脳梗塞の新しい治療法として期待されている「血管内治療」について、日本脳神経血管内治療学会は、日本には専門医が偏在しているエリアが多く、患者が治療を受けられない可能性が高いとする調査結果を発表した。「全ての脳梗塞の患者を救える体制をできるだけ早く実現したい」と同学会は述べている。
新しい治療法「血管内治療」
脳梗塞発症から8時間以内で可能
脳梗塞の治療では11年前に「t-PA」が登場し、この治療を受け社会復帰した患者が増えている。「t-PA静注療法」は、脳の血管を詰まらせている血栓を溶かし、再び血液を脳の神経細胞に行きわたらせる治療法だ。
しかし、t-PAは発症から4時間半以内に投与する必要があるなど制約がある。そうした場合に新しい治療法として期待されているのが「血管内治療」だ。
血管内治療は発症から4時間半を過ぎた場合でも、8時間以内であれば行うことができる。「脳出血の既往歴がある」「脳梗塞の範囲が広い」「血液の凝固機能などに異常がある」などの、t-PAを受けられない場合でも行える。
血管内治療は、脚の付け根の動脈からカテーテルを脳の血管に送り込み、カテーテルの先端に付けたデバイスで血管に詰まっている血栓を取り除き、血流を再開させる治療法だ。最近では機能的で安全性の高いデバイスが登場したことで、後遺症を残さなくて済むケースが増えてきた。
ステントを細く折り畳んだ状態でカテーテルを血栓が詰まっている部分まで挿入し、ステントを広げて血流を確保しながら血栓をからめとり、一緒に血栓を抜き取る治療法や、カテーテルを血栓が詰まった部分まで送り込み血栓を吸引する治療法がある。
一方で、血管内治療にも課題がある。この治療では、カテーテルの細かい操作など高度な技術が必要だ。このため、実施できるのは、日本脳神経血管内治療学会が認定する脳血管内治療専門医や、専門医試験の受験資格相当の経験を有する医師に限定される。同学会の専門医は全国に1,134人にとどまる。
「血管内治療」の実施例は伸び悩んでいる
脳梗塞の効果的な治療法である「血管内治療」だが、日本では実施件数が伸び悩んでいる。そこで日本脳神経血管内治療学会は、この治療の普及に関する学会宣言を発表した。▽治療ができないエリアの調査と公表、▽有効性の啓発、▽実践の支援――の3項目を重点に掲げ、医療機関と自治体の連携の強化に乗り出す。
脳梗塞による死亡数は年間6万6,058人(2014年)。同学会の調査によると、t-PA静注療法の実施が約1万例に上るのに対し、血管内治療は6,000~7,000例にとどまる。
血管内治療が日本で医療保険が適用されるようになったのは6年前だ。この治療によって社会復帰できる患者の割合は14%、自宅復帰率は20%、それぞれ高まるという報告がある。
普及が進まない理由のひとつは、専門医がいないエリアが多いこと。同学会は、全国の約150施設にこの治療の対応状況などを調査。その結果、専門医が都市部に集中し、地方で不足している実態が明らかになった。
全ての脳梗塞の患者を救える体制を早く実現したい
47都道府県のうち全県をカバーできているのは鳥取県と石川県のみだった。これらの県でも治療できる施設は多くないが、専門医と病院の医師らが連携し、治療が必要な患者をスムーズに施設に搬送できるようにしてあり、全県をカバーできているという。
他の45都道府県では患者の搬送が間に合わず、治療を受けられない可能性が高い。専門医が比較的多い東京都でも、23区に集中しており、西部には不在という状況だ。大阪は専門医が比較的多いが、全域はカバーされていない。
同学会は今後のアクション・プランとして、(1)血管内治療が受けられないエリアを正確に調べ、どうすれば受けられるようになるかを検討する、(2)この治療が有効であることを、治療が受けられないエリアを含め全国に知らせる、(3)この治療をできるだけ多くの患者に行うための支援をする――ことを実践していくという。
「全ての脳梗塞の患者を救える体制をできるだけ早く実現したい。そのために医療機関の連携強化が必要で、専門医と実施医の連携、行政と連動した救急搬送システムの構築なども欠かせない。日本が脳卒中になっても困らない国になるよう対策していきたい」と、調査を担当した兵庫医科大学の吉村紳一教授は言う。
日本脳神経血管内治療学会専門医の都道府県別の数と配置は、同学会ホームページで公開されている。
日本脳神経血管内治療学会
日本脳神経血管内治療学会 専門医配置図
[ Terahata ]