日本糖尿病協会東京都支部が共催し「インスリンフォーラム 2013」が2月に都内で開催され、山田悟・北里研究所病院糖尿病センター長が、糖質制限食をテーマに講演した。
炭水化物の摂取量を極端に減らす「糖質制限食(低炭水化物食)」は、短期的には減量や血糖コントロールの改善につながるとして、減量や生活習慣病の食事療法のひとつとして注目されている。しかし、効果や安全性については、あきらかになっていない点が多い。
日本糖尿病学会(JDS)が公認している糖尿病食事療法はカロリー制限食だ。「『食品交換表』をもとにしたカロリー制限食の臨床的有効性はあきらかです。しかし、社会生活を営むなかで、カロリー制限を継続できない患者も少なからずおられます。入院中は実践できても、外来に移行した途端にできなくなってしまう患者さんも少なくありません」と山田先生は話す。
一方で、米国糖尿病学会(ADA)が2007年に発表したガイドラインでは、カロリー制限食と糖質制限食がともに短期の体重コントロールに有用であることが示された。同ガイドラインでは「糖質制限食は短期的には体重減を引き起こし、減量の維持・管理は脂質制限食と同等だ。長期的な影響についてはまだよくわかっていない」と注意が加えられている。
糖質制限食は、かつてはダイエット法のひとつとして知られるにとどまっていたが、イスラエルの研究グループが2008年に発表した「DIRECT試験」のランダム比較試験をきっかけに認知されるようになった。この調査は、40〜65歳でBMI27以上の人、2型糖尿病の人、冠動脈疾患の人、合計322人を対象とした食事療法についての介入試験だ。
対象者は、▽脂質制限食群(カロリー 男性1,800kcal、女性1,500kcal、脂質比率が全エネルギーの30%以下)、▽地中海食群(カロリー 男性1,800kcal、女性1,500kcal、脂質比率が全エネルギーの35%以下)、▽糖質制限食群(カロリー制限なしで糖質が120g/日以下)に振り分けられた。
2年間の介入の結果、もっとも体重減量に有効だったのは糖質制限食群だった。糖質制限食群では、トリグリセライドやHDLコレステロールに対しても改善が顕著だった。
「食事療法でまず勧められるのはカロリー制限食であり、それがうまくいっていないときに糖質制限食を検討するという位置づけになると考えられます。しかし、糖質制限食の歴史は浅く、解決すべき課題も残されており、今後は日本でもエビデンスの集積が求められています。注意しなければならないのは、この10年間で糖尿病治療のための栄養バランスは、脂質制限食から糖質制限食に変わってきていることです」と山田先生は強調する。
課題のひとつは、糖質制限食は専門家の指導のもとで行う必要があることだ。糖質制限食をはじめると、タンパク質の摂取が増えることが多く、顕性腎臓病以上の腎症のある患者は不適応となると考えられている。また、血中脂質プロファイルや尿素窒素濃度で腎機能・肝機能をチェックするのが望ましいという。
糖質だけを制限する食事療法を行うと、糖質以外からのカロリー摂取量が過剰になり悪影響を及ぼすのではないかという懸念もある。これについて山田先生は「実際に糖質制限食を行ってみると、糖質制限によりカロリー摂取量が増えるということはないと考えます」と答えた。DIRECT試験でも、糖質制限食におけるカロリー摂取量はカロリー制限食に比べると多かったが、導入前に比べると低下したという。
東京都糖尿病協会[(社)日本糖尿病協会 東京都支部]
Nutrition Recommendations and Interventions for Diabetes A position statement of the American Diabetes Association
(Diabetes Care, January 2007, vol.30 no.suppl 1, S48-S65)
Macronutrients, Food Groups, and Eating Patterns in the Management of Diabetes
A systematic review of the literature, 2010
(Diabetes Care, February 2012, vol.35 no.2, 434-445)
[ Terahata ]