脳の神経細胞の数は、生まれたときが一番多く、加齢とともに減っていく。脳中では神経細胞(ニューロン)が複雑な神経ネットワークを形成している。年を重ねるとこのネットワークは減少し、脳が萎縮していく。しかし生活習慣を改善することで、脳萎縮を最小限に抑えられることがわかってきた。もっとも有効な対策は、ウォーキングなどの適度な運動を習慣として行うことだという。
運動が老化から脳を守る
加齢に伴う肉体や精神の衰えを抑え、健康に保つための対策をさぐる研究が、世界中で活発に行われている。年齢を重ねるごとに体と心の能力は自然に衰えはじめる。しかし運動を活発に行い、家庭や地域社会で社会的な交流を保ち、新しいことに興味をもちスキルをみがくことが、老化を防ぐと考えられている。
スコットランドのエディンバラ大学の研究チームは、1936年生れのスコットランド人638人の医療記録を検討し、70歳の時点でどれだけ精神的な活動や社会的な活動に従事しているか、運動を習慣として行っているかなどをアンケート調査した。参加者は、家事や軽い散歩、競技などの激しい練習まで、週にどれだけ運動に従事しているかを報告した。
73歳の時点で、脳のMRI(核磁気共鳴画像法)検査を行い、白質の変化を調べた。白質は神経細胞間の電気信号を運ぶ神経繊維の部分で、脳のさまざまな部位をつなげる役割がある。研究者は、被験者の白質の容量と生活習慣との関連を検討した。
その結果、白質の減少がもっとも少なかったのは、運動を習慣として行っている人だった。「ウォーキングを週に数回行ったり、体操を続けていた70歳代の高齢者では、脳萎縮が減少しており、脳の老化を示す徴候も少なかった」とエディンバラ大学老年期認知症センターのAlan Gow氏は話す。
一方で、精神的な活動や社会的な活動に従事している人は脳の衰えが少ないとみられていたが、実際にMRI検査を行ってみると改善は認められなかった。
バンクーバーで7月に開催されたアルツハイマー病学会国際会議で発表された4件の研究でも、ウォーキングなどの有酸素運動や、軽いウエイトトレーニングなどの運動を習慣として行った高齢者ほど、記憶力の衰えが少ないことが示された。適度なウォーキングが認知能力の低下を防ぐことを示した研究も発表された。
なぜ運動に脳を保護する作用があるのか不明の点も多いが、「有酸素運動を含む身体活動を習慣として行うことで心臓のポンプ作用が活発になり、脳に血液が十分にいきわたりニューロンが活性化しやすくなるからだろう」と研究者は説明している。
「脳の健康を維持するために、運動をすることは心と体の両面で有益であることが示唆された。運動は、加齢にともない増えていく心疾患やがんなどの危険性も低下させる。運動をはじめるのが遅すぎるということはない。ただ歩くだけでも脳に良い効果がもたらされる。早足で買い物に出かけたり、ガーデニングに取り組んだり、マラソンに参加するなどして、適度な運動を毎日の生活に取り入れるべきだ」とGow氏は述べている。
Exercise for brain health, study suggests(エディンバラ大学 2012年10月23日)
[ Terahata ]