日本動脈硬化学会は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版」を公表した。国内外の臨床研究で得られた新たなエビデンスを取り込み、5年ぶりに改訂した。
新ガイドラインでの主要な変更点は次の通り
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- 広く普及している「高脂血症」という疾患名を「脂質異常症」に置き換える方針を打ち出した。
- 総コレステロール値を予防や診療の基準にするのをやめた。
- 代わりに、LDLコレステロール(LDL-C)値と、HDLコレステロール(HDL-C)値をそれぞれ別々に設定した。
これらに伴い、ガイドライン中にある「高脂血症の診断基準」を「脂質異常の診断基準」に改めた。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
高LDLコレステロール血症 | LDLコレステロール | 140mg/dL以上 |
低HDLコレステロール血症 | HDLコレステロール | 40mg/dL未満 |
高トリグリセライド血症 | トリグリセライド | 150mg/dL以上 |
この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。
薬物療法の適応に関しては他の危険因子も勘案し決定されるべきである。
LDL-C値は直接測定法を用いるかFriedewaidの式で計算する。
[LDL-C]=[総コレステロール(TC)]−[HDL-C]−[トリグリセライド]×1/5
(TG値が400mg/dL未満の場合)
TG値が400mg/dL以上の場合は直接測定法にてLDL-C値を測定する。
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従来のガイドラインでは、総コレステロール、LDL-C、中性脂肪のいずれかが基準より高いか、HDL-C値が基準より低い場合を「高脂血症」と呼び治療の対象としてきた。総コレステロール値が高いと冠動脈疾患の発生リスクが高まると考え、総コレステロール値 220mg/dL以上を「異常」としてきた。
しかし、発生リスクが高いのはいわゆる悪玉といわれるLDL-C値の高い人で、逆に善玉といわれるHDL-C値は低いと良くないことがあきらかになった。また、LDL-CとHDL-Cを含む総コレステロールだけでは、HDL-Cが高い人を含む場合があり、リスクを正確に知ることができない。
さらに、HDL-C値が低い場合も「高脂血症」と呼ぶのは適当でないので、今回の改定では病名が「脂質異常症」に変えられた。
糖尿病も危険因子
糖尿病は、動脈硬化性疾患の危険因子となる。
ガイドラインでは、糖尿病がある場合では、他に危険因子がない場合でも、次の理由で“高リスク”に分類される。
- 2型糖尿病患者数の急増。
- 日本人では脳梗塞よりも少ない冠動脈疾患(心筋梗塞など)の頻度が、糖尿病患者では脳梗塞と同等かそれ以上に高くなる。
- 糖尿病患者の冠動脈疾患を予防するための高血糖改善の効果が、まだ十分に確かめられていない。
また、耐糖能異常(糖尿病
予備群)も、脳梗塞や冠動脈疾患の発症率を高めることから、危険因子として位置づけられる。
生活習慣改善の重要性
治療目標については、一次予防(心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性の病気を起こさないための治療)と二次
予防(動脈硬化性の病気を再発させないための治療)に二分した。
一次予防では、脂質異常以外の高血圧、糖尿病などの危険因子を考慮し、生活習慣の改善を主体とする治療を求めた。危険因子の数により低リスク、中リスク、高リスクに三分したうえで、それぞれ管理目標を設
定。
薬物治療の基準については「生活習慣の改善を行ったあと、薬物治療の適応を考慮する」とし、「3〜6ヵ月間、生活習慣の改善を行ったにもかかわらず、LDL-C管理目標値が達成できない場合」と明記した。
一方、動脈硬化性の病気の発症リスクが高く、二次予防が必要な患者については、生活習慣の改善とともに薬物治療を求め
た。
リスク別脂質管理目標値
治療方針の原則 | カテゴリー | 脂質管理目標値 (mg/dL) |
一次予防 まず生活習慣の改善を行った後、薬物治療の適応を考慮する | | LDL-C以外の主要危険因子 | LDL-C | HDL-C | トリグリセライド |
I (低リスク群) | 0 | 160未満 | 40以上 | 150未満 |
II (中リスク群) | 1〜2 | 140未満 |
III (高リスク群) | 3以上 | 120未満 |
二次予防 生活習慣の改善とともに薬物治療を考慮する | 冠動脈疾患の既往 | 100未満 |
日本動脈硬化学会「動脈硬化疾患予防ガイドライン2007年版」より |
日本動脈硬化学会
[ Terahata ]