1型糖尿病の発症機序を遺伝子で解明しようという動きが盛んになっている。1型糖尿病の発症に強く関与する「HLA遺伝子」を解明することで、発症のメカニズムを説明できる可能性があるという研究が発表された。
1型糖尿病の発症に関与するHLA遺伝子
東京大学の研究グループは、「ヒト白血球抗原」(HLA)の安定性を解析し、1型糖尿病のかかりやすさに関連する「HLA遺伝子型」が、安定性が顕著に低い「HLAタンパク質」を作ることを発見したと発表した。
同成果は同大学大学院医学系研究科の宮寺浩子助教(研究当時)、徳永勝士教授らの研究グループによるもので、医学誌「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に12月8日付けで発表された。
1型糖尿病は主に自己免疫機序により膵臓のβ細胞の破壊され、インスリンの欠乏が生じて発症する疾患。β細胞が破壊・消失した結果、インスリン依存状態になり、生命を維持するためにインスリン投与が必要となる。
1型糖尿病は免疫系の細胞が、インスリンを生産する膵臓のβ細胞に対して免疫応答を起こすことによって発症し、特定のHLA遺伝子型をもつと1型糖尿病の発症率が高くなることが報告されている。
体の免疫系が病原体などに対して防御反応を行うために、外から入ってきた異物を自分の体の器官・組織などと区別して見分ける仕組みが必要となる。この役割を担うのが、「ヒト白血球抗原」(HLA)だ。
1990年代半ばから遺伝解析が行われるようになり、近年はゲノム全領域を対象とした疾患関連の解析が行われている。これまで、1型糖尿病の発症への関与が確認され、遺伝子の本体まで明らかになっている遺伝子は少なくとも5つあるという。
その中でもっとも強く疾患に関与するのはHLA遺伝子で、これにより1型糖尿病発症に関わる遺伝因子の30〜50%が説明できると考えられている。
日本人、欧米人、アフリカ系米国人などを対象とした研究で、特定のHLA遺伝子型をもつと1型糖尿病の発症率が高くなることが示されている。
HLA遺伝子が安定性の低いHLAタンパク質を作る
研究グループは今回の研究で、HLAのタンパク質の安定性が自己免疫疾患のかかりやすさに関わる可能性に着目し、HLAタンパク質の安定性を推定するための測定手法を構築した。
その手法を用いて約100種類の主要なHLA遺伝子型の安定性を測定したところ、1型糖尿病のかかりやすさに関連するHLA遺伝子型が、安定性が顕著に低いHLAタンパク質を作ることを発見した。
さらに、HLAタンパク質の安定性制御に関わるアミノ酸残基を変える遺伝子多型(遺伝子の塩基配列が個人により異なる部分)を同定し、その遺伝子多型が1型糖尿病のかかりやすさに強く関連することを明らかにした。
従来の研究では、HLA遺伝子多型と自己免疫疾患との関連はHLAタンパク質のペプチド結合性によって説明されていたが、実際の発症機序については不明な点が多かった。
研究グループは、「1型糖尿病などの自己免疫疾患の発症メカニズムが、従来の定説とは根本的に異なる可能性が示された。今回の成果を糸口として、自己免疫疾患の発症機序について、さらなる解明に取り組む」と述べている。
今回の研究の一部は、「国際組織適合性ワーキンググループ」(IHWG)と、「日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会」の報告を用いて行われた。10万人あたりの小児1型糖尿病の発症率は、フィンランドやイタリアなどでは約40人と高値であるのに対し、日本では、1.4〜2.2人と低値だという。
東京大学大学院医学系研究科・医学部
[ Terahata ]