インスリンとグルカゴンの2種類のホルモンを投与する「人工膵臓」によって、血糖コントロールが改善し、低血糖の頻度も減らせるという研究をカナダの研究所が発表した。
グルカゴン投与の機能を組み込んだ人工膵臓
開発が進められている「人工膵臓」は、インスリンポンプのように体に装着することで、血糖コントロールを改善する機器。血糖値を連続的に測定し、血糖値をもとに自動的にインスリン投与量を調整する。
インスリンのみを投与するシングル人工膵臓と、インスリンとグルカゴンの2種類のホルモンを投与するデュアル人工膵臓が開発されている。グルカゴンは膵臓のα細胞で生成される血糖値を上昇させるホルモンで、人工膵臓ではインスリンにより血糖値が下がり過ぎたときに、自動的にグルカゴンを投与し血糖値を上昇させる仕組みが考えられている。
研究は、カナダのモントリオール大学モントリオール臨床研究所(IRCM)によるもので、カナダ糖尿病協会や国際若年性糖尿病研究財団(JDRF)などが資金提供して行われた。
1型糖尿病をとともに生きる人々にとって、血糖値を目標となる正常範囲内にとどめることは重要だ。血糖コントロールを改善すれば、糖尿病網膜症や腎不全といった合併症を長期にわたり防ぐことができる。
しかし、厳格な血糖コントロールはしばしば低血糖を伴うことがある。低血糖はひどい場合は、意識障害、方向感覚の喪失、意識の消失、昏睡に至ることがある危険な状態だ。
低血糖を防ぎながら、血糖コントロールを改善することが糖尿病治療の大きな目標となっている。人工膵臓は効果的な治療法になると期待されている。
「低血糖は糖尿病の治療で大きな障壁となっています。人工膵臓にグルカゴン投与の機能を組み込むことで、低血糖を防げると期待しています」と、IRCMのラバサ ロレット氏は言う。
人工膵臓によって夜間低血糖をゼロに抑える
試験にはインスリンポンプ療法を3ヵ月以上継続している30人の成人と10代の1型糖尿病患者が参加した。参加者は2013年2月と2014年5月の期間に研究施設に1晩の入院を3回行った。
従来のインスリンポンプ療法に比べ、シングル人工膵臓と、デュアル人工膵臓の2つのパターンで、血糖コントロールや低血糖の頻度がどれだけ変化するかを調べた。
その結果、血糖値が正常範囲内にとどまった時間は、シングル人工膵臓を使った患者では62%、デュアル人工膵臓を使った患者では63%だった。ともに、従来のインスリンポンプ療法の際の51%より改善していた。
低血糖の頻度の合計は、シングル人工膵臓では13例、デュアル人工膵臓では9例が確認された。従来のインスリンポンプ療法では、徴候性低血糖12例を含む52例が確認されており、人工膵臓によって低血糖が大きく減らせることが示された。
特に夜間の低血糖については、インスリンポンプ療法では13例が確認されたのに対し、シングル人工膵臓およびデュアル人工膵臓では0件で、人工膵臓が夜間の低血糖を防ぐのに効果的であることが示された。
「特に1型糖尿病患者の幼い子供をもつ親にとっては、睡眠中の低血糖は大きなストレスや不安となります。人工膵臓によって夜間低血糖をゼロに抑えられたことは期待をもたらします」と、モントリオール大学小児内分泌学の専門医であるローレント レゴ氏は言う。
インスリンとグルカゴンのデュアル人工膵臓では予想されていたほど優位性が認められなかった点につき、人工膵臓はまだ開発途中にあることや、今回の研究規模が小さかった点などを指摘している。人工膵臓は2020年より前に上市することを目標に開発が進められている。
「人工膵臓は従来のインスリンポンプ療法に比べ、血糖コントロールを改善し、低血糖のリスクを減らすことが確かめられました。人工膵臓は、糖尿病の管理や患者とその家族の生活の質を向上すると期待しています」と、IRCMのアーマド ハイダル氏は述べている。
研究は医学誌「ランセット 糖尿病&内分泌学」に発表された。
Artificial pancreas shown to improve the treatment of type 1 diabetes(モントリオール大学 2014年11月27日)
Comparison of dual-hormone artificial pancreas, single-hormone artificial pancreas, and conventional insulin pump therapy for glycaemic control in patients with type 1 diabetes: an open-label randomised controlled crossover trial(ランセット 糖尿病&内分泌学 2014年11月26日)
[ Terahata ]