金沢大学の研究チームが、高カロリーの食事をとる頻度の多い肥満者の体内で多く分泌され、血糖値を上昇させるホルモンをつきとめた。このホルモンは肝臓で分泌される「LECT2」で、この働きを抑える薬剤の開発など、糖尿病治療への応用が期待できるという。
金沢大学の金子周一教授(恒常性制御学)らの研究チームは、肥満者では、肝臓が産生する機能未知のホルモン「ヘパトカイン」の1種「LECT2(Leukocyte derived chemotaxin 2)」が過剰に産生され、血液に多く分泌されていることを発見した。
マウスの実験ではカロリーの高い高脂肪の食事をわずか1週間食べさせるだけで、肝臓でのLECT2産生が上昇することが確認された。肥満者ではLECT2が過剰に産生されるようになり、筋肉で「インスリン抵抗性」を誘導し、血糖値を上昇させるという。
肝臓が産生するホルモン「ヘパトカイン」が生活習慣病の原因
肥満症や2型糖尿病患者の肝臓や骨格筋では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が起こるために、糖尿病をはじめ、メタボリックシンドローム、動脈硬化、がんなどを発症しやすくなることが知られている。しかし、肥満がインスリン抵抗性を起こすメカニズムは完全には解明されていなかった。
研究チームはこれまで、肝臓が生体内最大の活性物質の産生工場であることに注目し、肝臓由来の分泌タンパクの「ヘパトカイン」がさまざまな疾患の原因になっているのではないかと考え、研究を進めてきた。そして今回、肥満に関連した肝臓由来ホルモンを探索し、新たな発見をした。
LECT2はこれまで、慢性関節リウマチなどの自己免疫性疾患や肝臓がん発症と関連することが報告されていたが、肥満や代謝性疾患との関連は不明であった。
今回の研究で新たに明らかになったのは以下の4点だ。
(1)人間ドック受診者では、肥満が強いほどLECT2の血中濃度が高まった。
(2)マウスに高カロリーな高脂肪食を食べさせたところ、1週間後から血中LECT2濃度が上昇した。
(3)LECT2を先天的に欠損したマウスでは、糖およびインスリン負荷時に血糖値が低く、骨格筋でのインスリンシグナルがよく伝わっていた。
(4)試験管内で培養した骨格筋細胞を、LECT2タンパクと培養すると、インスリンのシグナル伝達が障害され、インスリン抵抗性が誘導されることを確かめた。
以上の結果から、肥満者ではLECT2が肝臓から過剰に分泌されること、過剰のLECT2が筋肉でインスリン抵抗性を起こすことで糖尿病になりやすくなることを明らかにした。肝臓でのLECT2の産生を抑える薬剤や、筋肉でのLECT2の作用を抑える薬剤をみつけることが、新しい糖尿病治療の開発につながるという。
成果は、金沢大学医薬保健学総合研究科の御簾博文特任助教、医薬保健研究域医学系恒常性制御学の篁俊成准教授、同金子周一教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国糖尿病学会誌「Diabetes」オンライン版に1月29日付で発表された。
金沢大学大学院医学系研究科恒常性制御学講座
LECT2 functions as a hepatokine that links obesity to skeletal muscle insulin resistance(Diabetes 2014; doi: 10.2337/db13-0728)
[ Terahata ]