厚生労働省は、ICT(情報通信技術)を活用した次世代の「保健医療システム」を整備すると発表した。国民一人ひとりの保健・医療データを、「価値を生み出す」「統合している」「安全かつ開かれた利用ができる」ものにするため、アクション・工程表を提示する考えを示した。
保健・医療分野でのICT活用を推進
この提言は、厚生労働省の「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」が先月まとめたもの。懇談会は、保健・医療分野でのICT(情報通信技術)の活用の現状について、「サービス自体の質の向上には不十分」「価値が共有されていない」などと指摘している。
限られた財源を効果的・効率的に活用し、保健医療サービスの質の最大化する必要があることや、ICTの活用を「患者・国民の価値主導」に切り替え、医療機関や産学官のデータを利活用していく考えを示した。
塩崎恭久・厚生労働大臣の諮問機関が、20年後の保健医療政策のビジョンを示した「保健医療2035」でも、「情報基盤の整備と活用」を新たな保健医療システムのインフラのひとつに位置付けている。
具体的には、
(1)ビックデータの活用やAI(人工知能)による分析で、個人の症状や体質に応じた、迅速・正確な検査・診断、治療を受けられる仕組みをつくる、
(2)地域や全国の健康・医療・介護情報のネットワークを構築し、切れ目ない診療やケアを受けられるようにし、同時に検査や薬の重複を避け医療費の負担も軽減する、
(3)ICTを活用した遠隔診療や見守りを促進し、専門医がいない地域の患者や、生活の中で孤立しがちな高齢者も、医療や生活支援を受けられるようにする、
(4)最適な治療や薬を届けられ、有用な医療・保健サービスを創出できるよう、ビックデータ活用によるイノベーションをはかる
――といった対策が考えられている。
保健医療データを統合した情報基盤「ピープル」を整備
厚生労働省は、健康なときから病気や介護が必要な状態になるまでの国民の基本的な保健医療データを統合した情報基盤「PeOPLe」(ピープル:Person centered Open PLatform for well-being)を整備し、2020年度を目標に段階的に運用を開始し、2025年度までに本格運用をスタートさせる計画を立ち上げた。
「ピープル」の狙いは、全ての患者・国民がアクセスでき、活用できる開かれた情報インフラとして健康管理などに活用できる、オープンな情報基盤の整備だ。医師や保健師などの医療専門職が既往歴を介護歴を把握し、効果的な治療法を提案できるようになるほか、保健医療データを目的別に収集し、匿名化などをしてから提供し、産学官の多様なニーズに応える仕組みも考えられている。
かかりつけ医によるサポート、医師・看護師・保健師などによる健康サポート、救急・災害時の対応、リハビリテーション、急性期医療などの基本的な保健医療情報を、国民一人ひとりを中心に統合し、AIなどの技術を活用したアルゴリズムを組み合わせ、疾病や健康状況に合わせて最適なサービスを得られるようにする。
たとえば、救急搬送時や災害時に、かかりつけではない医療機関を受診した場合や発作などで患者本人が意識を失っているケースでも、データベースに蓄積されている患者情報をもとに最適な治療が受けられるようになる。患者自身も「ピープル」にアクセスできるようにすることで、病気を予防するための生活習慣など、健康管理に役立つ情報を知ることができる。
情報基盤「ピープル」への参加については、患者・国民が一人ひとり同意することを原則とするとともに、情報提供は匿名化を原則として、セキュリティ環境なども十分に整備する必要があるとしている。
さらに、「ピープル」などで得られた最新のエビデンスや診療データを、AIを用いてビックデータを分析し、現場の最適な診療を支援する「次世代型ヘルスケアマネジメントシステム」(仮称)も整備する。ビッグデータを「価値を生み出すデータ」に転換することで、新たな治療法の研究開発や、患者一人ひとりに最適な治療方法を選択する際に利活用できるようになる。
懇談会では、このシステムを構築するために、例えば、2020年度までに「AIを用いた病理診断技術」「小児ウイルス感染症の選別技術」「次世代ヘルスケアマネジメントシステムの関連技術」などを開発する。「医療レセプト・介護レセプトなどのデータベースの整備・献血」や「全国各地への普及・全国規模への拡大」を進め、2020年度から運用していくことなども提言している。
保健医療分野におけるICT活用推進懇談会(厚生労働省)
保健医療2035
[ Terahata ]