日本メドトロニックは先月、血糖変動をリアルタイムで確認でき、低血糖と高血糖のリスク低減を可能にした日本初のパーソナルCGM搭載「ミニメド620Gインスリンポンプ」のメディア向け発表会を開催した。
現在の血糖変動を患者自身が見られる「パーソナルCGM(持続グルコース測定)」は、今年4月に保険適用になった。
発表会では、田嶼尚子・東京慈恵会医科大学名誉教授が「糖尿病治療における血糖コントロールの重要性」と題した講演を行った。
血糖値の日内変動が詳しくわかるCGM
過去1〜2ヵ月の血糖値の平均を示すHbA1c値は、合併症を予防するために必要な血糖コントロールの指標になるが、日々の生活を振り返るには適さない。一方、「血糖自己測定」(SMBG)を利用すればいつでも血糖値を測定できる。
SMBGによって、インスリンを打つ前や寝る前など、測定した時点の血糖値はすぐに分かる。しかし、SMBGには血糖変動が測定時点でしか分からないという課題があり、それ以外の時間帯、たとえば夜間睡眠中や明け方、多忙な仕事中など、測定の難しい時間帯の血糖値の状態は分からない。
SMBGの課題を解決するために開発されたのが「持続グルコース測定」(CGM)だ。CGMでは、約1cmのセンサを皮下に留置し、5分ごとに血糖値とよく相関する皮下組織のグルコース濃度を測定することで、実際の血糖変動をシミュレーションする。
CGMの特徴は、SMBGに比べ測定回数が格段に多く、測定困難な時間帯の血糖変動や、自覚症状のない低血糖状態などが血糖変動をより的確に把握できるようになることだ。
CSIIとCGMを組み合わせて血糖コントロールを改善
一方、「インスリンポンプ」(CSII)は、24時間を通じて超速効型インスリンを注入する携帯型の小型機器。皮下に留置された細いカニューレと注入セットを通してインスリンを注入する。患者が注入するインスリンの量を変えることができる。
CSIIでは、食事摂取や運動プログラムにもとづいてインスリン用量を調節する。インスリンポンプを使用する場合も、1日を通じて血糖の状態をみる必要がある。
インスリンポンプを用いたCSIIとCGMを組み合わせることで、理想的な血糖コントロールを実現できる可能性がある。そこで登場したのが、リアルタイプで血糖変動を把握でき、グルコース値をモニタで視認できる「パーソナルCGM」だ。
4月に保険適用となった「パーソナルCGM」
今回発表された「ミニメド620Gインスリンポンプ」は、パーソナルCGMを搭載した日本で初めての機種となる。
現在行われているCGMは、医療機関で管理するタイプのものであるのに対し、「ミニメド620Gインスリンポンプ」は患者が在宅で自己管理できるパーソナルタイプとして開発された。
持続グルコース測定(CGM)とインスリンポンプ(CSII)が一体化したシステムである「SAP」が提唱されている。SAPとは、「Sensor Augmented Pump」の頭文字をとったもの。欧米ではすでにその有用性が報告されている。
SAPでは、測定されたグルコース値がリアルタイムで血糖変動のグラフとなり、インスリンポンプのモニタ画面に表示され、患者自身により視認することができる。
患者自身が血糖変動をリアルタイムで把握できるのに加え、高血糖や低血糖を音や振動のアラートで通知するので(アラートは選択可能)、患者はより積極的に治療や行動の変容に関われるようになる。
「パーソナルCGM」を組み込んだ「SAP」がHbA1cを改善
田嶼氏は、インスリンの頻回注射のみの場合に比べ、SAPを使用した場合の有効性を評価した臨床研究「STAR3」を紹介。STAR3には、インスリン頻回注射法(MDI)で血糖コントロールが不良の1型糖尿病患者485人が参加した(*1)。
HbA1cはSAPをはじめる前は8.3%だったが、SAPに切り換えた患者では一気にHbA1cは7.3%に下がり、低血糖は増加しなかった。これに対しMDI群は8.1%に低下した。SAPを使用することで、HbA1cが0.6%より改善することが明らかになった。
また、国際若年性糖尿病研究財団(JDRF)が資金提供して実施された臨床研究「SWITCH」は、SAPと従来型のインスリンポンプを比較したクロスオーバー試験として行われ、インスリンポンプを使用中の1型糖尿病患者153人が参加した(*2)。
6ヵ月間の期間終了後、SAPを使用した群では平均HbA1cが8.04%に改善し、従来型のインスリンポンプを使用した群では8.47%に改善した。SAPを使用することで、HbA1cが0.43%より低下したことが明らかになった。
これらの研究では、パーソナルCGMを組み込んだSAPを使用し、一時的な使用ではなく継続的使用をした患者で、低血糖を増加させずに、より良好な血糖コントロールを保つことができることが示された。
糖尿病の自己管理は自分を自由にする手段
発表会では、1型糖尿病を9歳時に発症し、24歳時にインスリンポンプによる治療を開始したNPO法人患者スピーカーバンクの香川由美さんが講演した。
香川さんは「インスリンポンプは、食事や運動といった日常生活の変化に応じてインスリンの投与量を柔軟に調節できて、使い勝手がいい」と言う。
インスリンポンプ機器も進歩しており「病気を自分で管理できている」という実感がもてるようになったという。
「自己管理は我慢ではなく、自分を自由にする手段。どんなツールが現れても、患者自身が“ハンドルを握るのは自分”という意識をもつことが大事。新しい医療技術や医療従事者の力を借りながら、人生を楽しんでいきたい」と意欲を語った。
日本メドトロニック
*1
Effectiveness of Sensor-Augmented Insulin-Pump Therapy in Type 1 Diabetes(N Engl J Med 2010年7月22日)
*2
The use and efficacy of continuous glucose monitoring in type 1 diabetes treated with insulin pump therapy: a randomised controlled trial(Diabetologia 2012年9月11日)
[ Terahata ]