魚を週に2皿(サービング)食べている糖尿病患者は、糖尿病網膜症を発症するリスクが48%低下することが、スペインの研究で明らかになった。「糖尿病の人は魚を食べると、失明のリスクを大きく下げられる可能性があります。魚を毎日食べないといけないわけではなく、週に2回だけで効果を得られる可能性があります」と、研究者は述べている。
魚をよく食べる地域では心血管疾患の発症が少ない
「地中海式ダイエット」とは、地中海沿岸の国々に暮らす人たちの伝統的な食事と同じ食事スタイルをさす。新鮮な野菜と果物、魚介類、全粒穀類、オリーブオイルやくるみなどのナッツ類を中心に、栄養価の高い食事を常食する。これらの食材が風味豊かなおいしい料理として供される。地中海式ダイエットは、味がすばらしいだけではなく、さまざまな健康効果をもつことが明らかになっている。
地中海沿岸では、牛や豚などの赤身肉をあまり食べず、魚を多く食べる習慣があり、そうした地域では心筋梗塞などを発症する人が少ないことが知られている。魚に含まれる油の効果とみられており、魚食文化が根づいている日本でも、長寿の要因のひとつと考えられている。
「PREDIMED」は、地中海式ダイエットが心筋梗塞や心不全などの心血管系疾患などの一次予防に効果があるかを調べた大規模研究。PREDIMEDは「地中海式ダイエットによる疾患予防」という意味がある。並行群間比較、多施設、単純盲検、無作為化の臨床試験として、スペインの7地域で2003年に始まり、2011年に終了した。
魚油には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といったn-3系と呼ばれる多価不飽和脂肪酸が多く含まれる。魚油を摂取すると、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患の予防効果を得られることが多くの研究で報告されている。
過去の研究では、2型糖尿病患者が魚油を摂取すると、中性脂肪値を低下できることが確かめられている。さらに魚油には、抗炎症性の生理活性のある脂肪が含まれており、一度起こった炎症反応にブレーキをかけてもとの正常な状態に戻す作用がある。魚油には血液凝固を防ぐ作用もあり、血液をサラサラの状態に保ってくれる。
魚を週に2回食べると糖尿病網膜症のリスクが48%低下
「今回の研究は注目すべき結果になりました。魚を含むシーフードを多く摂る食事スタイルが、魚油の摂取量を増やし、糖尿病網膜症の危険性を下げてくれます。魚を毎日食べなければならないわけではなく、週に2回食べるだけで、魚油による予防効果を得られます」と、バルセロナのレッド バイオメディカル研究センターのアレックス サラ-ビラ氏は言う。
研究には、スペイン在住の55~80歳の2型糖尿病の男女3,614人が参加し、2003~2009年に行われた。参加者を3つのグループに分け、▽低脂肪食を摂るグループ、▽地中海食を摂るグループ(植物性食品が中心で、赤身肉を控え、エクストラ・バージンのオリーブオイルを摂る)、▽地中海食を摂るグループ(オリーブオイルの代わりに1日30gのクルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンドなどのナッツ類を摂る)――に無作為に振り分けた。
参加者が8種類のシーフードをどれだけ食べているかを、5年間追跡して調査した結果、シーフードを多く食べている糖尿病患者は網膜症の発症が少ないことが明らかになった。
解析した結果、n-3系の多価不飽和脂肪酸を1日500mg摂取している人では、糖尿病網膜症の発症率が48%低下することが明らかになった。魚を週に2皿(サービング)摂取すると、これと同じ量を摂ることができるという。
サプリメントで同じ効果を得られるかは不確か
サラ-ビラ氏は「スペイン人を対象とした研究で、他の集団にもあてはまるかを判定するために、さらに大規模な研究が必要となる。魚油が糖尿病網膜症を防ぐメカニズムを調べるためにも、さらに研究が必要」としながらも、「魚を多く摂る地中海式ダイエットが、糖尿病網膜症などの合併症を予防するために効果的である可能性がある」と述べている。
「ただし、今回の研究では、食品から摂取するn-3系脂肪酸のみに着目しており、サプリメントからの摂取については検討していない」と付け加えている。研究は、米国医師会が発行する医学誌「JAMA 眼科学」に発表された。
デンマークのコペンハーゲン大学のマイケル ラーセン教授は、発表された論文の論説を寄稿し、サラ-ビラ氏の見解を支持し、「研究は食事に自然な食材を加えたときの違いを調べたものです。サプリメントで高濃度のn-3系脂肪酸を人工的に摂取したときに、同じ効果を得られるかどうかは不明です」と述べている。
DHAやEPAには酸化しやすい性質があり、市場に出ているサプリメントの多くは酸化防止剤を使っている。「本物の魚やナッツ類を摂取した場合に比べ、サプリメントで同じ効果を得られるかは不確かです。魚には良質なタンパク質も含まれます。なるべく自然な食物を摂り、どうしても魚を食べられない場合にサプリメントで補うことを考えた方が良いでしょう」としている。
サービングは、1回あたりに提供される食事の標準的な量を示す単位。日本人向けの「食事バランスガイド」でも単位として用いられている。
日本人の成人の場合、1日に主食は5~7サービング、野菜・いも・海藻・きのこなどの副菜は5~6サービング、魚・肉・卵・大豆・大豆製品などの主菜は3~5サービング、牛乳・乳製品は2サービング、果物は2サービングが目安になる(カロリーは1日に2,200~2,400kcalに相当)。
Dietary Marine ω-3 Fatty Acids and Incident Sight-Threatening Retinopathy in Middle-Aged and Older Individuals With Type 2 Diabetes(JAMA Ophthalmology 2016年8月18日)
Eat Your Fish or Go for Nuts(JAMA Ophthalmology 2016年8月18日)
[ Terahata ]