動を開始する場合は、ウォーキングが第一選択です。その後、少しずつ運動強度を高めていくようにしましょう。運動量と強度は、翌日まで筋肉痛や疲労を残さない程度が目安です。

 運動時や運動後、膝や腰などの関節に異常を感じた場合は、すぐに運動を中止します。痛みを我慢したまま運動を続けていると、変形性膝関節症や腰痛など、様々な整形外科的疾患を引き起こす場合があります。日頃から、ストレッチや筋力トレーニングを行っていると、筋肉や関節の柔軟性と可動性が高まり、運動器の障害防止につながります。
 特に肥満がある人や高齢者では、運動により膝や腰などに障害を起こすリスクが高いので、関節に過度の負担がかからないように配慮した運動療法が必要です。自転車エルゴメータや水中ウォーキングなどの運動から開始するのも良い方法です。

⑤運動のための靴選び・フットケア
 足に合わない靴は、靴ずれを起こし、ときには痛みで、しばらく運動の中止が必要な場合もあります。神経障害が進行している患者さんでは、胼胝(べんち、たこ)・鶏眼(けいがん、うおのめ)ができると、潰瘍に進行し、さらに悪化して壊疽に至る場合もあります。また足に傷ができていても気付かない場合もありますので自分の目でチェックするよう指導しましょう。膝や足関節への負担を避けるためにも、運動を行う際には足に合った靴、できればスポーツシューズが勧められます。
 また、足の傷からの感染を防ぐため、素足で靴を履くことは避け、必ず綿の靴下を着用します。出血など足の皮膚の異常を見逃さないために、なるべく白色の靴下を選びます。
シューズ選びの注意点

 運動の前後には、糖尿病足病変の予防のためにも、以下のような点で足の観察を行うことが大切です。
  • 靴の中に異物が入っていないか
  • 靴下に血液や浸出液などの付着がないか
  • かゆみや痛みなどの違和感がないか
  • 足の皮膚に発赤、靴ずれ、切創、水疱、乾燥に伴う亀裂、白癬・胼胝・鶏眼など異常がないか
  • 足の皮膚温、皮膚の色に変化を生じていないか
  • 爪が伸びすぎていないか、爪の異常(巻き爪、爪白癬など)がないか
  • 足全体の浮腫や足趾も含めて変形を生じていないか

まとめ
 患者さんのための運動処方の内容は、 ■ 運動の種類・生活活動■ 運動強度■ 継続時間と実施頻度■ 実施時間帯 の面から考えることが必要です。メディカルチェックの結果を踏まえ、患者さんの症状や年齢、体力などの状態に応じて、適切な処方を行います。その中で安全かつ効果的な運動強度の設定が求められ、その指標としては、誰でも簡単に測定できる脈拍数を用いることが勧められます。
 また、運動によって生じるリスクをできる限り避けるために、運動を行ううえでの注意点を詳しく指導することも大切です。特に、運動中の低血糖や事故などの防止には、患者さん自身が様々な注意点を守って実施する必要があります。
 患者さんのライフスタイルや運動に対する理解度、意欲などにも配慮したうえで、個々の患者さんに合わせた継続ができる、生活習慣の一部となるような運動指導が求められます。

2012年08月 

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