年齢による体力の衰えは、予想以上に早くはじまる。肉体的な衰えのサインは、早い人では50歳であらわれるという。「ウォーキングなどの運動をして対策することが必要です」と研究者はアドバイスしている。
50歳を過ぎたら体力テストを受けた方が良い
40歳を過ぎたあたりから、体力は次第に低下していく。「多くの人は、加齢に伴う体力低下は、高齢になるまで生じないと思いがちです。そのため機能的自立度の低下は、高齢者に限った問題だと思われています。しかし、これは間違いであることが明らかなりました」と、米国のデューク大学保健システムのキャサリン ホール氏は言う。
高齢者の体力テストは一般的に、70~80歳代で行われることが多いが、「体力の低下を防ぐためには、50歳前後にはじめるべきだ」と、ホール氏は指摘する。
「体力低下は、寝たきりなどさまざまな問題を引き起こします。現代人の寿命は80年くらいです。体力テストを早くから行って、それをもとに適切な運動すれば、貴重な40年間を有意義に過ごせます」と述べている。
80歳になって体力が低下し、椅子から立ち上がれなくなってからでは遅すぎる。運動を習慣として続けることで、体力を強化でき、健康寿命を延ばすことができる。
年齢による衰えは50歳を過ぎると始まる 最初のサインは
研究では、30歳代から100歳以上までの男女775人に、6分間の歩行、片脚立ち、椅子からの立ち上がりの反復などの運動をしてもらい、身体機能を評価した。同時にアンケート調査を行い、過去に比べ体力がどれだけ低下していると実感しているかを尋ねた。
その結果、片脚立ちや、椅子から立ち上がる能力の衰えは最初にあらわれ、早い人では50歳代で低下することが判明した。歳をとるとそれだけ体力は低下していく。有酸素持久力や歩行速度の低下は、60~70歳代になると個人差が大きくなることが分かった。
「身体能力が早くから衰えた人は、歳をとってから基礎体力と持久力の低下がいっそう著しいことが分かりました。ただし、良いニュースもあります。ウォーキングなどの運動を習慣として行えば、自立力を支える体の機能は維持できることです」と、デューク大学の人間開発・加齢センターのミリアム モーリー氏は指摘する。
50歳を過ぎたら要注意 体力の低下を防ぐための4つの対策
40歳を過ぎたあたりから、体力低下の下降カーブは急になる。ただ、50~60歳代までは衰えがあっても、日常生活に支障を感じない。しかし、そのままにしていると70歳代で、要介護の状態になりかねない。そのために、体力を維持する運動の継続が必要になる。
米国のメイヨークリニックでは、歳を重ねても体力を低下させないために、下記の対策をすることを勧めている。
● 筋肉を増やして基礎代謝量を増やす
一般的に加齢に伴い基礎代謝量は低下する。その主な理由は、体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの「除脂肪量」が低下することだ。このことは活動時のエネルギー代謝量の低下につながる。
基礎代謝量の低下の原因は、骨格筋の量が減少することだ。骨格筋は骨に沿って付いている筋肉のことで、その収縮によって身体を支え動かしている。ウォーキングなどの運動を続ければ、骨格筋を増やすことができる。
もうひとつの原因は、身体活動量の低下だ。身体活動を活発に行なえば、エネルギー消費を高く維持し、加えて筋肉量の減少を遅らせることができる。
基礎代謝量は30歳を過ぎると加齢とともに低下する。また筋肉と脂肪の比率も基礎代謝量に大きく影響する。運動不足が続くと、筋肉量が少なくなり基礎代謝が低下するため、減量がうまくできなくなる。
ウォーキングなどの有酸素運動を続けることで、基礎代謝量を高められる。筋肉が増えれば基礎代謝量を増やせるので、肥満の改善には筋力トレーニングも勧められる。
● 「最近、歩く速度が遅くなった」という人は要注意
30歳代以降にあまり運動をしないで過ごすと、歳を重ねてから筋肉が急激に減少するおそれがある。高齢者の歩く速さと、10年後の生存率を調べた研究で、筋肉の量が多いほど長生きできることが判明した。
歩行速度が普通以上(毎秒1.4m以上)のグループと、遅い(秒速0.4m未満)グループとを比べると、10年生存率に3倍程度の開きがあるという。
この結果は、歩くのが速い人、すなわち筋肉量が多い人ほど長生きできることを示している。歩くのが遅い人も、運動や適切な食事などによって速く歩くことができるようになれば、生存率を伸ばすことが可能だ。
筋肉には、エネルギーを貯蔵する機能もある。糖の一部は、脂肪にも蓄えられるが、多くは筋肉にグリコーゲンとしてためられる。そのため、筋肉の量が減ると、糖をためられる場所が少なくなり、結果として血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病のリスクが高まる。ウォーキングなどの運動をすると、糖や脂肪の利用が促され血糖値が低下する。
● 50歳を過ぎたら骨密度の低下を防ぐ対策が必要
骨密度は加齢に伴い減少し、その減少率は男性よりも女性のほうが大きい。特に女性の場合は30歳ごろにピークを迎えて骨密度が最大となり、以後は骨密度が徐々に減少し、50歳ごろから骨密度の減少は加速する。
骨密度が低下すると、骨粗鬆症のリスクが高まる。骨粗鬆症は骨が脆くなって骨折しやすい状態を指す。骨粗鬆症で怖いのは、何かにぶつかったり、転んだりした拍子に骨折してしまうことだ。腰椎や大腿骨の骨折によって、腰痛や寝たきりの原因になることもある。
骨粗鬆症を予防するためには、カルシウムの摂取と日光浴に加えて、ウォーキングや筋力トレーニングなど骨に刺激が加わる運動を続けることだ。
● 栄養バランスの良い食事を 栄養不足にも注意
栄養の摂取過多(過食)は、肥満の原因になり、心臓病や脳卒中、糖尿病などを引き起こす。一方で、栄養不足も体調不良やさまざまな疾病の原因になるので注意が必要だ。
年齢を重ねると、食事の量が少なくなり、あっさりしたものを好むようになる。そのため、食事に偏りが生じやすくなる。このような食生活を長く続けると、タンパク質やエネルギーが不足し、栄養不足になるリスクが高まる。
エネルギー(糖質・脂質)も体を動かすエネルギーになるため、これらが不足すると体の不調が引き起こされやすくなる。また、果物や生野菜・肉類をあまり食べなくなると、ビタミンやミネラル類も不足しがちとなる。固いものや繊維質の多いものを食べるのが難しくなると、食物繊維が足りなくなることもある。
栄養の摂取の基本は、自分で食事を食べること。栄養バランスの良い食事を食べることは、QOL(生活の質)を維持するためにも大切だ。
Physical Declines Begin Earlier Than Expected Among U.S. Adults(デューク大学 2016年7月21日)
Aging: What to expect(メイヨークリニック 2015年11月24日)
[ Terahata ]