運動をやっていい人、いけない人/メディカルチェック(後半)
■メディカルチェック
運動療法を安全に、そして効果的に実施するには、患者さんの糖尿病の症状をはじめ、他の疾患の有無、年齢、体力など身体状況を事前に十分把握し、適切な運動を処方することが重要です。そのために必要なのが、メディカルチェックです。メディカルチェックは、糖尿病の進行度やその他の病気の有無や程度を調べ、運動の可否や、注意点などを明らかにして、運動による障害や事故を未然に防ぐことにあります。運動療法を開始する前には、必ずメディカルチェックを行い、糖尿病のコントロール状態が良好であること、運動によって糖尿病合併症や膝・足関節の障害など、病態を悪化させる要因がないことを十分に確認しましょう。
●メディカルチェックと運動処方の流れ
メディカルチェックから運動処方に至る流れは、このフローチャートの通りです。「細井雅之,田中史朗:運動療法を行ってよい場合、行っていけない場合‐適応と禁忌, 糖尿病運動療法指導マニュアル(佐藤祐造編),p.14,2011,南江堂」より許諾を得て改変し転載
●すべての患者さんに行うメディカルチェックの必須項目
糖尿病の病状や進行度は、患者さんによって様々ですので、実施するメディカルチェックの項目は、個々の患者さんによって異なります。まずは、すべての患者さんに共通して実施する検査として下記のリストにあるような項目のチェックを行います。ここでは、問診で自覚症状や家族歴などを確認し、診察により身体所見を調べ、検査を行います。必須のメディカルチェック項目
問診 | ・自覚症状の有無(胸の痛みがあるなど) ・家族歴(心臓の病気などの既往) ・現在の運動習慣、生活活動(通勤での歩行時間など) ・治療中のその他の疾患や、使用している薬 |
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診察 | ・身体計測(身長、体重、腹囲)、肥満度 ・血圧測定 ・脈拍数 ・内科診察 |
血液検査 | ・HbA1c ・空腹時血糖 |
尿検査 | ・ケトン体 ・蛋白 |
心電図 | ・安静時心電図 |
●個々の患者さんの必要に応じて行うメディカルチェックの項目
「必要に応じて実施するメディカルチェック項目」から、患者さんの病状によっては、更に詳しいチェックを行います。必要に応じて実施するメディカルチェック項目
診察 | 整形外科的診察 など |
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足の観察 | ・鶏眼、白癬、爪の状態など皮膚の状態 ・外反母趾の有無など足関節・足趾の可動性 |
X線 | ・胸部 ・運動器疾患の発症または疑われる膝関節などの部位 |
血液検査 | ・HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセライド ・白血球、赤血球、ヘマトクリット、血色素、血小板 ・AST(GOT)、ALT(GPT)、γGTP、LDH ・ クレアチニン、尿酸、BUN ・ グリコアルブミン、1,5-AG など |
運動負荷試験 | 主に、マスター2段階法負荷、トレッドミル負荷、 自転車エルゴメータがあり、 ・心拍応答 ・運動時血圧 ・運動時心電図 ・呼気ガス分析(最大酸素摂取量) ・血中乳酸値 などを計測する |
合併症に 対する検査 |
・尿アルブミン排泄量 ・眼底検査 ・心電図RR間隔変動(CVRR) ・ホルター心電図(不整脈、狭心症) ・心エコー(心肥大など) ・心筋シンチグラフィ(心筋虚血の診断) ・冠動脈CT(冠動脈石灰化) ・頸動脈血管エコー(プラークの有無) ・足関節血圧/上腕血圧比(ABI) ・脈波伝播速度(PWV) など |
その他 | ・起立性低血圧の有無 ・不整脈の有無 ・心雑音 ・下肢腱反射 ・振動覚検査 ・足背、後脛骨動脈の触知 ・肝・腎スクリーニング検査 ・体力テスト(筋力、柔軟性、片足立ちテストなど) など |
特に糖尿病に合併する狭心症では、胸痛などのみられない無症候性心筋虚血の場合もみられ、運動によっては突然死を招く危険があります。メディカルチェックの際に、虚血性心疾患の有無についてのスクリーニングが必要なのは、高齢者、メタボリックシンドローム、脂質異常症、下肢閉塞動脈硬化症、糖尿病合併症、頸動脈病変、発症10年以上の2型糖尿病、発症15年以上の1型糖尿病などがある患者さんです。 これらの患者さんの場合、運動負荷試験を行うことで、心臓の状態を詳しく知ることができます。運動負荷試験では、運動時の血圧や心電図などを測定するので、無症状の心筋虚血や不整脈などの発見につながります。運動負荷試験が必要な場合には、実施可能な専門施設へ依頼することも考慮しましょう。 |
運動負荷試験
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まとめ
糖尿病患者さんの運動指導については様々の注意が必要であることがお分かりいただけたと思います。しかしながら患者さんにとって運動は食事療法とともに、治療の基本であることに変わりはありません。患者さんの病状や合併症、併発症などをしっかりチェックし、運動に伴うリスクを避けるよう配慮をしたうえで、個々の患者さんに合った運動プログラムを積極的に指導しましょう。2012年06月
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