第75回米国糖尿病学会(ADA)年次学術集会が6月5日〜9日にボストンで開催された。糖尿病治療に関する最新の研究成果が発表された。
患者と医師のコミュニケーションが良好であるほど患者の自己管理は向上
医師と患者との良好なコミュニケーション、2型糖尿病患者の自己管理とQOL(生活の質)を高めるのに必要であることが、26ヵ国の2型糖尿病患者4,235人が参加した試験で明らかになった。
「IntroDia」は、国際糖尿病連合(IDF)とのパートナーシップのもとで、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリーが取り組んでいる多国籍共同調査。新たな経口薬を追加処方するときの、患者の認識にもとづくコミュニケーションの質と患者の自己管理との関連について調査した。
その結果、医師との会話を思い出した時に、良好なコミュニケーションがとれたと記憶している患者ほど、糖尿病に関連した精神的苦痛・運動頻度・食事療法などを含む自己管理の向上、QOLの向上、さらには服薬アドヒアランスの向上がみられた。
2型糖尿病治療薬の追加投与が必要であることを患者に伝える際、医師が「新しい薬によって、糖尿病の管理がしやすくなる」などの勇気づけるような話し方をすれば、その後の患者の自己管理に大きな違いがあらわれるという。追加処方を伝える際のコミュニケーションの質が重要であることが裏付けられた。
Type 2 diabetes: Patients reporting better quality of communication by their physician show improved self-care
糖尿病とうつ病を併発 うつ病は早期の介入で改善できる
糖尿病患者はうつ病になりやすく、うつ病になると血糖値のコントロールが難しくなる。うつ病を早期に発見し適切な治療を受けることが重要だ。ビデオチャットや電話を通じ、糖尿病患者の行動変容を促すことで、うつ病やストレス、不安などを改善することを目的としたコホート研究「AbilTo糖尿病プログラム」の成果が発表された。
392人の糖尿病患者(平均年齢 57.4歳)が、8週間のプログラムに参加した。開始前には、うつや不安、ストレスなどの精神状態などをはかるスケールであるDASSが平均17.9点と判定されたが、プログラム終了時には8.7点に改善し、参加者の63.6%でうつ病のスコアが正常範囲に戻った。
糖尿病では、食事制限などの自己管理を求められ、長引く治療がストレスになり、うつ病を併発する患者が少なくない。糖尿病とうつ病を併発すると、生活の質が低下するばかりでなく、深刻な影響が出てくる。うつ病を併発している患者の約半数は、自分がうつ病であることに気付いていないという。
「うつ病は適切な治療を行えば改善が可能です。早期に介入することで、糖尿病の治療にも改善効果があらわれます」と、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のリーナ パンディ氏は述べている。
AbilTo To Present at the 2015 American Diabetes Association Annual Meeting
糖尿病は「セルフマネジメント」の病気 糖尿病療養指導士の役割は大きい
糖尿病は、患者自身による長期にわたる健康管理が必要な病気で、そのためには適切な知識と技術をもった糖尿病療養指導士(CDE)が、一人ひとりの患者の生活に即した指導と支援を行う必要がある。
糖尿病患者による自己管理の教育と支援(DSME/S)を促すため、米国糖尿病学会(ADA)、米国糖尿病教育者学会(AADE)、米国食事療法学会(AND)が共同で声明を発表した。糖尿病教育は、糖尿病をコントロールするための重要な鍵となる。
声明では、看護師、管理栄養士、薬剤師、運動療法指導士、心理療法士などのCDEに向けて、指導内容や医師との役割分担、治療を行う上で推奨される方法などについて説明している。CDEによる指導や支援により、糖尿病患者の血糖コントロールが改善し、合併症が抑制され、生活習慣の改善などが成功しやすく、医療費削減にも効果があることが過去の研究で確かめられている。
実際には、医師からCDEを紹介された患者は83%が指導を受けているが、紹介がない患者が指導を受けることは少ないという調査結果がある。声明ではCDEの役割の重要性を改めて強調している。
AADE, ADA and AND Issue Joint Position Statement
インスリン治療に伴う低血糖は予想以上に多く起きている可能性がある
インスリン治療に伴う低血糖が過少に報告されている可能性があることが、低血糖の実態を明らかにするために実施された「低血糖アセスメントツール(HAT)試験」で明らかになった。
低血糖は、血糖値が正常値より低くなっている状態。低血糖は重大でないものから重大なものまでさまざまで、目まい、異常行動、けいれん、意識消失といった症状を引き起こし、ときには死に至る。特に夜間低血糖は見落とされやすく、最適な血糖コントロールの達成を困難にする原因のひとつになっている。
試験には24ヵ国の2万7,585名の患者が参加。インスリンで12ヵ月以上の治療を受けている18歳以上の1型糖尿病患者あるいは2型糖尿病患者を対象に、自己評価アンケートなどで、最初の来院時に過去4週間などの低血糖の発現についてデータを収集し(後ろ向き)、その来院後4週間は前向きに低血糖の発現を収集し評価した。
その結果、試験開始後4週間における低血糖の発現件数は、開始前4週間と比較して有意に増加し、1型糖尿病患者で47%増加、2型糖尿病患者で20%増加した。後ろ向き調査に比べ前向き調査で低血糖の報告が増加したことは、試験前にも報告されていなかった低血糖が発現していたことを示唆している。
Self-reported hypoglycaemia: a global study of 24 countries with 27,585 insulin-treated patients with diabetes: the HAT study
[ Terahata ]