マウスから作製されたiPS細胞から作った、神経細胞などに分化する能力のある神経堤細胞を移植し、糖尿病多発神経障害(DPN)を改善することに、名古屋大学の研究チームが成功した。iPS細胞を利用すれば、有効な治療法がない進行したDPNの治療や、糖尿病合併症の再生医療につながる可能性があるという。
両足のしびれ、冷感、神経痛などを伴う糖尿病多発神経障害(DPN)には、高血糖から引き起こされる代謝障害や血流障害が大きく関わっている。血糖コントロールを改善すれば発症や進展を抑えられるが、進行すると知覚が低下し、放置すると細菌感染から足潰瘍や足壊疽を起こし、足を切断しなければならないケースもある。
再生医療の分野で注目されているiPS細胞は、糖尿病合併症の治療に役立てられる可能性がある。成人では血管や神経の変性が完成しているため、DPNが進行すると治療するのは難しいが、再生医療が実現すれば変性した組織を修復できると期待されている。
名古屋大学大学院医学系研究科の磯部健一教授らの研究チームは、iPS細胞から作った神経堤細胞が、脊髄に損傷があるマウスの運動機能の改善に有用であることを実験で確かめた。
研究チームは、従来の治療法では進行したDPNへの効果を期待できないことから、新たな治療法として神経堤様(NCL)細胞に注目した。このNCL細胞を21ヵ月齢の老化マウスから作製したiPS細胞より誘導し、糖尿病マウスの下肢に移植した。
神経障害の再生医療では、移植した細胞が変性した組織の再生に直接関わっているか、つまり「細胞置換作用」に成功したかを見極めることが重要となる。今回の実験では、移植したNCL細胞がサイトカインを分泌しており、血管神経や神経系細胞へ分化していることが確認できた。また、細胞を移植したマウスの運動機能が改善しており、iPS細胞を利用すると十分な治療効果を発揮することが確かめられた。
研究チームは「iPS細胞から作った細胞を移植すると、神経障害を改善する可能性を期待できる」と指摘。今後、有効な治療法がない糖尿病神経障害に対するiPS細胞を用いた再生医療の臨床への応用や、有効性・安全性の確立に向け、研究を行っていくという。
名古屋大学
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[ Terahata ]