インスリンを分泌する膵臓の膵島細胞と、骨髄から培養した「間葉系幹細胞」を融合させた新たな細胞を作り、糖尿病のラットに移植してインスリン分泌させることに京都大学の角昭一郎准教授(再生医療)の研究チームが成功した。米科学誌「プロスワン」に28日付けで発表した。
インスリンを産生する膵島を膵臓から分離し糖尿病患者に移植する「膵島移植」は、血糖を安定させるために効果的な治療法とされている。しかし、インスリン療法からの離脱を目標とした場合、複数回の移植が必要になるなど、長い期間にわたり維持させるのは現在の技術では困難だった。
研究チームは、増殖能力が強い強靱な「間葉系幹細胞」に注目。ラットの膵臓から分離した膵島細胞と、大腿骨から骨髄を採取して培養した間葉系幹細胞に電気的な刺激を与え、融合させた。
作成した1000個の融合細胞を糖尿病のラットに移植したところ、血糖は少しずつ低下していき、3ヵ月後には他の糖尿病ラットに比べてあきらかに低い値まで低下した。
再生医療を目的に研究が進められている幹細胞は、いろいろな細胞や組織に変化するもとになる特殊な細胞だ。再生医療を目的に研究が進められている幹細胞には、大きく分けて3つの種類がある。ヒトの受精卵の胚から作る「胚性幹細胞(ES細胞)」、ヒトの皮膚などの細胞に遺伝子を組み込む「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」。そして、骨髄や皮下脂肪から採取される「間葉系幹細胞」だ。
このうち間葉系幹細胞は、骨や血管、筋肉などの組織に分化できることは以前から知られていたが、最近の研究によって心臓や肝臓、膵臓などの組織にも分化することが分かってきた。人工的に作られた幹細胞(ES細胞やiPS細胞)には腫瘍を作りやすいという欠点があるが、間葉系幹細胞はそうした危険性が低いことから、多くの可能性を秘めた細胞とされている。
研究チームは、融合細胞では間葉系幹細胞核が膵島細胞と同じようにリプログラミングされる一方で、膵島細胞の核も間葉系幹細胞とおなじようにリプログラミングされていることも確認した。融合細胞は、膵島機能と間葉系幹細胞の特徴もあわせもった新たな細胞であるとみている。
研究結果から、膵島だけの移植よりインスリン分泌が長く続き効果が高く、より少ない膵島細胞を利用して効果的な糖尿病治療が行える可能性が出てきた。
膵島細胞と間葉系幹細胞の融合細胞を用いた糖尿病治療実験に成功(京都大学、2013年5月29日)
Electrofusion of Mesenchymal Stem Cells and Islet Cells for Diabetes Therapy: A Rat Model(PLoS ONE)
[ Terahata ]