インスリン治療を50年以上継続している糖尿病患者を表彰する「リリー インスリン50年賞」の表彰式が11月4日に東京で開催された。第12回にあたる今年は11名が受賞した。
「インスリン50年賞」
日本ではこれまで77人が受賞
「インスリン50年賞」は、米国でイーライリリー社が1974年に設立した。これまでに米国を中心に1,500名以上の患者が受賞している。日本でも2003年より表彰が開始され、これまでに77名の患者が受賞した。
第12回となる今年は、男性3名、女性8名の合計11名が受賞し、うちの8名が表彰式に参加した。50年以上にわたる糖尿病やインスリン治療の道のりを振り返りながら、糖尿病患者への励ましのメッセージを熱く語った。受賞者には、名前を刻印した純銀製のメダルと、世糖尿病デーのシンボルカラーの「青いバラ」が贈られた。
第12回「リリー インスリン50年賞」表彰式
池山礼子さん(宮崎県、インスリン治療歴50年)、
内田博子さん(京都府、インスリン治療歴53年)、
小池武志さん(千葉県、インスリン治療歴50年)、
近藤しまさん(千葉県、インスリン治療歴54年)、
鈴木啓子さん(宮崎県、インスリン治療歴50年)、
前畑リツ子さん(宮崎県、インスリン治療歴50年)、
山田タエ子さん(千葉県、インスリン治療歴50年)
(他の4名の受賞者については希望により情報は公開されていない)
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「リリー インスリン50年賞」の受賞者は、インスリン製剤の進歩に歩調を合わせるようにして人生を歩んだといえる。受賞者がインスリン療法を開始した1960年代には、糖尿病患者は現在では考えられないような多くの困難を乗り越えなければならなかった。
「当時はこんなに長生きできるとは思っていなかった。主治医の先生の熱意、苦労をともに過ごした家族や周りの方々の支え、医療の進歩に感謝したい」「自分に合ったインスリン療法が見えてきたのは最近のこと。自分が糖尿病をコントロールしようという気持ちが大切」と、インスリン50年賞の受賞者のひとりは語った。
インスリン治療 50年の道のり
「糖尿病の治療は昔は大変だった」
インスリン製剤や注入器は50年間にめざましく進歩し、インスリン療法を開始・継続する患者の負担は軽くなっている。現在は、患者の病態や治療に合わせて、作用の現れる時間や持続する時間の異なるさまざまなタイプのインスリン製剤が開発されており、インスリン製剤の選択肢は広がっている。
インスリンは20世紀最大の医薬品の発明ともいわれる。インスリンは1921年にトロント大学(カナダ)のフレデリック バンティングとチャールズ ベストによって発見された。その翌年にイーライリリー社がはじめてインスリンの製剤化に成功。1923年に世界で最初のインスリン製剤「アイレチン」が発売され、治療に使われるようになった。
日本でインスリン自己注射の保険適用が始められたのは1980年代になってからのこと。それまでは自宅でのインスリン自己注射は認められておらず、注射は原則として病院など医療機関で行わなければならなかった。
現在治療に使われている使いやすいペン型注入器や、注入器とインスリン製剤が一体になったキット製剤は当時なかったので、小さいガラス瓶に入ったバイアル製剤をガラス製の注射器に吸い出して注射を行っていた。初期のインスリン製剤は作用時間が短いものしかなく、注射器は注射ごとに煮沸消毒が必要だった。注射針も太く、注射をすると強い痛みを伴った。
現在では、健康な人のインスリン分泌パターンを再現するために、多種多様なインスリン製剤が使われている。インスリン療法は個々の病状や生活に合わせて、より安全に行える時代になった。より生理的なインスリン動態に近づけたインスリン製剤も開発され、多くの糖尿病患者の血糖コントロールに役立てられている。
イーライリリー社は、1982年に遺伝子組換えによる世界初の医薬品ヒトインスリンを発売した。遺伝子工学の手法を用いることで、ヒトの膵β細胞が分泌するインスリンと同じ構造のヒトインスリン製剤が治療に使われるようになった。
同社は1996年に超速効型インスリンアナログ製剤「ヒューマログ」を発売した(日本での発売は2001年)。今後も生理的なインスリン分泌パターンを再現できる製剤の開発が期待されている。
インスリン注射用の針も改良され、ほとんどの人は「注射していることさえも感じない」というほど、注射針は細く短くなった。現在、ペン型注入器に使われている注射針には、先端で0.23mmと驚異的に細く、長さも4mmと米粒ほどの大きさのものがある。
日本糖尿病学会理事で永寿総合病院糖尿病臨床研究センター長の渥美義仁氏は、「50年、60年と続けてきた患者さんの苦労は計り知れないものがある。インスリン療法を現在行っている患者さんや、これから始める患者さんにとって大きな励みになる。現在はインスリン製剤が進歩し、血糖コントロールがしやすくなっているが、受賞された患者さんが治療を開始した当時は多くの困難を伴っていた」と、受賞者たちのインスリン治療に対する真摯な態度に感動の意をあらわした。
日本糖尿病協会理事で東京女子医科大学糖尿病センターセンター長の内潟安子氏は、「50年前は、現在のような病態に合わせたさまざまなタイプのインスリン製剤や痛みの少ない注射針は開発されておらず、治療は血糖値がとにかく高くならないようにするというものだった。当時の苦労について、患者さんから教えられることが多い」と述べた。
[ Terahata ]